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第三話
消えるマギカ
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「んぐっ…かはっ!」
謁見の間に戻るとマギカ姫が大きな男の人に片手で首を絞められている。この人、ウル様と同じくらい体が大きい。
周りには兵士さんたちが何人も倒れていた。
槍や盾があちこちに散らばっている。
これだけの人数をたった一人で。
「マギカを離せ!!」
ナギが強力な魔法を繰り出す。
それを男は容易くかき消して見せた。
この人何者?
「よう、お嬢ちゃん。俺と取引しろ」
私に言ってるの?
ウル様が唸る。
「マギカ姫を離しなさい」
「子犬には言ってねえ。
おい、嬢ちゃん!!」
ビリビリと空気が震えている。私は確信した。この人、多分人間じゃない。
私は前に出る。怖い。でも早くしなければマギカ姫もリズ姫も危ない。
「わかった。どうすればいいの?」
「夕夏!」
ウル様を見て私は頷いた。
「ウル様、大丈夫だよ」
「いい心がけだ。こっちに来い!」
「分かった」
男はようやくマギカ姫をおろした。
彼女が咳き込んでいる。無事でよかった。
「夕夏、行ってはいけません、ゴホッ」
マギカ姫は本当に強いお姫様だ。
私は男のそばに立った。
見上げると彼が笑う。
「嬢ちゃん、その日記帳を寄越せ」
「嫌」
「おい、痛い目を見なきゃ分からねえようだな」
ごきり、と彼が拳を鳴らす。
「私はあなたに絶対屈しない」
一回しかこの手は使えない。
でも今はそれしかみんなを助ける手段はない。
私は力を発動した。
辺りが光に包まれる。
今のうちにこの人をなるべく遠くへ飛ばす。
それが私の思いついた唯一の方法だった。
「夕夏」
遠くで誰かが私を呼んでいる。
目を開けるとマギカ姫がいた。
彼女の姿が透けて見える。
「マギカ姫…」
私は彼女に手を取られて起き上がった。
「夕夏、あなたの勇気に感謝します。ナギやリズもあなたは助けてくれた」
マギカ姫が笑う。
「ううん、あれしか私にはできなかったから」
それにしてもここはどこなんだろう?
辺りを見回してもわからない。
霧が濃い。
「夕夏、あまり時間は残されていません。
私の力をあなたに」
マギカ姫に額を触られる。
マギカ姫の記憶も入り込んでくる。
それは幼いリズ姫やナギの記憶だった。
マギカ姫はずっとトパエルを愛している。今もそれは変わらない。
「マギカ姫、教えてください。なんで過去の記録は消されてるのですか?」
マギカ姫が目を閉じる。
「私達は解いてはいけない秘密を知ってしまいました。ゆう…」
マギカ姫が消えていく。
「マギカ姫!!待って!!」
私は叫んだ。
「夕夏、大丈夫かい?」
私はウル様に頭を撫でられて気が付いた。
現実に戻ってきた?
私はウル様の膝の上に座らされていた。
「お姉ちゃん、マギカは?」
ナギに聞かれて私は首を横に振った。
彼女は消えてしまった。
リズ姫が泣いている。
「リズ姫、大丈夫ですか?」
立ち上がって彼女のそばに向かう。
「マギカが消えてしまった。あたしはこれからどうしたら」
彼女は魔力がないことをみんなに隠しているんだったっけ。
「リズ姫、大丈夫ですよ」
私は彼女の肩に手を置いた。もう片方の手でナギを示す。
「あなたには頼れる弟さんがいるじゃないですか」
「ナギ、あたしに力を貸してくれる?」
「あ、当たり前じゃんかよ」
まだぎこちないけど、それはだんだんなくなっていくだろう。
トパエルはきっと大丈夫だ。
でも、マギカ姫が消えてしまった理由はわからない。
あの男のこともだ。
きっとすぐに追ってくる。
私達には時間がない。
なんとか対策を練らなくては。
「夕夏、トパエルから出よう。
あの男がまた来る可能性があるからね」
「うん」
私はウル様の手を握った。
「二人共またね!」
「お姉ちゃん!ありがとう」
ナギがそう言ってくれてすごく嬉しかった。私は彼らに手を振ってトパエルを後にした。
謁見の間に戻るとマギカ姫が大きな男の人に片手で首を絞められている。この人、ウル様と同じくらい体が大きい。
周りには兵士さんたちが何人も倒れていた。
槍や盾があちこちに散らばっている。
これだけの人数をたった一人で。
「マギカを離せ!!」
ナギが強力な魔法を繰り出す。
それを男は容易くかき消して見せた。
この人何者?
「よう、お嬢ちゃん。俺と取引しろ」
私に言ってるの?
ウル様が唸る。
「マギカ姫を離しなさい」
「子犬には言ってねえ。
おい、嬢ちゃん!!」
ビリビリと空気が震えている。私は確信した。この人、多分人間じゃない。
私は前に出る。怖い。でも早くしなければマギカ姫もリズ姫も危ない。
「わかった。どうすればいいの?」
「夕夏!」
ウル様を見て私は頷いた。
「ウル様、大丈夫だよ」
「いい心がけだ。こっちに来い!」
「分かった」
男はようやくマギカ姫をおろした。
彼女が咳き込んでいる。無事でよかった。
「夕夏、行ってはいけません、ゴホッ」
マギカ姫は本当に強いお姫様だ。
私は男のそばに立った。
見上げると彼が笑う。
「嬢ちゃん、その日記帳を寄越せ」
「嫌」
「おい、痛い目を見なきゃ分からねえようだな」
ごきり、と彼が拳を鳴らす。
「私はあなたに絶対屈しない」
一回しかこの手は使えない。
でも今はそれしかみんなを助ける手段はない。
私は力を発動した。
辺りが光に包まれる。
今のうちにこの人をなるべく遠くへ飛ばす。
それが私の思いついた唯一の方法だった。
「夕夏」
遠くで誰かが私を呼んでいる。
目を開けるとマギカ姫がいた。
彼女の姿が透けて見える。
「マギカ姫…」
私は彼女に手を取られて起き上がった。
「夕夏、あなたの勇気に感謝します。ナギやリズもあなたは助けてくれた」
マギカ姫が笑う。
「ううん、あれしか私にはできなかったから」
それにしてもここはどこなんだろう?
辺りを見回してもわからない。
霧が濃い。
「夕夏、あまり時間は残されていません。
私の力をあなたに」
マギカ姫に額を触られる。
マギカ姫の記憶も入り込んでくる。
それは幼いリズ姫やナギの記憶だった。
マギカ姫はずっとトパエルを愛している。今もそれは変わらない。
「マギカ姫、教えてください。なんで過去の記録は消されてるのですか?」
マギカ姫が目を閉じる。
「私達は解いてはいけない秘密を知ってしまいました。ゆう…」
マギカ姫が消えていく。
「マギカ姫!!待って!!」
私は叫んだ。
「夕夏、大丈夫かい?」
私はウル様に頭を撫でられて気が付いた。
現実に戻ってきた?
私はウル様の膝の上に座らされていた。
「お姉ちゃん、マギカは?」
ナギに聞かれて私は首を横に振った。
彼女は消えてしまった。
リズ姫が泣いている。
「リズ姫、大丈夫ですか?」
立ち上がって彼女のそばに向かう。
「マギカが消えてしまった。あたしはこれからどうしたら」
彼女は魔力がないことをみんなに隠しているんだったっけ。
「リズ姫、大丈夫ですよ」
私は彼女の肩に手を置いた。もう片方の手でナギを示す。
「あなたには頼れる弟さんがいるじゃないですか」
「ナギ、あたしに力を貸してくれる?」
「あ、当たり前じゃんかよ」
まだぎこちないけど、それはだんだんなくなっていくだろう。
トパエルはきっと大丈夫だ。
でも、マギカ姫が消えてしまった理由はわからない。
あの男のこともだ。
きっとすぐに追ってくる。
私達には時間がない。
なんとか対策を練らなくては。
「夕夏、トパエルから出よう。
あの男がまた来る可能性があるからね」
「うん」
私はウル様の手を握った。
「二人共またね!」
「お姉ちゃん!ありがとう」
ナギがそう言ってくれてすごく嬉しかった。私は彼らに手を振ってトパエルを後にした。
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