上 下
38 / 45
その他

千晶と生配信

しおりを挟む
ジュワアアアとフライパンが叫ぶように音を立てる。この音を聞くと、大抵の人は腹が減ってしまう。千晶が作っているもの、それは生姜焼きだ。
今日スーパーに行ったら、たまたま大きな豚ロース肉を見つけたので、絶対に今夜は生姜焼きにしようと決めたのである。

真司も生姜焼きは大好きだ。千晶は予め作っておいた合わせ調味料とすりおろしておいた、たっぷりの生姜をフライパンに投入した。これだけで、何を作っているかすぐ分かる。肉に十分火が通ったのを確認して、千晶は火を止めた。
千切りキャベツを皿にたっぷり盛り、その上に出来たての生姜焼きをどさっとのせる。

「お、飯テロ用に写真撮るか」

そう言って真司がスマートフォンで写真を撮り始める。千晶はその姿に噴き出してしまった。

「真司さんはかなりのテロリストですね」

「ほとんどの確率でかなさんが釣れるからなw」

「かなさん…w」

思わず二人で肩を震わせて笑ってしまった。真司のテロ被害が甚大なのは千晶もよく知っている。
最近、真司は健康のためにレコーディングダイエットなるものを始めた。それをきっかけにSNSを始めてそこに記録をつけるようにしたのだ。
その記録を元に、真司と同じようにダイエットをしていたり、千晶が作った料理の写真が美味しそうだとほうぼうから反響があった。それに真司は驚いたようだが、今は慣れたらしい。
時折深夜にふざけて美味しそうな料理の写真を投稿する。それがまた反響があるのだった。

「食べましょうか」

「ああ。そういや今日、かなさんの初配信か」

「はい。声だけ出すみたいで緊張するって言ってました」

「…女の子に間違われるんじゃないか?」

「…俺が阻止します。千尋さんにも頼まれてますし」

「美少女二人組に間違われるんじゃないか?」

「…」

返す言葉が見つからなかった千晶だったが、気を取り直してご飯をよそうことにした。

「ご飯にします」

そう宣言する。真司もそれで切り替えられたようだった。二人でいただきますをする。

「かなさん。今日、なんのゲームするって?」

「はい。最近DLCが入ったばかりの狩猟ゲームです。かなさんは太刀を使ってるみたいですね」

「へー、見るの楽しみだな」

「はい」

生姜焼きはなかなか美味しく出来ていた。キャベツには和風ドレッシングをかける。

「美味いな、千晶。肉がでかくて特に美味い」

「良かった」

夕食の片付けを済ませて、千晶は壁に掛かっている時計を見上げた。すでに午後七時半を指している。これから先程取り込んだ洗濯物を畳んで、風呂に入れば、ちょうど配信の時間になりそうだ。千晶はよし、と自分に気合を入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

上から目線の氷結王子、取扱います

多田光希
BL
社会人である松原葵は、通勤電車の中で痴漢に遭うようになり、それが一週間ほど続いた時、男子高校生、林修平に痴漢から助けてもらう。しかし、お礼を言う葵に対し「お前、男のくせに自分の身も自分で守れないのか?バカじゃねぇの?」と、暴言を吐かれてしまう。葵は憤慨するが、それがキッカケとなり、強くなりたいと思い、空手を習い始める。空手を何とか続けていた葵だったが、その道場の師範の息子が実は、痴漢から助けてくれた高校生だったことを知る。しかし、修平は、実力があるにも関わらず、病気が発覚したために空手が出来なくなってしまった兄のことを思い、自身も空手に対する意欲を失くし、試合に出ることを一切辞めてしまっていた。葵は、そんな修平と偶然再会することになったものの、初めての出会いが最悪だったため、ずっと毛嫌いしていた。そんな苦手意識を抱えつつも、そのうち、修平との距離が少しずつ縮まって行き…

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

生徒会長が俺だけに甘えてくる話

天使の輪っか
BL
美しい見た目とは裏腹に厳しいことで有名な生徒会長、桐生雅人。 そんな彼は俺にだけ甘えてくる。 誰も知らない、俺だけの秘密。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

引きこもり王子を外に連れ出す方法

はやしかわともえ
BL
年末にお暇でしたらどうぞ。

処理中です...