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三章
三話・見つけて欲しい
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「…」
その日の夕方、ナオは何度も同じ映像を確認していた。
「お疲れーッス。隊長、まだやってんスか?本当お姉さん大好きだな」
ナオは彼に答えなかった。それどころか、ぎりり、と歯を食いしばる。
「サーラからお菓子を手渡しでもらうなんて!!しかもサーラの太ももの上に置いてあったお菓子を!!」
「あれ?これやべえやつか?」
部下がナオの怒りの原因に明らかに引いているがナオは気にしていない。だん、と拳を机に打ち付けた。
「許すまじ」
ナオは立ち上がった。いつものように太刀を確認する。
「モルド、片付け頼んでいい?」
「別にいいッスけど、どこ行くんスか?もうすぐ夜ッスよ?いくら隊長が強いったって暗がりじゃ危ないんじゃ?」
「イリシアから出ないよ」
それに部下のモルドはホっと息を吐いた。彼は何かと自分の心配をしてくれる。
「じゃあサクッと行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
ナオは走り始めた。
「ねえルビィ」
ナオが声をそっと掛けると、ルビィが姿を現す。彼女は隣を飛んでいたが遠慮なしにナオの肩に乗ってくる。
「やっぱりナオはすごいね。サーラもすごいけどナオは本当にニンゲンなの?」
精霊に人間かどうか問われるとは思わずナオは笑ってしまった。
「正真正銘の人間だよ。サーラの実の弟」
「ふふふ、サーラの読んでる小説にもそんな話が出てきたよ。お兄さんに恋しちゃうの」
「サーラは本当、そういう小説好きだなぁ」
「ねえナオ?大丈夫?」
ルビィの声音が固くなる。ナオにもその理由は分かっていた。太刀を瞬時に抜き、相手の攻撃を受け止める。
「ふむ、いい動き」
相手は初老の男だった。ならば、と彼は笑い姿を変える。現れたのは巨大な牙を持った虎だ。
「虎なんて所詮大きい猫ちゃんだから」
「ひえぇ、ナオー!!」
ナオがくるんと後ろに後退する。ナオから飛ばされそうになったルビィを優しく抱き留めて安全な場所に彼女を座らせた。
「ルビィ、頼むよ」
「あいあいさ」
ルビィが透明になる。
「ふむ、まさか虎にも怯えないとは。君は本当に人間か?」
「それ、今日二回目だよ」
虎からまた姿を変え人間の姿になる。その姿はまさにサーラに接触してきた人物だった。
「あんた、僕のサーラにちょっかい出すなんて、しかもお菓子までもらって」
ナオが恨みがましい視線を向けると、彼は首を傾げた。
「君は彼女の弟のはずだが、なぜそんなに怒るのだ?」
「へえ、僕のことも知ってるんだ。理由を言うなら、サーラは僕だけの姉様だからだよ」
「ふむ。人間とは改めて複雑だな」
彼が笑う。ナオは太刀を鞘に戻した。彼から攻撃の意を感じなかったからだ。
「ねえ、あんたがお父様って呼ばれてる神?」
「おやおや、そこまで分かっているのかい?」
ははは、と彼が笑う。ナオは彼を真正面から見つめた。
「あんた、見つけて欲しかったから出てきたんでしょ?どういうつもりなの?」
「私にも用事が色々あってね、世界を巡らなければならない。それに私に出来ることはごく僅かだ」
彼はそれ以上喋りそうにない、とナオは潔く諦めた。
「分かった。でも急に攻撃してくるのはやめてよね?僕じゃなかったら5人は死んでるよ」
「善処しよう」
男はぱ、と一瞬の間に姿を消していた。
「ルビィ」
ナオが声を掛けると彼女はぷるぷると震えていた。
「お…お父様だった…ルビィ、全然気付かなかった」
「仕方ないよ、気配を変えられるんでしょ?」
「お父様と戦って無事でいるニンゲンなんて滅多にいないのに…ナオ、しゅごい」
「まあ一応、隊長だしね?とりあえず宿舎に帰ろう。シンに連絡しなきゃ」
「うん」
その日の夕方、ナオは何度も同じ映像を確認していた。
「お疲れーッス。隊長、まだやってんスか?本当お姉さん大好きだな」
ナオは彼に答えなかった。それどころか、ぎりり、と歯を食いしばる。
「サーラからお菓子を手渡しでもらうなんて!!しかもサーラの太ももの上に置いてあったお菓子を!!」
「あれ?これやべえやつか?」
部下がナオの怒りの原因に明らかに引いているがナオは気にしていない。だん、と拳を机に打ち付けた。
「許すまじ」
ナオは立ち上がった。いつものように太刀を確認する。
「モルド、片付け頼んでいい?」
「別にいいッスけど、どこ行くんスか?もうすぐ夜ッスよ?いくら隊長が強いったって暗がりじゃ危ないんじゃ?」
「イリシアから出ないよ」
それに部下のモルドはホっと息を吐いた。彼は何かと自分の心配をしてくれる。
「じゃあサクッと行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
ナオは走り始めた。
「ねえルビィ」
ナオが声をそっと掛けると、ルビィが姿を現す。彼女は隣を飛んでいたが遠慮なしにナオの肩に乗ってくる。
「やっぱりナオはすごいね。サーラもすごいけどナオは本当にニンゲンなの?」
精霊に人間かどうか問われるとは思わずナオは笑ってしまった。
「正真正銘の人間だよ。サーラの実の弟」
「ふふふ、サーラの読んでる小説にもそんな話が出てきたよ。お兄さんに恋しちゃうの」
「サーラは本当、そういう小説好きだなぁ」
「ねえナオ?大丈夫?」
ルビィの声音が固くなる。ナオにもその理由は分かっていた。太刀を瞬時に抜き、相手の攻撃を受け止める。
「ふむ、いい動き」
相手は初老の男だった。ならば、と彼は笑い姿を変える。現れたのは巨大な牙を持った虎だ。
「虎なんて所詮大きい猫ちゃんだから」
「ひえぇ、ナオー!!」
ナオがくるんと後ろに後退する。ナオから飛ばされそうになったルビィを優しく抱き留めて安全な場所に彼女を座らせた。
「ルビィ、頼むよ」
「あいあいさ」
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「それ、今日二回目だよ」
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「君は彼女の弟のはずだが、なぜそんなに怒るのだ?」
「へえ、僕のことも知ってるんだ。理由を言うなら、サーラは僕だけの姉様だからだよ」
「ふむ。人間とは改めて複雑だな」
彼が笑う。ナオは太刀を鞘に戻した。彼から攻撃の意を感じなかったからだ。
「ねえ、あんたがお父様って呼ばれてる神?」
「おやおや、そこまで分かっているのかい?」
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「うん」
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