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三章

二話・言伝

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「…三柱ねぇ」

ナオがカラリとグラスを揺らして中の氷を鳴らす。アイスコーヒーはブラックで、それがナオのこだわりだ。アデスにコーヒー豆の輸入を安定させたのは他でもないアムデルである。それにより新しい企業が出来たり、外国からの企業がアデスに参戦するなどアデスの経済がより活発化した。不思議なことに、アデスの歴史は書物などにあまり残されておらず、謎が多い。専門家が言うには、やはり神々が存在していたからなのではないかと仮説が立てられている。今回の件は国のトップシークレットであるが、神々がいることが実証されてしまったことになる。シンはどこまでこの事実をあやふやにできるか一生懸命考えている所だ。ともかく、とシンはナオに現状報告をした。

「サーラによると、無事に三柱に協力してもらえることになったんだって。僕も気になって母さんに尋ねてみたんだけど、その三柱は昔から謂れのある神々みたい」

「僕もちらっとなら部長に聞いたことがあるよ。にしても、その三柱とサーラが接触したなんて…」

ナオがため息を吐いている。シンはその様子に不安になった。

「良くなかったかな?」

「ううん、僕の姉様すごすぎ、ってだけ」

「そっちかい!」

思わず椅子ごと転がりそうになったシンだがなんとか踏みとどまる。

「で、サーラが僕に探して欲しい人って?」

「うん、サーラが言うには祭りの当日の午前11時頃、長身の男性から話しかけられたんだって。お菓子をあげた後すぐに姿が見えなくなって不思議に思ったみたい」

ナオはそこまで聞いて閃いた。あの時、サーラは探していた。

「もしかして」

シンも頷く。二人は同時に言っていた。

「それがお父様っていう神かもしれない?!」

「分かった。防犯カメラの映像を徹底的にチェックしてみる。夏祭りの様子は準備の時からずっと残ってるからね」

ナオは立ち上がった。シンが呟く。

「もしかしたらお父様と呼ばれている神もわざとサーラに接触しにきたんじゃないかな?」

「なんでまたそんな遠回りな」

「神々だから…じゃないかな」

ナオはイリシアに向けて走っていた。頭の傷はすっかりよくなっている。

(神々だから…か)

シンの言葉が今回の件の真意を突いている気がして、頭の中でぐるぐると回っていた。神々は概念だ。概念という、世界を維持する強力な力を持つが、それを人間のように意図をもって行使できるかというと疑問が残る。もし、神々が意図をもって力が振るえるのなら、罪のあるものはとっくにいなくなっており、人間の繁栄すらも難しいはずだ。神々だからこそ人間の肉体の力を借りて、何かを成し得ている。シンはそう言いたかったのだろうか。ハンマーやナナセも結局人間の肉体という力を借りてこの世に接触しているのだから、お父様という神もその例に則って考える方が自然だろう。ナオは更に走るスピードを速めた。サーラの言っていた人物を必ず見つける。そう心に決めて。
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