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一章

五話・力

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夜、サーラは一人、城の回廊から月を見ている。現場に出向いたナオのことが心配だった。彼のことだ、多少の無茶は厭わないだろう。姉として何か自分に出来ることはないものかと思う。 

(やはり私にはこれしか…)

サーラはその場にそっと座り込んだ。緩く目を閉じる。サーラにはある力があった。人はそれを「夢見」という。サーラは夢の中に堕ちていた。大事な人を守りたいというのは万人共通である。目を開けると、サーラは静かな山間にいた。サーラの意識だけがここにある。サーラの力は正確には未来を見ることが出来る夢見だけではない。現実に陰から干渉できる誰にもなし得ないような特別なものである。ここは、ナオの言っていたイリシアの山岳地帯だろうか。風が吹いて木々が音を立ててゆれている。賊が本来であればいるはずだが、今は姿が見えない。サーラの姿は周りには見えない。サーラはそれでも警戒しながら山を登り始めた。
ふとすると、目の前に長い耳の何かがふよふよ弾みながら歩いてくる。それの周りはほのかに明るい。

「来てくれたのか」

サーラが声を掛けるとそれは更に弾んだ。サーラの友達である精霊の一つである。

「賊がどこにいるか知らないか?ナオが今、ここにいるんだ」

サーラの言葉に精霊が前へ進み出す。どうやら知っているらしい。サーラは精霊の後を付いていった。でこぼこした山道は歩きづらい。まだ履き慣れた靴であったことが幸いだった。草の匂い、そしてさぁぁと風が吹いている。その風に木々が揺れる。サーラは遠目に灯りを見つけて息を呑んだ。誰かが野営をしているようだ。精霊が遠くを見渡せるよう灯りを灯してくれる。サーラはその場で窺った。日に焼けた体格のいい男たちが火の周りを囲んでいる。どうやら酒を飲んでいるようだ、とサーラは判断した。肉や魚を食べたり、酒を飲んでいる。上機嫌な彼らの周りには酒壺があちこちに転がっている。これだけあれば相当な量を飲んでいるだろう。

「ボス、次はアデスにでも行きますかい?」

「あぁ。いいな、そろそろ夏祭りがある。沢山金品を奪えるぞ」

サーラはそれに恐ろしくなった。アデスに遊びに来てくれる人たちをこいつらは襲おうとしているのだ。ふ…と巨大な影が現れた。サーラは振り返った。だが何もない。サーラが男たちの方へ向き直ると男たちはただの屍と化していた。あまりの無惨な様にサーラは悲鳴を上げた。どうしようかと思ったが、ここは夢の中だ。早く現実に戻らなければ。サーラは気が付くとアデス城に戻っていた。シンはきっと部屋にいる。サーラは慌てて駆け出した。
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