50 / 52
番外編SS
ハッピーバースデー②
しおりを挟む
「全員揃ったね!」
中間考査も無事に終わり、いよいよ約束の日曜日。
4人は出掛ける支度を整えていた。あとは出発するだけだ。
「風殿が欲しいというフィギュアはどんなものなんだ?」
「これこれ」
風がスマートフォンの画面を疾風に見せている。それは武器を構えた凛々しい女性戦士のフィギュアだった。
「カッコいいな」
「それ、見てみたけどめちゃくちゃ出来がいいよな。
確か有名な造型師さんなんだっけ?」
「そうなんだよ!克樹、知ってるの?」
興奮した風に克樹が笑う。彼は樹を指差した。
「うん、いっくんから聞いた」
「俺もフィギュア好きだからさ」
樹が言うと、風にぎゅっと両手を掴まれる。
そのままぶんぶん振られた。
「樹はよく分かってる!」
「ははは」
「ほらほら、早速しゅっぱーつ!」
克樹が風の背中を押す。
4人は電車に乗り込んでいた。
中は冷房が効いていて涼しい。
いよいよ夏が来たという気候になってきた。
「都内のゲームセンターなんて初めて行くよ」
風が少し緊張した面持ちで言う。
「俺もだ」
疾風もあまりゲームセンターに行ったことがないらしい。
「大丈夫!楽しいよ!」
克樹が明るく言う。
ちらり、と樹に目配せしてきたので、樹はそっと頷いていた。
✣✣✣
「わ…あった」
風が1台のクレーンゲームの前で立ち止まる。
もう在庫があまりない。
それだけ人気な作品なのだろう。
このゲームの攻略法は一つだ。
少しずつ箱をずらしていって下に落とす。
取るまでに金はかかるが比較的良心的な方だ。
ゲームの中には取らせる気がないものもある。
「風、まずやってみる?」
風はこの日のために節約していたようだ。
今日は万全の状態でここまで来ている。
「うん。アームの調子見たいしね」
風がゲーム機に百円玉を放る。
アームは一回動かしたら終わりだ。
風は絶妙な位置にアームを置いた。
上手くフィギュアの箱がずれる。
「わぁ、風上手いんだー!」
樹が隣で見ながら言うと風は照れたように笑った。
「こうゆうの割と得意でね」
風は次は500円玉を放り込んだ。一気に取りに行くことにしたらしい。
『ねえ、いっくん。疾風が他のゲーム見たいらしいから別行動しようか?』
そっと克樹に言われて樹は頷いた。
『じゃあ後でね!』
『了解!』
克樹は疾風の元に向かったらしい。風の方に目を戻すと、もうすぐ景品が取れそうだ。
「わー、風。もうちょいじゃん」
「ここからどうしたらいいんだろう。久しぶりでやり方忘れてるー」
むむむ、と風が悩んでいる。
樹は前に克樹がフィギュアを取ってくれた時のことを思い出していた。
確か克樹はあの時、このあたりまでずらしたら、奥を狙って持ち上げそのまま落としていた。
残り回数は二回。ここは大事だ。
樹は改めて景品の位置を確認した。
「風、一回箱を持ち上げてみない?」
「分かった。やってみる」
風が的確な操作で箱をアームで持ち上げる。
すると思いの外、箱が動いた。
グラリ、と箱が垂直になり下に落ちる。
ぽすん、と音がした。
「わ!!取れちゃった!」
「風、すごいー!」
風が嬉しそうにフィギュアを抱えている。
「あれー、取れたの?」
克樹と疾風がやってくる。
どうやら一通り中を見たら満足したようだ。
風が取れたフィギュアを掲げている。
「うん!取れたよ!」
「あと一回出来るじゃん。やっていい?」
克樹の言葉に風は頷く。
克樹はボタンを押して操作した。
上手く箱の隙間にアームを入れる。
ずるずると箱が引きずられてくる。
そして下に落ちた。
「え?」
風が固まっている。
「はい、風ー。保管用出来たよー」
「あ…ありがとう?」
「どういたしましてー」
克樹が笑っている。
(かっちゃんはやっぱりカッコいい)
樹はそんな兄の姿にドキドキしていた。
中間考査も無事に終わり、いよいよ約束の日曜日。
4人は出掛ける支度を整えていた。あとは出発するだけだ。
「風殿が欲しいというフィギュアはどんなものなんだ?」
「これこれ」
風がスマートフォンの画面を疾風に見せている。それは武器を構えた凛々しい女性戦士のフィギュアだった。
「カッコいいな」
「それ、見てみたけどめちゃくちゃ出来がいいよな。
確か有名な造型師さんなんだっけ?」
「そうなんだよ!克樹、知ってるの?」
興奮した風に克樹が笑う。彼は樹を指差した。
「うん、いっくんから聞いた」
「俺もフィギュア好きだからさ」
樹が言うと、風にぎゅっと両手を掴まれる。
そのままぶんぶん振られた。
「樹はよく分かってる!」
「ははは」
「ほらほら、早速しゅっぱーつ!」
克樹が風の背中を押す。
4人は電車に乗り込んでいた。
中は冷房が効いていて涼しい。
いよいよ夏が来たという気候になってきた。
「都内のゲームセンターなんて初めて行くよ」
風が少し緊張した面持ちで言う。
「俺もだ」
疾風もあまりゲームセンターに行ったことがないらしい。
「大丈夫!楽しいよ!」
克樹が明るく言う。
ちらり、と樹に目配せしてきたので、樹はそっと頷いていた。
✣✣✣
「わ…あった」
風が1台のクレーンゲームの前で立ち止まる。
もう在庫があまりない。
それだけ人気な作品なのだろう。
このゲームの攻略法は一つだ。
少しずつ箱をずらしていって下に落とす。
取るまでに金はかかるが比較的良心的な方だ。
ゲームの中には取らせる気がないものもある。
「風、まずやってみる?」
風はこの日のために節約していたようだ。
今日は万全の状態でここまで来ている。
「うん。アームの調子見たいしね」
風がゲーム機に百円玉を放る。
アームは一回動かしたら終わりだ。
風は絶妙な位置にアームを置いた。
上手くフィギュアの箱がずれる。
「わぁ、風上手いんだー!」
樹が隣で見ながら言うと風は照れたように笑った。
「こうゆうの割と得意でね」
風は次は500円玉を放り込んだ。一気に取りに行くことにしたらしい。
『ねえ、いっくん。疾風が他のゲーム見たいらしいから別行動しようか?』
そっと克樹に言われて樹は頷いた。
『じゃあ後でね!』
『了解!』
克樹は疾風の元に向かったらしい。風の方に目を戻すと、もうすぐ景品が取れそうだ。
「わー、風。もうちょいじゃん」
「ここからどうしたらいいんだろう。久しぶりでやり方忘れてるー」
むむむ、と風が悩んでいる。
樹は前に克樹がフィギュアを取ってくれた時のことを思い出していた。
確か克樹はあの時、このあたりまでずらしたら、奥を狙って持ち上げそのまま落としていた。
残り回数は二回。ここは大事だ。
樹は改めて景品の位置を確認した。
「風、一回箱を持ち上げてみない?」
「分かった。やってみる」
風が的確な操作で箱をアームで持ち上げる。
すると思いの外、箱が動いた。
グラリ、と箱が垂直になり下に落ちる。
ぽすん、と音がした。
「わ!!取れちゃった!」
「風、すごいー!」
風が嬉しそうにフィギュアを抱えている。
「あれー、取れたの?」
克樹と疾風がやってくる。
どうやら一通り中を見たら満足したようだ。
風が取れたフィギュアを掲げている。
「うん!取れたよ!」
「あと一回出来るじゃん。やっていい?」
克樹の言葉に風は頷く。
克樹はボタンを押して操作した。
上手く箱の隙間にアームを入れる。
ずるずると箱が引きずられてくる。
そして下に落ちた。
「え?」
風が固まっている。
「はい、風ー。保管用出来たよー」
「あ…ありがとう?」
「どういたしましてー」
克樹が笑っている。
(かっちゃんはやっぱりカッコいい)
樹はそんな兄の姿にドキドキしていた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
会社を辞めて騎士団長を拾う
あかべこ
BL
社会生活に疲れて早期リタイアした元社畜は、亡き祖父から譲り受けた一軒家に引っ越した。
その新生活一日目、自宅の前に現れたのは足の引きちぎれた自称・帝国の騎士団長だった……!え、この人俺が面倒見るんですか?
女装趣味のギリギリFIREおじさん×ガチムチ元騎士団長、になるはず。
星は五度、廻る
遠野まさみ
キャラ文芸
朱家の麗華は生まれ落ちた時に双子の妹だったことから忌子として市井に捨てられ、拾われた先の老師に星読みを習い、二人で薬売りの店をきりもりしていた。
ある日、捨てた筈の父から、翠の瞳が見たいという皇帝の許に赴くよう、指示される。
後宮では先住の妃が三人いて・・・?
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉
クリム
BL
醜い容姿故に、憎まれ、馬鹿にされ、蔑まれ、誰からも相手にされない、世界そのものに拒絶されてもがき生きてきた男達。
生まれも育ちもばらばらの彼らは、不慮の事故で生まれ育った世界から消え、天帝により新たなる世界に美しい神王として『転生』した。
愛され、憧れ、誰からも敬愛される美神王となった彼らの役目は、それぞれの国の男たちと交合し、神と民の融合の証・国の永遠の繁栄の象徴である和合の木に神卵と呼ばれる実をつけること。
五色の色の国、五国に出現した、直樹・明・アルバート・トト・ニュトの王としての魂の和合は果たされるのだろうか。
最後に『転生』した直樹を中心に、物語は展開します。こちらは直樹バージョンに組み替えました。
『なろう』ではマナバージョンです。
えちえちには※マークをつけます。ご注意の上ご高覧を。完結まで、毎日更新予定です。この作品は三人称(通称神様視点)の心情描写となります。様々な人物視点で描かれていきますので、ご注意下さい。
※誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます。励みになりますです!
白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します
めぐめぐ
ファンタジー
※完結保証※
エクペリオン王国の国王レオンは、頭を打った拍子に前世の記憶――自分が井上拓真という人間であり、女神の八つ当たりで死んだ詫びとして、今世では王族として生まれ、さらにチート能力を一つ授けて貰う約束をして転生したこと――を思い出した。
同時に、可愛すぎる娘が【白雪姫】と呼ばれていること、冷え切った関係である後妻が、夜な夜な鏡に【世界で一番美しい人間】を問うている噂があることから、この世界が白雪姫の世界ではないかと気付いたレオンは、愛する家族を守るために、破滅に突き進む妻を救うため、まずは元凶である魔法の鏡をぶっ壊すことを決意する。
しかし元凶である鏡から、レオン自身が魔法の鏡に成りすまし、妻が破滅しないように助言すればいいのでは? と提案され、鏡越しに対峙した妻は、
「あぁ……陛下……今日も素敵過ぎます……」
彼の知る姿とはかけ離れていた――
妻は何故破滅を目指すのか。
その謎を解き明かし、愛する家族とのハッピーエンドと、ラブラブな夫婦関係を目指す夫のお話。
何か色々と設定を入れまくった、混ぜるな危険恋愛ファンタジー
※勢いだけで進んでます! 頭からっぽでお楽しみください。
※あくまで白雪姫っぽい世界観ですので、「本来の白雪姫は~」というツッコミは心の中で。
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる