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看病
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「んぅ…」
5月ももうすぐで終わりだ。
今日は日曜。樹は喉の違和感に気が付いた。
とにかく喉が痛い。体もなんとなく怠い。
「おはよう。樹」
「おばよゔ」
「わ、何その声!」
樹も自分の声の掠れ具合に驚いた。
「風邪引いたんだよ!今日は休んでいたほうがいいね」
「え…でぼ…」
樹は泣きそうになった。
今日は克樹がバックダンサーとして舞台に立つのだ。風と一緒に見に行く約束をしていた。
「仕方ないよ、風邪をこじらせたら困るでしょ?」
「うん…」
「とりあえず、ご飯を持って…」
コンコン、とドアがノックされる。
風がドアを開けると、渚がいた。
「おはよう、樹くんは?」
「ぜんばい…」
「!!」
樹の声に驚いたのは渚も一緒だったらしい。
「樹、風邪引いちゃったみたいで」
風が説明してくれる。
「そうか。多分疲れが出たんだろうね。
医務室に行ったほうがいい。そうだ、僕が抱えていこう。君は牡丹先生に伝えてくれるかい?」
「分かりました」
風が部屋を出て行く音がする。
「さぁ樹くん、行こうか。少し寒いかな?」
確かに今日は涼しい。
昨日の夜は暑いくらいだった。
風邪を引いた一因はそれもあるだろう。
渚が着ていたパーカーを脱いで、樹に着せてくれた。そしてひょい、と樹を抱き上げる。
「ずびばぜん」
「謝ることないよ。僕もこの時期はよく体調を崩していたから分かる」
渚にもそんな時があったのかと、樹は驚いた。
渚は寮にある医務室へ樹を連れて行ってくれた。医務室には、もう牡丹がいて一緒に診察に付き添ってくれた。
薬をもらい、樹は再び渚に抱えられて部屋に戻ってきた。
「あ、良かった。ご飯持ってきたよ!」
風が朝食を取りに行ってくれていたらしい。
「ありがどう。風、がっぢゃんの応援行っで」
「え…でも」
「それなら樹くんは僕が見ていよう」
風は困ったように樹と渚を見て、頷いた。
「分かりました。お願いします」
風が部屋を出て行く。
「樹くん、ご飯を食べようか」
「はい」
風が持ってきてくれたのは温玉がのったうどんだった。
温かいだしが沁み渡る。
だが飲み込む度に喉が痛むので、だんだん嫌になってしまう。
なんとか完食して薬を呑んだ。
「樹くん、これ」
渚が手渡してくれたのはマスクだった。
「喉が乾燥しないようにね」
「ありがどうございばず」
樹はマスクをして横になった。
渚が椅子に腰掛ける。
どうやら彼は本当に自分の看病をしてくれるつもりらしい。
優しい先輩だな、と樹は思った。
薬が効いてきたのかとても眠い。
樹はいつの間にか眠ってしまっていた。
夢を見た。
それは克樹の夢だった。
克樹に愛してもらうという、樹の願望がそのまま形になった夢だった。
克樹が愛の言葉を樹に向かって囁いてくれる。
ずっと願っていたはずなのに、違和感が消えない。
(これは…夢だ)
気が付くと渚の顔が目に入った。それに安心して涙が溢れる。やっと現実に帰ってこられた。
「大丈夫かな?うなされていたから心配だった」
渚が樹の涙を指で拭ってくれた。
「俺…」
「大丈夫」
渚が労るように樹の頬を撫でてくれた。
優しい手付きに樹は泣き出してしまった。
こうしてくれるのが、克樹だったらなんて思ってしまう自分が嫌だった。
「ごめんなさ…い」
渚に抱き締められる。
「謝らなくていい。大丈夫だよ。ほら、落ち着いて?」
樹は再び目を閉じた。
5月ももうすぐで終わりだ。
今日は日曜。樹は喉の違和感に気が付いた。
とにかく喉が痛い。体もなんとなく怠い。
「おはよう。樹」
「おばよゔ」
「わ、何その声!」
樹も自分の声の掠れ具合に驚いた。
「風邪引いたんだよ!今日は休んでいたほうがいいね」
「え…でぼ…」
樹は泣きそうになった。
今日は克樹がバックダンサーとして舞台に立つのだ。風と一緒に見に行く約束をしていた。
「仕方ないよ、風邪をこじらせたら困るでしょ?」
「うん…」
「とりあえず、ご飯を持って…」
コンコン、とドアがノックされる。
風がドアを開けると、渚がいた。
「おはよう、樹くんは?」
「ぜんばい…」
「!!」
樹の声に驚いたのは渚も一緒だったらしい。
「樹、風邪引いちゃったみたいで」
風が説明してくれる。
「そうか。多分疲れが出たんだろうね。
医務室に行ったほうがいい。そうだ、僕が抱えていこう。君は牡丹先生に伝えてくれるかい?」
「分かりました」
風が部屋を出て行く音がする。
「さぁ樹くん、行こうか。少し寒いかな?」
確かに今日は涼しい。
昨日の夜は暑いくらいだった。
風邪を引いた一因はそれもあるだろう。
渚が着ていたパーカーを脱いで、樹に着せてくれた。そしてひょい、と樹を抱き上げる。
「ずびばぜん」
「謝ることないよ。僕もこの時期はよく体調を崩していたから分かる」
渚にもそんな時があったのかと、樹は驚いた。
渚は寮にある医務室へ樹を連れて行ってくれた。医務室には、もう牡丹がいて一緒に診察に付き添ってくれた。
薬をもらい、樹は再び渚に抱えられて部屋に戻ってきた。
「あ、良かった。ご飯持ってきたよ!」
風が朝食を取りに行ってくれていたらしい。
「ありがどう。風、がっぢゃんの応援行っで」
「え…でも」
「それなら樹くんは僕が見ていよう」
風は困ったように樹と渚を見て、頷いた。
「分かりました。お願いします」
風が部屋を出て行く。
「樹くん、ご飯を食べようか」
「はい」
風が持ってきてくれたのは温玉がのったうどんだった。
温かいだしが沁み渡る。
だが飲み込む度に喉が痛むので、だんだん嫌になってしまう。
なんとか完食して薬を呑んだ。
「樹くん、これ」
渚が手渡してくれたのはマスクだった。
「喉が乾燥しないようにね」
「ありがどうございばず」
樹はマスクをして横になった。
渚が椅子に腰掛ける。
どうやら彼は本当に自分の看病をしてくれるつもりらしい。
優しい先輩だな、と樹は思った。
薬が効いてきたのかとても眠い。
樹はいつの間にか眠ってしまっていた。
夢を見た。
それは克樹の夢だった。
克樹に愛してもらうという、樹の願望がそのまま形になった夢だった。
克樹が愛の言葉を樹に向かって囁いてくれる。
ずっと願っていたはずなのに、違和感が消えない。
(これは…夢だ)
気が付くと渚の顔が目に入った。それに安心して涙が溢れる。やっと現実に帰ってこられた。
「大丈夫かな?うなされていたから心配だった」
渚が樹の涙を指で拭ってくれた。
「俺…」
「大丈夫」
渚が労るように樹の頬を撫でてくれた。
優しい手付きに樹は泣き出してしまった。
こうしてくれるのが、克樹だったらなんて思ってしまう自分が嫌だった。
「ごめんなさ…い」
渚に抱き締められる。
「謝らなくていい。大丈夫だよ。ほら、落ち着いて?」
樹は再び目を閉じた。
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