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「どうしたの?その指!!」

克樹が真っ青になっている。
こんなに動揺させるとは思わなくて、樹は驚いた。これで理由を言わないわけにはいかない。

「えーと、今日の授業で怪我しちゃって…そう、お裁縫の授業で」

克樹が恐る恐るといった様子で、樹の指に優しく触れてくる。

「いっくんの指、綺麗だからもったいない。痛くない?」

「べ、別に綺麗じゃないよ。ん、平気だよ」

あわあわしながら返したが、もう克樹は聞いていないようだ。

「もう怪我しないように気を付けてね?」

ぎゅっと両手を握られる。

「うん、気を付けるよ。ありがとう、かっちゃん」

樹は胸が温かくなった。優しい兄だ。

それから3人で夕飯を食べに食堂に向かった。
今日の献立は大きなメンチカツだ。
他に味噌汁やサラダも付いてくる。
デザートにカラメルソースのかかったプリンも付いてきた。

「わ!メンチカツ大好き!!」

克樹が目をキラキラさせている。
樹もメンチカツは大好きだ。
2人は好物がよく似ている。

「いいよねえ。毎日、ご飯美味しくてさ」

風が言う。
樹も食べながら頷いた。
一方、克樹はまたご飯を箸でかきこんでいる。

「かっちゃん、よく噛んで食べてよ」

克樹はごくん、と飲み込んだ。

「すごくお腹空いてた!」

素直な兄にだんだんおかしくなってきてしまう。克樹は何故かドヤ顔だ。

「克樹、ダンス頑張ったもんね」

「そう!俺、頑張ったよ!」

風も笑っている。

(寮生活楽しいなぁ)

樹はそう思いながら、食事を続けた。

「ちょっと見せてね?」

風呂に入ったあと、風が樹の指に絆創膏を貼ってくれた。結局、左手の指は全滅していた。
今度からはもっと気を付けなければと思う。

「ありがとう、風」

「少し動かしにくいかもしれないけど、すぐ治ると思うから」

「いっくん、良かったねえー」

樹のベッドに克樹は寝そべって何かを読んでいた。すっかりこの部屋に馴染んでしまっている。

「かっちゃん、それなに?」

「うん、ダンスの振り付け表ー。
頭にもう一度入れとこうと思ってさ」

チャイムが聞こえてくる。自由時間はこれで終わりだ。これから45分間の自主学習の時間が始まる。それが終わったら就寝時間になる。

「じゃ、いっくん!風!また明日ね!」

克樹は台風のように部屋を去っていった。

「さ、課題しようか」

風が笑って言う。
今日はいくつか課題が出ている。
樹は頷いて教科書を取り出した。


(次、移動教室じゃん!急がないと!)

樹は廊下を早足で歩いていた。
前の授業で質問をしていたら遅くなってしまった。次の授業で使う教科書を手に角を曲がろうとして、樹は誰かにぶつかってしまった。
後ろに倒れそうになったのを抱き留められる。
樹はぎゅっと目を閉じた。

「わ、ごめんなさい!慌てていて!」

「大丈夫、落ち着いて?」

よしよし、と頭を撫でられる。
そのままひょいと抱え上げられてしまった。

樹は思わず目を開けた。
その人は優しく笑っていた。
目を奪われるのはその紅い瞳だろうか。
流れるようなクリーム色の髪。

「僕は渚・カイ。ここの三年生だよ」

樹は彼を見たことがあった。確か最近デビューしたばかりのアイドルグループの一人だ。
そんな人に自分は抱えられてしまっている。

「あの!渚先輩!俺、重たいですから!」

「次は科学か」

渚は樹の言葉に興味はないらしい。ずんずん歩いて行ってしまう。
樹は彼にしがみついた。

「君は高山樹くんだね」

ネームプレートを見られたのだと気が付くまで数瞬かかった。

「はい、理科室に着いたよ」

そっと床に立たされる。

「じゃあ、またね」

樹はチャイムが鳴るまでしばらくぼーっとしてしまった。
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