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不安な夜

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「うっう・・ぐす」

夕飯を食べ終わってすぐ、急に加那太が泣き出して、千尋は驚いた。
涙で顔がべしょべしょになっている。
加那太はそれに構わず泣いている。

「おかーさん・・・おかあさん」

千尋はそんな加那太を自分の膝の上に抱き上げた。

「お母さんに会いたくなっちゃったんだな」

「なんでいないの?」

今の加那太に真実を話しても分からないだろう。千尋にだって分かっていないことが多いのだ。

「ごめんな、加那。しばらくお母さんには会えないんだ」

「やだあ、なんで?」

「ごめんな」


今の状態の加那太を知り合いに見せるわけにはいかない。
千尋は加那太が泣き止むまで彼を抱きしめていた。

しばらくして彼は泣き疲れたのか眠ってしまう。
千尋は明日からしばらく有休をとることにした。

溜まっている有休を消化しろと上からも言われている。
そのまま夏休みに入るのでちょうどよかった。

「加那、俺が一緒にいるから」

加那太をベッドに寝かせて薄手の毛布を掛ける。
これから着替えも必要になってくるだろう。

(明日、加那と買い物に行こう)

千尋は加那太の頭を撫でて居間に戻った。

(加那は何歳くらいなんだろう?明日聞いてみるか)

「お兄ちゃん」

しばらく千尋がPCをいじっていると加那太が慌てたようにやってきた。

「加那、どうした?」

「トイレー」

「わああ」

***

「加那、トイレ間に合って良かったな」

「うん。最近できるようになった」

「そうだったのか。加那は今、何歳なんだ?」

「うんとね、この間三歳になったよ」

加那太が指で三を示してくる。
その仕草が愛らしい。

「加那は偉いな」

「うん」

加那太がにっこりと笑う。この頃から加那太は女の子のような顔をしている。
小さい分余計だろう。

「お兄ちゃん」

千尋に加那太が抱き着いてくる。
千尋も優しく抱きしめ返した。

「そろそろ寝ないとな」

「うん」

千尋も今日は作業を切り上げて眠ることにした。
加那太がまた泣いてしまわないか心配だった。

「お兄ちゃんは結婚してるの?」

加那太が千尋の左手を見て言う。

「加那は探偵になれるな。ああ、してるよ」

「お嫁さんはどうしたの?」

「今は出かけてるんだ」

「へえ」

「ほら、加那。もう寝るぞ」

「はあい」

千尋が加那太の背中を優しく撫でていると加那太はすぐに眠った。

(加那、お前どうしたんだよ。何があったのか説明くらい・・・)

千尋は加那太の顔を思い浮かべた。
彼はいつも笑っている。

(加那のことだ。きっと急に何かがあったんだろうな。加那には不思議な力がある。きっとそれと関係している)

千尋も目を閉じる。明日になったら加那太が元に戻っていればいいと願いながら。

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