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幼児化

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「え…それってどういう…?」

ある日の午後、加那太は一人、自宅にいた。
今は夏休みである。
仕事にはしばらく行かなくていい。
部屋は涼しかった。空調はついている。飼い猫のタマの為に常に付けているのだ。
加那太は先程、スーパーで食料品の買い物を済ませてきたばかりだ。
そんな中、誰かが加那太を訪ねてきた。
玄関からではない。
この部屋に直接やってきた。

「頼む、お前の力を貸してほしい」

加那太の目の前にいたのは千尋だった。
だがいつもの様子と随分違う。
(腰には剣を差し、服もどこかの民族衣装のようだった)
彼は異次元からここに来たのだと加那太に言った。嘘にしては出来過ぎである。
加那太はどちらかといえば、不思議な出来事に慣れている。
彼のことはすぐ受け入れられた。

「姫を助けたいんだ…」

「…分かった。僕の力でいいなら貸すよ」

「本当か?」

「貸すだけだからね」

「ありがとう、加那太。もしかしたら副作用があるかもしれない。でもお前の命に害はないから安心してくれ」

加那太は自分の手を、彼の持っていた水晶玉に翳した。
いつの間にか手に入れたこの力は、加那太を何度も助けてくれた。

「じゃあ俺は行く。必ず返しに来る」

千尋によく似た誰かは光と共に消えた。
その瞬間、加那太の体が縮み出したのだ。

「なるほど、副作用ってこれか…」

加那太はそっと呟くのだった。

✣✣✣

「なんだ、この部屋。あっついな。タイマーで切れたのか?」

夜、千尋はようやく仕事から家に帰ってきた。
中に入ると何故か部屋が真っ暗だ。
千尋は玄関の明かりを点けた。
居間の明かりも同じように点ける。

「加那!?」

加那太はソファで寝息を立てている。
だが、彼はいつもより小さく幼い姿になっていた。千尋も不思議なことには慣れている。
慌てなかった。

千尋は空調をつけて加那太の肩を揺する。

「加那、起きろ」

「ん…」

加那太が辺りを見回す。

「おかーさんは?」

「お前。加那、だよな?」

「ん」

加那太はこくんと頷く。
千尋は彼を抱き上げた。
とても軽い。まだ二、三歳くらいだろうか。

「何か飲むか?りんごジュースがあるけど」

「ん」

加那太が再び頷く。
千尋は加那太を抱いたまま冷蔵庫を開けた。
今日、加那太に買っておいて欲しいと頼んだものが入っている。

(加那のやつ、買い物には普通に行ったみたいだな)

千尋はりんごジュースの紙パックを取り出しながら思った。
一体ここで何があったのか、はっきりさせる必要がある。

グラスを取り出して、りんごジュースを注いでやる。加那太は美味しそうにそれを飲み始めた。

「加那、ハンバーグ食べるか?」

「はんばーぐ!食べる!」

加那太が目を輝かせている。

(やっぱり本物の加那に間違いないな)

千尋は思わず苦笑してしまった。

「お兄ちゃん、だあれ?」

加那太が首を傾げて見上げてくる。

「俺は千尋っていうんだ。適当に呼んでくれ」

「千尋お兄ちゃん!」

加那太が嬉しそうに笑っている。

「すぐご飯にするからな」

加那太の足元に飼い猫のタマが座り込む。
タマにはこの状況がよく分かっているらしい。
彼女は不思議な猫だ。

「猫ちゃんいるんだ!」

「あぁ、タマって名前だよ」

「可愛いね!遊ぼ!」

「に!」

加那太がタマと遊び始めている。
千尋はエプロンを付けて夕飯の支度を始めたのだった。

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