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「でね!本当かっこよかったんだよ!」

「ふーん」

練習の合間の休憩中、オレは起こったことをみんなに話していた。
こう見えてオレはヴィジュアルバンドのベースをしている。
そう、中学生の頃から一生懸命練習した結果が今だ。
バンドとしては、最近メジャーデビューしたばかりだ。
まだまだファンの数は少ないけど、少しずつ増えていけばいいななんて思う。

「新さん、本当かっこいい!!
大好き!!」

「はいはい」

メンバーたちのやれやれ、という空気はもう慣れっこだ。
オレたちは高校からの仲だし、兄弟のようなものだ。
みんなには乙女ゲームが好きなことをカミングアウトする前からばれていたらしい。
つまり学校中のみんなは知っていたのだ、恥ずかしい。
優しさすら感じる。


「ねえ、みんな!」

ガタン、とスタジオのドアが勢い良く開いて、ヴォーカルでリーダーのタクマが駆けてきた。

「アニメとのタイアップ決まった!」

「え?!」

オレは胸が高鳴るのを感じた。

「アオの好きな声優のアニメの主題歌だってさ。4クール目だって、すごいね。これ前クールからのDVD」

新さんの出演しているアニメのDVDは全部持っている。
ブルーレイも集めようかななんて思っていたりする。
新さんの出る作品にオレが関われるなんて。

「嬉しい」

「泣くなよアオ!」

涙がなかなか止まらなかったけど、そんな場合じゃない。
主題歌にする曲を作らなくては。

「ただいまー」

ドアを開けると鬼がいた。
正しくは双子の妹のアカリだ。
どす黒いオーラを放っている。
怖い。

「アーオー?」

なんだかオレに怒っているようだ。
なにかしたっけ?

「あーちゃん?どうしたの?」

なるべく刺激しないように尋ねると、アカリはため息をついた。
妹だけど、彼女はオレよりはるかにしっかりしている。

「またあたしの服勝手に着たでしょ?あと化粧品も!」

「あ、ごめん。だって買いに行けないじゃん」

アカリはまたため息をついた。

「お金くれればいくらでも買ってきてあげるから」

女装を咎めないあたりがアカリのいいところだ。
もしオレが妹だったら全力で止めてる。

「お母さんから聞いたけど、変なのに絡まれたの?
あたしが一緒についてけばよかった」

アカリの声に悔しさが滲んでいるのを感じて少しこそばゆい。

「大丈夫だよ、オレ強いよ?」

「お米もろくに担げないのに?」

痛いところを突かれた。
アカリにはいつも大変お世話になっている。

「アカリさま、今度のお買い物に行かれる際にはお付き合いせてください」

お辞儀をしてそういうと、アカリは笑った。
オレたちはやっぱり双子なんだ。

アカリにアニメのタイアップが決まったことを言うと、自分のことのように喜んでくれた。
いい妹だな。

「で、イベントはどうだったの?なんだったっけ?横山なんとかさん」

はっきり言って、アカリはオタクじゃない。パンピーというには理解はあるけど。

「新さんだよ、さっき言ってた変なのに絡まれたとき助けてくれた!」

「は?」

アカリはオレを見つめてくる。

「あーちゃん?」

アカリに声をかけると、アカリはなんでもない、と言った。
なんでもなかったらあんなに怖い顔するかな。でもオレはそれをアカリに聞けなかった。

時計を見ると、もう夜中の11時だった。新さんのラジオの時間だ!
オレはワクワクしながらスマホのラジオアプリを起動する。
新さんの声、かっこよかったなあ。
また近くで聞けたらいいな。

今度は女装をしてない状態で会いたい。
オレを、オレとして見てもらいたい。
そんな気持ちが強く渦巻き始めていた。
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