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私の溺愛なのに

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私という婚約者がいるのに、あんな悪役令嬢と遊ぶなよ。
 目のまえで婚約者である王国第三王子のスカイが悪役令嬢として名高いアンジェリカと一緒にお茶をしている。
 私があの人の正当な婚約者なのに、スカイはずっと前からアンジェリカのことしか目に入ってないようだった。
 手がプルプル震えているのは怒りじゃない。みじめだから。
「あっ! ねえスカイ。あそこに私たちのことをずっと見てくる変な女がいるからどっかに追い返してくれない? そろそろ迷惑なんだよねー」
 ぶりっ子を演じていかにも女が嫌いそうな声を出して喋っている。
 私はこの女が嫌いだった。
 ぶりっ子を演じているのが嫌いなんじゃない。私の婚約者を誘惑しているから嫌いなんだ。スカイは一体この女のどこが良いんだろう。猫なで声の奴なんて男の子が好きになる理由が分からない。本当に理解できない。
「そうだね、アンジェリカ。僕の婚約者が邪魔なら退かしてくるよ」
 そこは泥棒猫を退かしてくればいいのに、なぜ私が退かされるのだ。
 あとスカイ。
 私の体を持ち上げるのはいいけど、もうちょっと優しく持ち上げなさい。
 この数秒後、庭園から叩き出された私は泣きながら家に帰ることになった。

 *

 私とスカイの婚約が決まったのはおそらく数年前。国王陛下が才能を表していた私を認めて、自分の子供との結婚を約束したのだ。
 今なら言える。
 どうしてご褒美が結婚なんだ。
 ご褒美にするなら好きな人との結婚にするべきだろう。
 そう意味ではやはり王国の王家は頭がおかしい。
 でも私の方がもっと頭がおかしい。だって、スカイという男と結婚できると聞いて舞い上がっていたのだから。
 昔から貧乏な女の子が王子様と結婚する話が好きだったから、男爵令嬢の私が王子様と結婚できると聞いて嬉しかったのだ。
 勘違いしないで欲しいのはスカイと結婚できたから嬉しかったのではない。物語のように成り上がれると思って舞がっていた。
 過去の自分に話しかけられるならこういいたい。
 そんな男は辞めて置け。どうせ捨てられるぞ。未来の私からはこれだけしか言えなかった。腕がプルプル震えてくる。
 これはみじめだからじゃない。怒りがあるからだ。
 だけど、不思議なことに婚約した当時は幸せだった。
 失敬。別に不思議なことではなかった。
 スカイはイケメンだし、ハイスペックだし、高身長だったから、そんな男の子に好きになられて嬉しくない女はいない(私調べ)。
 頭がスカスカの私の脳みそで調べたから合っているかは分からないけど、多分そうだと思う。でもすぐにスカイは高等部に入学してアンジェリカという女と出会った。
 アンジェリカは入学当時からいったい何をしたんだっていうくらい女の子から嫌われていて、本当に不思議なくらい男から人気だった。
 男は頼れるのが可愛いと言っていたけど、アンジェリカはぶりっ子なだけだろう。あれの何がいいのか。
 ダメだな。
 そんなことが分からないから私は捨てられるんだ。
 いろいろと努力はした。スカイの好きな女になれるようにメイクもしたし、努力もした。ダメでした。
 アンジェリカのような女が好きだと思ってまねをした。嫌われました。どうしてですか!
 もはやスカイという男のことはほとんど理解できない。
 こんな男のために人生を費やしているのがもったいなく感じて、私はスカイに関わることを止めようと思う。
 もう疲れたんだ。
 ほら、そこの道端で倒れ込んでいる男の子のようにいろいろあって疲れているんです。
 そもそもスカイのハイスペックさに惚れて好きになったんだから、私よりもハイスペックな女の子にとられるのは仕方ないのかもしれないと思うようにした。
 アンジェリカは私よりもすごいと思ったらまだスカイと取られたことを納得できる。
 私よりもかわいくない女にとられたと思ったら、もはや心が持たない。逆に興奮してくるくらいです。
 今の私は新しい私。いろんな人にやさしくして気分を入れ替えよう。
「お兄さん大丈夫?」
 道端で倒れている男の子に向かって声を掛ける。何かあったんだろうか。一応治癒魔術を掛けてあげよう。
 ああ、スカイのために習得した治癒魔法が他の男に使われている。嫉妬すればいいのに。
 あとは適当に水を飲ませてあげる。
 目を見開いたから大丈夫だろう。
「もう大丈夫だよね」
 意外にも綺麗な顔をしている男の子だけど、人さらいとかに会わないかな? 娼館とかに売られたら結構人気が出そうだ。
「ああ、あなたは?」
「スカーレットよ。じゃあね」
 私はその場から去る。この時はこの出会いが私の人生を変えるなんて誰も思ってもいなかった。
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