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おばさんとイケメン

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「ねえ、カイルさん。私の昔話を知っていますか?」
「……ああ」

 イリアはカイルという身長の高くイケメンの男の人と、二人きりで高級レストランに来ていた。イリアは今日カイルにたいして「大切なお話があります」と言って誘ったのだ。

「私の昔話を知っているんですね。でも私から話させてください。あなたにはそれが良いと思います」
「分かりました」
 
 目のまえにいるカイルは私の職場で氷結王子と呼ばれているイケメンであり、あまり感情を表に出さなく、笑うことも少ない。氷結というのは顔が動かいことからつけられたあだ名だ。

「私はもともと、ここからは遠い場所にあるとある地方に住んでいました。そこで20歳になることに幼馴染の男性と結婚して、子供もいます。でも、どうして今一人でこの町にいるかと言うとそれは私たちが離婚したからです」
「はい。その話はカンナから聞きました」
「カンナ……」

 彼女は私のここに引っ越してきた当時はすごく優しく接してくれた女の子であり、いろいろと昔の話を話してしまっている。
 だけど、氷結王子が私に優しくし始めたあたりから急にあたりがきつくなって、ついには無視やいじめをしてくるようになった。
 だけど、私の入った会社はコンプライアンスが厳しくて、いじめを行った主犯格の彼女はすぐに他の部署に転属になってしまった。
 あまり思い出したくない人の名前を思い出してしまったらしい。

「夫と離婚した理由は、結婚前は分からなかったんですけど、彼がモラハラをしてくる人であり、そして、育児に全くの無関心だったからです。夫との愛はもうすでになくて、あるのは子供を育て上げないといけないという気持ちだけでした」
「それは大変でしたね」
「ええ、なので子供が十八になって成人した後に私は家を出たんです。そして、知人の紹介のおかげで今の職場で働き始めました。」
「はい。それも知っています」
「私は簡単にいえば傷のついたツボです。水を入れたら傷のある部分から水が漏れてしまうし、見た目も美しくない」
 
 イリアはもう四十歳。
 最近では化粧でごまかしの効きづらいほうれい線も出てきてしまっている。こんな若くないし、かわいくもない自分のためにカイルのような男性が気を使ってくれるのは恥ずかしい。

「カイルさん。もう哀れみなんかで私なんかを気にかけるのは止めて、だれか素敵な人を見つけてください」
「断ります」

 即答だった。返事の間もないほどのスピードで彼は自分の意見を言う。

「イリア。あなたは覚えていますか? あなたが私に初めて出会った日のことを」
「はい? 覚えているつもりですけど」

 カイルが話し始めたのはすこし前の話だった。

「最初は私はあなたのことをただのコネでここに入ってきた人間だと思っていました。しかし、ここに配属されてからいきなり、この部署で起こっていた問題を解決して、そして、すぐに成果を挙げて、部署でトップクラスの成績になりました。私にとってこれほどの衝撃もありません。どうせできないだろうと高をくくっていた人間に打ち負かされたんです。その日からあなたは私の憧れでした」
「そんな」
「本当です。私があなたに気にかけるのは哀れみなんかじゃありません。憧れです」

 はっきりとそう言われて胸の奥がときめく。
 こんなおばさんにもこんなありがたいことが起こってしまってもいいのかと思わずにはいられない。こんなおばさんでも幸せになっていいのかと思わずにはいられない。

「イリア。どうか、私と付き合ってください。何歳になってもあなたの隣に居させてください」
「はい、喜んで」

 そうして、二人は結ばれた。
 のちの職場では隠そうとしたがすぐにばれてしまって、みんなからは祝われた。
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