5 / 11
3-③:失恋のススメ
しおりを挟む
「お前、杉原智紀だな」
帰宅途中の通学路でランドセルを背負った少女に突然声を掛けられた。
「……」
腕を組んで仁王立ちする少女に請われ、智紀は困惑気味に付いて行く。少女は近くの空き地に入ると、ぽいと竹刀を投げて寄越し、智紀に決闘を申し込んだ。
(一体何がどうなっている……?)
隙の無い凛とした構えに、智紀は重なる人物をふと思い起こした。
「久世っ!! お前、こんな所で何やってんだ?」
緊迫した雰囲気に割って入ってきたのは遥斗だった。
「五月蠅い。芝野には関係無い」
少女は智紀に照準を合わせたまま言い放つ。
「関係なくない! 智兄に手ェ出す奴は俺が許さない!」
遥斗は彼女の照準に入り込んで智紀を庇った。
「……」
遥斗の行動にも驚いたが、智紀は「久世」と呼ばれた少女と自分との関係を推量し、「君は……、久世さんの妹?」と問い掛けた。
「……っ」
一瞬怯む様子を見せた少女の表情を見て、質問がそのまま答えだと確信した。
「お前はお姉ちゃんがどんなに傷付いてるか、知らないだろ?」
予想だにしなかったその発言に智紀は絶句した。
「……だからと言って、お前に兄さんを傷付ける権利は無い」
言葉に詰まる智紀に代わって遥斗が擁護する。
「……、済まない……。お姉さんにも改めてちゃんと謝る……。今日の所はそれで許して貰えるかい?」
智紀は薫を傷付けた覚えなど毛頭無かったが、姉の為に行動を起こした彼女の言葉が嘘とも思えず、自分の行動が相手に苦痛を与えている可能性にゾッとした。
確かに一度だけ薫に断りも無く触れてしまったことがあった。二年の夏祭りの夜だ。花火の灯りに照らされ、静かに微笑んでいる薫の表情が、何処か頼りなげで儚く消えてしまいそうな焦燥感に襲われ、思わず確かめるように触れてしまった。どうしてそういう行動を採ってしまったのか今でも分からない。だが、その件は直ぐに謝った。
(……、久世さんに聞かないと分からないな……)
智紀は無意識に首を左右に振った。そしてふと最近一緒に通学していないことに気付いた。
(確か、クラブはもう引退してるよな……)
薫の妹の度を過ぎた行動が無ければ、自分は今こうして薫の心を慮ることが無かったのではないかと思い、そして実際今まで薫のことでこうして思い悩むことが無かったという事実に愕然とした……。
「……環奈。杉原君に喧嘩売ったんだって?」
父が自宅の敷地内に開いている道場で、姉妹が夕食前のルーティン・メニューをこなしていると突然薫がさらりと爆弾発言を落とした。
「……」
環奈は何も言えず、真っ赤になって俯く。そんな環奈の様子に、薫はぽんと環奈の頭に掌を乗せ、屈んで顔を覗き込むと、「……ありがと」そう告げて、「グッジョブ」とばかりに親指を立てた。
「……っ!!」
そんな姉の仕草に環奈は安心して、ふわりと笑顔を弾けさせると大好きな姉に力一杯抱き付いた。
(妹にまで心配かけるなんて、姉失格だなぁ)
初めて智紀に待ち伏せされ、そして腰を深く曲げて謝る姿を目にして、単純に薫はこの想いはこの先も相手に届くことは無いんだと漠然と思い知った。
(今はまだ難しくても……、いつかきっとこの想いは温かく私の心を満たしてくれる……)
薫は一度も抱き締められなかった智紀の代わりに、一生懸命薫の腰に纏わり付いている無邪気な存在を今しっかりと抱き留めた。
目を伏せたまま口許だけで微笑む薫の姿はこの上なく美しかった。
帰宅途中の通学路でランドセルを背負った少女に突然声を掛けられた。
「……」
腕を組んで仁王立ちする少女に請われ、智紀は困惑気味に付いて行く。少女は近くの空き地に入ると、ぽいと竹刀を投げて寄越し、智紀に決闘を申し込んだ。
(一体何がどうなっている……?)
隙の無い凛とした構えに、智紀は重なる人物をふと思い起こした。
「久世っ!! お前、こんな所で何やってんだ?」
緊迫した雰囲気に割って入ってきたのは遥斗だった。
「五月蠅い。芝野には関係無い」
少女は智紀に照準を合わせたまま言い放つ。
「関係なくない! 智兄に手ェ出す奴は俺が許さない!」
遥斗は彼女の照準に入り込んで智紀を庇った。
「……」
遥斗の行動にも驚いたが、智紀は「久世」と呼ばれた少女と自分との関係を推量し、「君は……、久世さんの妹?」と問い掛けた。
「……っ」
一瞬怯む様子を見せた少女の表情を見て、質問がそのまま答えだと確信した。
「お前はお姉ちゃんがどんなに傷付いてるか、知らないだろ?」
予想だにしなかったその発言に智紀は絶句した。
「……だからと言って、お前に兄さんを傷付ける権利は無い」
言葉に詰まる智紀に代わって遥斗が擁護する。
「……、済まない……。お姉さんにも改めてちゃんと謝る……。今日の所はそれで許して貰えるかい?」
智紀は薫を傷付けた覚えなど毛頭無かったが、姉の為に行動を起こした彼女の言葉が嘘とも思えず、自分の行動が相手に苦痛を与えている可能性にゾッとした。
確かに一度だけ薫に断りも無く触れてしまったことがあった。二年の夏祭りの夜だ。花火の灯りに照らされ、静かに微笑んでいる薫の表情が、何処か頼りなげで儚く消えてしまいそうな焦燥感に襲われ、思わず確かめるように触れてしまった。どうしてそういう行動を採ってしまったのか今でも分からない。だが、その件は直ぐに謝った。
(……、久世さんに聞かないと分からないな……)
智紀は無意識に首を左右に振った。そしてふと最近一緒に通学していないことに気付いた。
(確か、クラブはもう引退してるよな……)
薫の妹の度を過ぎた行動が無ければ、自分は今こうして薫の心を慮ることが無かったのではないかと思い、そして実際今まで薫のことでこうして思い悩むことが無かったという事実に愕然とした……。
「……環奈。杉原君に喧嘩売ったんだって?」
父が自宅の敷地内に開いている道場で、姉妹が夕食前のルーティン・メニューをこなしていると突然薫がさらりと爆弾発言を落とした。
「……」
環奈は何も言えず、真っ赤になって俯く。そんな環奈の様子に、薫はぽんと環奈の頭に掌を乗せ、屈んで顔を覗き込むと、「……ありがと」そう告げて、「グッジョブ」とばかりに親指を立てた。
「……っ!!」
そんな姉の仕草に環奈は安心して、ふわりと笑顔を弾けさせると大好きな姉に力一杯抱き付いた。
(妹にまで心配かけるなんて、姉失格だなぁ)
初めて智紀に待ち伏せされ、そして腰を深く曲げて謝る姿を目にして、単純に薫はこの想いはこの先も相手に届くことは無いんだと漠然と思い知った。
(今はまだ難しくても……、いつかきっとこの想いは温かく私の心を満たしてくれる……)
薫は一度も抱き締められなかった智紀の代わりに、一生懸命薫の腰に纏わり付いている無邪気な存在を今しっかりと抱き留めた。
目を伏せたまま口許だけで微笑む薫の姿はこの上なく美しかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる