初恋

終章

再び、春――

　今年も桜は今が盛りと咲いている――。高校の通学路でもある桜並木のトンネルを美久は自転車で走り抜けていた。新しい制服に身を包んで美久はまた新たな時を刻んでいる――。

「おはよう」

　途中から梓が合流する。梓と美久はこの春同じ高校に入学した。

（梓がいてくれて、私がどれほど心強いか……）

　岡部とは私立受験を前に別れたそうだが、その報告は拍子抜けするほどあっさりしたものだった。ただ、「怖くなったのだ」とだけ告げられ、まだまだ恋の奥深さを知らない美久にとっては、梓の告白は難解なパズルのようだった……。

　桜花校一の秀才、藤崎慧は学区一のレベル校に合格した。

　ザアァ――。春一番のような強い風が吹き抜けてゆく。風で桜が舞い散っている――。

　ふと、桜ヶ丘中学の正門に毎年咲いた桜のことを思い出した。思い出して、口元が少しほころんだ……。

（……、よしっ！　私も皆みんなに負けないように、自分の選んだ道をしっかり進んでゆこう！　そしていつか……好きな人に好きってちゃんと言えるよう……強くなりたい……）

　桜色の空を見上げるとその小さな花びらの隙間から抜けるような青空が覗いていた――。