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空から宣戦布告されたので、俺は魔族と戦う為に懇願する

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『愚かなる人間どもに告げる!』

 突如空に現れた男の顔に、俺達は動揺した。何故ってそりゃ、いきなり空に人の顔が浮かび上がったんだから、当たり前だろう。
 四角く角ばった緑色の顔に吊り上がった目、禿げ上がった頭とそれと対をなすように濃く生えそろった髭と開けば鋭い犬歯の生えそろった口。肩までしか見えないけど、異様に筋肉質な肉体と背中に生えている巨大な翼。
 完璧魔族な男だ。あれで魔族で無かったら何なのか分からないくらい魔族。
 どうやって空になんて自分を投影したんだろう? 楽しそうだな~。俺はそんな感想が頭に浮かんできた。
 いや、動揺してねぇじゃん、俺。
「あれは!」
 と、そこでティーカが驚いたように声を上げた。
 見れば、彼女は驚いたように目を見開いて、空に現れた人影をまっすぐ見つめていた。彼女はあの人影について見覚えがあるのかもしれない。
『時は来た! 明日、我ら魔族は貴様らの王都を滅ぼす! それを皮切りに、貴様ら人間とその同胞である者どもを全て根絶やしにする!』
 が、ティーカに尋ねる前に空の人影から物騒な言葉が飛び出した。
 明日王都を滅ぼす? つまり、あの空の奴の軍勢が明日押し寄せてくるって事か。
『我らは神に選ばれし者。陸と空を制し、海をも支配する我らの前に、貴様らはひれ伏し許しを請う事だろう。だが、貴様らが生きる事は許さぬ。古の昔から今に至るまで、我ら同胞が貴様らの悪行によって流した血に誓って、貴様らは一人残らず地獄へ叩き落とす!』
 やたら尊大に、人影は語る。まぁ、あの魔族の顔、どっかの漫画に描いてあった大魔王だかにそっくりだし、それっぽい事を言ってるな~ぐらいにしか感じないけど。
『明日貴様らの滅びが始まる。今日はせいぜい最後の晩餐を楽しめ。そして明日、神々の審判を受け、地獄に落ちて悔い改めるがいい。さすれば貴様らも、我らの同胞に生まれ変わる事も出来ようぞ。はっはっはっはっはー』
 とかどうでもいい事考えたら、人影は高笑いをして何事も無かったように消えちゃった。
 うわ~。
 すげぇ一方的に勝手な事並べて消えちゃったよ、あいつ。
「……おのれぇ! やはり来るか、魔族ども!」
 と、俺の真横でそんな声が聞こえた。振り向けば、俺の真横でアンゼリカ姫が慌てたような顔をしていた。頬から汗が流れ、あからさまな焦りがうかがえる。
「くそ! こうはしていられぬ!」
 彼女はそのまま兜を頭にかぶる。すると、突如彼女の体が発光しだし、手足が大人のように急激に伸びて全身に鎧が装着されていく。
 待って……今の何? 兜被った瞬間に大人みたいな体型に変形するってどういう事よ? つまり鎧が取れるまでこんな高身長だったって事?
 しかし、俺が質問しようとする前に、鎧が纏った姫は周囲に控えていた兵士達に号令を飛ばす。
「我が兵達よ。急ぎ城に戻るぞ!」
「はッ! 姫様の仰せのままに!」
 そうして、アンゼリカ姫たちはそのまま聳え立つ城の方へと走り出してしまった。
 え~~。あんだけの大立ち回りかまして折角勝ったのに、何も無しで行っちゃうのかよ。勘弁してくれ。このまま行かれたらさっきの事はなんだったんだじゃねぇか。
「二人とも、姫たちを追おう」
 なので、俺はミリとティーカに声をかけた。ミリはそのまま大きく頷いてくれたが、ティーカは不安そうな顔のまま、人影の消えた空を見上げている。
「ティーカ?」
「え!? は、はい!」
 首を傾げて再度声をかけると、ティーカはビクっと振り向く。
「どうした? さっきの奴、もしかしてこの間ぶっ飛ばした連中の親玉か?」
「は、はい。彼は今回の一件の総大将ヴェリアル。まさか彼から宣戦布告が為されるとは思わなくて」
「ヴェリアル。なるほど。なんか聞き覚えのある感じの、いかにも悪そうな名前だな。で、あいつがティーカに暗殺とかをさせてたやつらの親玉だってわけだな」
「はい」
「なら、あいつは是が非でもぶっ飛ばさないとな」
「えッ?」
 俺の言葉に、ティーカが驚きの声を上げて俺の顔をまっすぐ見つめる。鳩が豆鉄砲喰らったような顔っていうのは、こういうのを言うのかな。
 だから、俺は会心の笑みを作って笑いかける。
「ユーゴを人質にとって、てめぇの手も汚さないで人に殺しなんてさせてた連中は絶対許せねぇ。アイツが親玉だって言うなら、横っ面をぶん殴らなきゃ気が済まないぜ」
「……ッ」
「それに、俺はもともとあいつらと戦う為にここまで来たんだ。あっちから来るっていうなら好都合だ。だから行こうぜ。まずは城に行って、一緒に戦う許可を貰わねぇとな」
「だね。さっきの魔族の人が悪い奴ならやっつけないと! 早く行こう。折角お姫様と知り合えたし、城に紹介してもらおう」
 俺とミリが口々に言うと、ティーカは戸惑うように目を反らす。
「でも、私はあの方達にとって大切な方の命を奪った身。そんな者が城になど」
「何言ってんだ。俺はあのお姫様に勝った。勝ったら願いをかなえてくれるって約束だからな。ティーカの罪がティーカのせいじゃないって事、城の人達にも分かってもらうように頼んでみるさ」
「でも、そこまでしていただく理由が……」
「誰かが困ってるなら助ける。それが俺がここに来た時に決めた事だ。乗りかかった船だ。気にすんな」
 ビシっと親指を立て、俺はティーカに告げる。それから彼女の手を取る。
「ってわけだ。城に行こうぜ。早く行かねぇと姫様に置いていかれちまう」
「そうそう。急ごう。折角勝ったのに、勝負が無効にされちゃったら困るしね」
 ミリも言って、ユーゴをおんぶし、ティーカの手を取った。
「つーわけで、行こう。急ぐぜ、二人とも」
「了解。全速力で行こう!」
「え? ちょっと……お二人とも!」
 そうして、俺達は走り去ったアンゼリカ姫を追い掛けだした。

 それから暫く道なりに走ると、城の巨大な門が見えてくる。同時に、その前に立つアンゼリカ姫とその後ろに整列する兵士達と姿が見えた。彼女たちは重々しく扉が開くのを待っていた。
「おぉ~い! アンゼリカ姫様~~」
 そこ目掛けて、俺は大声で呼びかけながら走りこむ。その声に、姫は鎧に覆われた顔を動かしてこちらを見やる。
 そのまま彼らの前に滑り込むようにして立ち止まると、兵士達が穂先の壊れた槍を俺達目掛けて掲げる。
「貴様ら! 何の用だ!」
「いや、待てって。喧嘩しに来たんじゃないから」
「槍を下ろせ!」
 俺が兵士と問答すると、アンゼリカ姫が凛とした声で号令する。そして、振り返る兵士達に手振りで指示し、道を開けさせる。その道を、姫が優雅に歩いてくる。
「何用だ。お前たちに関わっている余裕はないが?」
「さっきの魔族の事だろ? 俺達はもともと魔族が来るって聞いて王都まで来たんだ。傭兵の応募に応じる為にな」
「何!? 貴様、罪人の一味ではなかったのか?」
「だから違うって言ってるだろ? さっき言った通り、魔族からティーカを助け出してからここに来たんだって。どうせだから、俺達も傭兵に応募させて欲しいんだが……どうかな?」
 俺が首を傾げて尋ねると、姫は顎に手をやって考え込むように押し黙る。そこに、俺は追い打ちをかけるように告げる。
「それに、さっきの魔族だけど、どうもティーカを捕まえて働かせてた魔族どもの親玉らしい。もしかしたら有力な情報が得られるかもしれないぜ? どうする、姫様?」
「むッ。それはまことか?」
「ああ。あの親玉っぽい魔族の事とか、分かるかもしれない。アイツの性格が分かれば、どう攻めてくるかも分かるかもな。もともと俺達はアンタら王国の味方だから。俺の能力も魔族どもには有効かもしれない。戦力は多いにこしたことないだろうし、ここは手を貸させてくれやしないか?」
 俺がにやりと歯を見せて笑うと、アンゼリカ姫は少し考えるように天を仰ぎ、小さく頷く。
「うむ。分かった。いいだろう。では、わらわについてまいれ。そこの罪人の娘と獣人の娘も共にな」
 そう言って、姫はさっと踵を返して門の方へと歩いていってしまった。俺達もそれに続き、兵士達と並んで門を潜る。すると、そこにはくすんだ岩の壁に囲まれた広大な空間が広がっていた。壁は一つの岩のように隙間なく続き、その岩に凝った模様が彫り込まれており、その壁には明り取りの為にステンドグラスの窓がはめ込まれている。
「すげぇ……俺が知ってる城とはちょっと違うけど」
「これは巨大な岩山を削りだして作られた城だと言われています。この城の頂上まですべて一つの巨大な岩で作られているんです」
 俺が感想を口にしていると、ティーカが説明してくれた。なるほど。巨大な岩……って、え? コレ、城が一つの岩から出来てるの?
「我が王城は、古の昔、我が人族達の大陸を襲った魔族を滅ぼした女神が天空より降らせた巨大な岩でできている。そして、女神はこの岩で城を築けと告げられたのだ。故に我が先祖は民たちと共にこの城を築き、その足元に巨大な都市を建造したのだ。それがこの国の成り立ち。我が国の建国神話だ」
 それを補足するように、先を行くアンゼリカ姫が告げる。
 ほぉ~なるほど。天空から降らせた岩、つまり隕石みたいなモノをくりぬいて作った城なわけだな。女神のお告げってのは確かに神話ちっくな話で真実では無いかもだけど、この城が一つの岩でできてるってのはあながち嘘じゃないのかもしれないな。城の成り立ち、的な話としては分からなくも無いし。
「貴様。人族でありながら、我らの建国神話も知らぬとは。何処からの旅人だ?」
「俺はずっと遠い場所からここに来たんだ。ちょっと事情があって、俺の生まれた場所にはいられなくて。悪い事はしてないけど……」
 まさか死んでこの世界に蘇ったとかは言えないから、とりあえず濁して告げる。すると、アンゼリカ姫は一瞬驚いたように黙るが、すぐ気を取り直して前を向く。
「ふん。まぁ良い。急ぐぞ。貴様らは陛下に謁見してもらう」
「え? いきなり王様に会うのか?」
 姫からいきなり告げられた言葉に、俺は驚く。対して、アンゼリカ姫は振り向きもせずに告げる。
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「いや。傭兵募集って、普通にもっと下の人が受け付けるものじゃないのかって。いきなり王様ってのはいくらなんでもハードル高いっていうかさ」
「わらわと事を構えておいて、普通に兵の元になど送れるものか。貴様らはわらわの下で働いてもらう。監視もかねてな。その許可を陛下にいただきに行くのだ。わらわと戦い、素顔を見る無礼まで働いておいて、今更臆すな」
「いや。あれは放置してたら仲間が死ぬかもしれないからって事で必死だっただけだって」
 顔を引き攣らせて答える俺。あの時はまぁ、いっぱいいっぱいだったっていうか、まさか兜外しただけで鎧剥げると思わなかったからさ。
「貴様はわらわに勝利した。その願いもまだ聞いてはおらぬ。ちょうどいいから全て陛下に伝えてみよ。罪人の事も含め、陛下であれば公平な裁定を下してくれよう」
 そんな話をしている間に、俺達の前に岩でくりぬかれた巨大な岩の扉が現れる。そこに描かれているのは二体の巨大な竜の意匠が施されていてとてつもなく仰々しい。
 いかにも、この奥に偉い人がいそうな扉だ。その両脇に、槍を天高く掲げる兵士が控えていた。
「この先に陛下がおられる。……門を開けよ!」
「はッ! アンゼリカ姫様のお通りです!」
 兵士達がが叫ぶと、扉を押し開ける。重々しい音を響かせながら、門がゆっくりと開かれていくと、その先には映画とかのワンシーンで見た事のあるような玉座のある部屋の光景が目の前に広がった。切れ目のない巨大な岩で作られた城の広大な一室、その中央には長い真っ赤な絨毯が引かれ、その先には小さな階段と巨大な玉座が置かれる。
 そして、そこに王冠を抱いた逞しい肉体に精悍な顔立ちの男が座っていた。
 ヴァルトベルグ王。一目見ればそうだと分かる堂々としたいでたち。離れたここからでも分かるほどの威厳とカリスマ的な何かを感じる。
 俺が呆けて王様を見ていると、その前をさっさと歩きだしてしまう姫様。その後について、俺も歩き出すと、その後ろをミリ、そこから少し離れてティーカが着いてきた。
 俺達が部屋に入ると後ろの門がゆっくりと閉じる。それに驚いていると、固い感触に頭を抑えられる。
「おい。陛下の御前だ。頭を下げよ」
 そう言って、アンゼリカ姫は俺を強引に跪かせる。それに倣い、後ろの二人も跪いたのが分かる。それを待ってから、アンゼリカ姫が口を開く。
「父上、アンゼリカです」
「うむ。顔を上げよ。何用か」
「はッ。先ほど、魔族の者からの宣戦布告が空より参りました。その折、我らと共に戦わせてほしいと申し出た者がいたので連れて参りました」
 そう告げ、彼女はゆっくりと父である王へ顔を向ける。そして、俺の方を振り向く。
「ほぉ。傭兵の志願者か。だが、その程度なら我に注進などせずとも済む話ではないか?」
 厳かな声で告げる王様。声からもビンビンに威厳と威圧感が感じられる。すげぇ。本物の王様ってこんなのかと、俺は思う。俺の知ってる偉い人達って、どちらかっていうと穏やかで聞いてて安心するような感じだったけど。まぁ、あの方達は王族っていうか、国の象徴ってか最高位の神官とかそんなだったけど。
「はい。おっしゃる通り、ただの傭兵志願ではございません。この男、我が国の騎士団長の一人を殺害した嫌疑を抱えるそこの踊り子の娘を庇い、我らと剣を交えたものでございます。先に我らが兵を翻弄した故、わらわがこの男と剣を交え、わらわまでもを手玉にとって勝利したものでございます」
 そんな事を考えていたら、アンゼリカ姫が次の言葉を告げる。その発言に、王は玉座を慌てて立ち上がる。
「なんと! 姫よ。そなたに刃を向けるなど、何たる狼藉。その者は罪人ではないか。それにそこの娘も」
「この者は、兵達もわらわも、いつでも討てるまでに追い詰めながら決して手を出そうとはしませんでした。どうやら話を聞いてほしいとの事でしたので、父上の元へ連れて参ったのです」
「うぬ。そなたがそこまで言うならば信じよう」
 姫の言葉に王様は大きく頷き、ゆっくりと俺を見つめてくる。
「では、小僧。貴様の話とやら、ここで話してみせよ」
 そして、俺に厳かな声で告げる。その声の圧力に一瞬何を言われたか理解できず、俺は驚く。
「……え? 俺?」
「貴様以外にはおらぬであろう。話したい事があるのであろう。我に話してみせよ」
 言われて、俺は悩む。王様相手だから普段の調子ってわけにはいかないが、ヘコヘコするのが今の体だと何故か苦手なんでどう話したものか。まぁ、がんばって敬語を捻り出してみよう。
 そう思い、俺はゆっくりと話し始める。さて、何処から話そうかと悩んだが、最初から話してしまうかと心に決める。
「あ~、俺はその、ここからずっと遠くの国から、この東の山の中に飛ばされてきて、そこからここまで旅をしてきたんですけど。それで、その旅の途中でそこのミリ、獣人の子の村が魔獣に襲われてるところに出くわして……それを解決した流れで、王都に魔族が迫ってるって話を聞いて、何か役に立てる事は無いかと思ってここまで来たんです。その道中で、ここにいる踊り子のティーカと出会って……彼女は姉弟で魔族に捕まって働かされてるって聞いたんで行きがかり上魔族をぶちのめしてから一緒に王都までやってきたんです。そしたら、王都に着くなり追っかけまわされて……逃げてる内に囲まれたんで、抵抗したらアンゼリカ姫様がやってきて、何故か勝負する事になって」
「……」
「王都に着くなり、問答無用で斬りかかられたから仕方なかったっていうか。別に国の人達と何かする気なんてなくて……一緒に魔族の襲撃をどうにかしたいって思って。だからその、俺達も一緒に、魔族と戦わせてもらえませんか、王様!」
 おずおずと、言葉を必死に選びながら考え、俺は何とかそこまで言い切った。王様は王様で、黙って俺の言葉を聞いてくれた。そうして、少しの間をおいてから王様は言葉を発する。
「貴様の言い分は分かった。だが、そこの踊り子の娘には我らの大切な同胞を殺めたという罪があるという。その罪、裁かぬわけにはいかぬぞ」
「その罪滅ぼしの為でもあるんです。さっき言った通り、ティーカは魔族に弟と一緒に囚われて、弟の命を救う引き換えに魔族達に暗殺の仕事をさせられていたんです。彼女が心からそれを願っていたわけじゃないことも分かってる。彼女はただ、弟を助けたかっただけだ。その為に、連中に従うしかなかったんです」
 問われて、俺はいつしか立ち上がり、前のめりで王様に告げた。
「そんな彼女がかわいそうで、だから俺達は魔族からここにいる弟のユーゴを助け出しました。彼女はずっと自分が犯した罪の事を気に病んでました。俺はその償いの方法を考えてたんです。でも、魔族が攻めてくるっていうなら、俺達が死んでしまった騎士団長の代わりに戦って街を守ればいいじゃないかって思ったんです。だから、俺達も一緒に戦わせてもらえませんか! きっと俺の力は今度の戦いでも役に立ちます。魔族は一度、殴り飛ばしてきた。今度も絶対にぶちのめして見せます。王都にも城にも指一本触れさせやしません! だから、俺達にチャンスを下さい! お願いします!」
 そう言って、俺は深々と頭を下げた。それこそ、膝に額がついてしまいそうな勢いで、低く低く頭を下げた。
 すると、背後で誰かが立ち上がる気配がした。そして、同じように勢いよくミリが頭を下げたのが見えた。
「あたしからもお願いします。ソーマはすっごく強いからきっと魔族だってババンと倒してくれます! あたしたちの村に出た魔獣もあっという間に倒してくれたし、ティーカとユーゴを捕まえていた魔族も一瞬でやっつけたんで。だからお願い、王様」
「わらわからもお願い致します、父上。この男はわらわにも勝つ程の力を持つ者。それに、この娘達も幼子を連れたまま、我らの兵達を翻弄しました。この戦い、兵力は少しでもあった方が有利かと。ならば罪に問う前に、利用する方が得策かと存じます」
 ミリに続き、隣の姫も頭を下げてくれた。
「……はぁ~。皆、表を上げよ」
 それから数瞬の沈黙、王様が重々しく告げた。恐る恐る俺が頭を上げると、王様は威厳に満ちた顔でこちらを見つめていた。
「小僧の言い分、よくわかった。我が姫を退けたのも確かなのであろう。ならば、思う通り戦ってみせるがよい。その代わり、逃げ出す事は許さぬぞ。例え死ぬことになろうとも、戦いぬいてみせよ!」
「お、王様。ありがとうございます!」
 王の威厳に満ちた言葉に、俺は改めて頭を下げる。それには目もくれず、王様はアンゼリカ姫に視線を向ける。
「礼など不要だ。死ぬまで戦え。功績を示してみせよ。さすればその娘の罪も許す。アンゼリカ! その者達はお前が配下とせよ!」
「はっ! 仰せのままに」
 胸に手を当てて頭を下げ、アンゼリカ姫が頭を下げる。その言葉を聞き届け、王様は踵を返す。
「すぐに軍議を執り行う。騎士団長どもを呼べ。アンゼリカも同席せよ。その者達は客間にでも放り込め。以上だ」
 そうして、王様はさっさと俺達が通ってきた扉を開かせ、さっさと廊下を行ってしまった。その後ろをアンゼリカもついていく。俺は慌てて彼女を呼び止める。
「あ、ちょっと! 俺達はどうすれば?」
「聞こえなかったか? 客間にて待て! お前達、この者たちを来賓の間へ通せ!」
「はッ!」
 去り際素早く告げ、姫はさっさと玉座の間に立ち去ってしまった。伸ばした手が空しく虚空を掴んでいた。
「来賓の間に案内しよう。ついて参れ」
 やってきた兵士に言われて、俺は仕方なくそれに従う。すると、不意に下からの視線を感じた。
 見ると、そこには跪いたまま大きく目を見開いたティーカの姿があった。彼女はその姿勢のまま、じっと俺を見つめ、時が止まったように固まっていた。
「ティーカ?」
「え!? は、はい」
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 彼女はどう答えていいのか分からない様子で視線を泳がせる。そこへ、いつの間にかミリの背中から下りていたユーゴがてくてく歩いてきて、彼女の頬に触れる。
「ねぇー?」
「あ……ユーゴ。ごめんね、お姉ちゃん。ちょっと驚いて」
 彼女は慌てて答え、ユーゴを抱き上げて立ち上がる。
「すみません。少し呆けてしまいました」
「あ、ああ。大丈夫」
「何をしている。早く参らぬか」
 俺達が謎のお見合いをしていると、先を行く兵士から檄が飛ぶ。俺達は慌ててその後を追った。
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