6 / 23
山へ入った俺達は、不可思議な場所へと出くわした
しおりを挟む
「ソーマ、こっちだよ」
「ああ」
獣人の村を出た俺とミリは、俺が来たのと違う方向の山へと入っていった。
ビースト達がやってきたのは、どうやらこちらかららしい。とりあえず、ミリに案内してもらいながら、山の中で怪しい方向へと進んでいく。
マッドネスビ―ストは、本来この辺りには現れない化け物―どうやら魔獣というらしい――ではないのは、先ほどの会話の中でも判明している事だ。つまり、誰かしらがソレを放った可能性が高いとの事らしい。
なので、俺達は人が潜む事の出来そうな場所を探して、山を探して回る事にしたのである。
ミリの話によれば、この辺りは山頂の辺りには巨大な岩山があり、洞窟などの隠れられる場所は沢山あるそうだ。
俺は先行するミリの背中を追い掛け、道らしい道もない山を登っていく。
もともとのガリガリの体ではとても登れないくらいの険しい道程だったが、今の俺の体なら息も切れる事はない。
どころか、山道を走り抜け、先ほどまで散々暴れまくっていたのに、全然疲れを感じない。
若い頃でもこんな体力があったのか、まるで分からない。異世界転生した事によって、劇的に身体能力も向上したのかもしれない。うつ病が治った効能も含め、転生できた事に感謝が段々と生まれてきた。
それはともかく、俺は獣のように軽やかな足取りで進むミリにまるで遅れず進んでいく。そうして、件のような洞窟が多い岩山の辺りまで到着した。
岩山は、この場から見ても複数の横穴が開いているのが見える。
「ここだよ。この辺り、あたしは子供の頃からこの山を遊び場にしていたけど、かくれんぼしててもこの辺りは重宝した場所なんだ」
「なるほど。さっき聞いた通り、身を隠すにはお誂え向きな場所って事だな。洞窟の中は分かるのか?」
「うん。このあたりの洞窟は全部潜った事があるから、何処がどうなってるかは全部わかるよ」
「了解。なら、魔物が出てきたら、俺に任せてくれ。ミリは案内役専念な」
そういうと、ミリは不満そうに顔を顰めた。
「え~。あたしだって戦えるよ~。これでも獣人拳法免許皆伝なんだから~。あの村じゃ一番強いんだから」
「いや、ミリがそれなりに戦えるのは分かってるけど、長老と約束をした手前な。それに、俺が連中を倒せば手っ取り早く終わるしさ。今回は俺に任せてくれ」
頬を膨らませて、ミリは俺にビシっとその猫手を突き出す。
「ぶぅ~。分かったよ。でも、ソーマが危なそうだったら、あたしも戦うからね」
「分かったよ。もしもの時は宜しく頼む。頼りにしてるからさ」
「うん。任されたよ」
無邪気に笑い、ミリは胸をバシンと叩く。すると、決して小さくはない、発展途上の胸がプルンと揺れた。
俺はその無邪気だけど童貞には色々と辛い状況に目を反らす。そして、すぐ気を紛らわしがてら、大きく息を吐き出した。
それから俺達は、並んで一番手近な洞窟へと潜った。
そこから連れ立って洞窟をいくつも探索する。しかし、二つ、三つと洞窟を探っていっても、一向に魔獣の影も、それらを操っているであろう人の影もまるで見えなかった。
「う~~ん。何もないね~」
「だな。アイツらが自然発生する事はないって話だし、何処かに何かある筈なんだけど……もしかして、あいつらが全滅させられたのを知ってあの連中を解き放った奴も逃げちゃったか?」
「うん。だったらもう心配ないんだけど……でもじっちゃんが、誰にも気付かれずにマッドネスジャガ―達を連れてくる事なんて絶対できない筈だって言われたし。何か手掛かりぐらいは残ってそうだよね」
「そうだな。あの魔獣がこの辺りにいない奴なら、何かしらの仕掛けでもあると思うんだが……」
何も見つけられず、若干うんざりとしながら俺は岩山の壁に何となく寄りかかった。否、寄りかかろうとした。
が、その瞬間、何故か俺の体が壁を透かして倒れこんだ。
「うおっと!」
それに気付いた瞬間、既に時は遅く、俺の体は壁を透けて後方の空間へと転がってしまった。
「ソーマ!!」
慌ててミリが俺に手を伸ばすが、その手を俺は掴み損なって転がり、地面に叩きつけられる。
何とか頭だけはと庇い、付け焼刃の受け身を取る。が、背中や腰が地面にぶつかる。
「いってぇぇ……」
俺が打ち付けた背中をさすりながら体を起こすと、突然先ほどまで潜っていたのと同じ洞窟が広がっているのが見えた。
「これって……」
俺は立ち上がり、自分が転がってきた洞窟の壁に手を伸ばす。すると、壁はするっとすり抜けた。俺はそのまま顔を壁へと突っ込む。すると、さっきまでいた外の光景が見えた。
「あ、ソーマ」
「おう。ミリ、この中、洞窟みたいになってる。たぶん、外から見えないように偽装してる。ちょっと来てくれ。壁、そのまま行けば抜けられるぞ」
「うん。分かった」
そう言って、俺はミリと共に偽装された洞窟の中にも入っていった。
「ほぉえ~~。こんなところに洞窟が……って、あれ? よく見たら、ここ。来た事ある洞窟だ~」
「そっか。なら話は早い。わざわざ隠されてたんだ。きっとここに何かあるんじゃないか?」
俺は俄然やる気が湧いてきて、俺はミリにとりあえずここを探索しようと告げた。
ミリも大きく頷き、俺達は連れ立って洞窟の奥へと歩き出そうと足を出した。
――GRYUUUUUUUUUUUUUUUUUU
と、獰猛な呻きが聞こえたのは、その瞬間だった。
同時に、暗い洞窟の奥から、先ほど村で戦ったマッドネスビースト達が姿を現す。
「出やがった! って事はここは当たりって事だな」
そう思い、俺はミリの前へと出る。そして、迫りくるジャガー達をにらみつける。
「さんざん回り道させられていい加減うんざりしてたところだ。悪いが、ぶっ飛ばさせてもらうぜ!」
俺はさっきまでいろんな洞窟を探索してもスカだった苛立ちを燃やした。できれば一一自分のトラウマを抉る事はしたくなかったから。
俺の狙い通り、その苛立ちは俺の怒りを増幅させ、爆発へと至らせる。同時に、俺の全身を黒い光のオーラが包み込む。
「ミリ、俺が先行してあいつらをぶっ飛ばしながら進む。あとをついて、後ろから道の指示をくれ」
「うん。ここ一本道だから迷う事はないよ。ジャンジャン行っちゃおう!」
「了解だ! 行くぜぇぇ~!!」
答えるや否や、俺は奥で待ち構えるジャガー達に突進、そのまま拳を叩きつけた。忽ち一匹目のジャガーは消滅する。が、奥から次のジャガーがすぐに走ってくる。
「邪魔だ、化け物! 道開けろ!!」
怒りのテンションのまま、俺は次の相手に拳を突き出し、消滅していくのには目もくれずに前進する。
それから、奥から敵が走ってくる度に、拳を振るって倒しながら、前へ前へとガンガン進んでいく。
「ソーマ、そろそろ洞窟の一番奥だよ」
それで、どれくらい進んだか、ミリが後ろから教えてくれる。
「OKだ! 黒幕の面、やっと見れるってわけだな。気をつけろよ、ミリ」
「リョーカイだよ!」
それを聞いて、俺は襲い来る魔獣を殴り倒して、遂に洞窟の最奥へと続く、光が見えてきた。
そうして、俺達は連れ立ってその最奥の光の先へと走りこんだ。
そこは天井が空洞になった広い空間で、俺達が入ってきたところに狭い道が続き、その先に円形の巨大な地面が広がっている。そして、その円形の広い空間には巨大な魔方陣が描かれている。
魔方陣は円形の広場いっぱいに広がっており、赤黒い怪しげな光を纏ってゆっくりと回転していた。
「なんだ、コレ。魔方陣?」
「あ、見て!」
俺が眉をひそめてじっとそこを見ていると、ミリが鋭く告げる。すると、魔方陣から突如禍々しい光が収束し、徐々に何かの形を作ったかと思うと、一気にマッドネスジャガ―へと変わった。
「な……まさか、あの魔方陣が魔獣を生み出してるのか?」
俺の言葉を裏付けるように、魔方陣からは続々と魔獣g誕生している。魔獣達は俺達の姿に気付き、一斉に俺達目掛けて走ってきた。
「チッ! ともかく、あいつら片付けないとな!」
気合を入れるように叫び、俺は狭い道を走って迫ってきたジャガー達を迎え撃つ。
飛び込んできた敵を、俺はカウンター気味に顔面パンチを叩き込む。その一撃を皮切りに、俺は何体も湧いてくる魔獣達をなぎ倒しながら、ミリを伴って魔方陣の元へと辿りつく。
「ったく。魔方陣があるなんて思ってなかったぞ。コイツ、どうやったら止められるんだ?」
「う~ん。多分、魔方陣が描かれてる場所を破壊すれば、効力は失われると思う。詳しくは知らないけど、昔じっちゃんに聞いたんだ」
「なるほど。なら一発、かますか!」
ミリの言葉を受け、俺は湧いてくるモンスターを片端から倒しながら、魔方陣が書かれた地面を破壊すべく、この無限に敵が湧いてくるうざったい状況に怒りを燃やしてオーラを高める。これだけ大きな地面を一撃で破壊するには相応の力が必要だと感じたから。
そうして、一際黒い光が高まったのを見計らって、地面へと全力の拳を叩きつけた。
「ぶっ壊れちまえよ! うざったい魔方陣!!」
叫び、全力で地面を殴る。同時に全身のオーラを流し込むイメージを高める。すると、全身のオーラが拳の先から凄まじい奔流となって地面へと注がれていく。
魔方陣は俺の一撃を受け、激しく点滅していく。本来なら地面など等に砕けているであろう状況だが、魔方陣は激しい抵抗を見せて中々壊れない。
「いい加減壊れろ~~~!! 抵抗してんじゃ、ねぇ~~~~~!!」
俺は中々壊れない魔方陣に対する苛立ちを爆発させ、更にオーラを叩きつける。
すると、魔方陣はガラスが割れるような甲高い音をたて、跡形もなく割れた。
よし、壊れたぜ!!
と、俺が思ったのもつかの間、地面に巨大な亀裂が走った。亀裂は一気に円形の地面に広がり、やがて地震でもあったかのように割れ、崩れだした。
「ッ!!? ヤベェ! やり過ぎた!!」
どうやら力加減を間違えたらしい。円形の地面が割れて隆起し、徐々に崩落し始める。多分、遠からずこの場所は全部崩落して無くなる。
「すまん、ミリ! やらかした!」
「そんな事の前に、早く逃げよう!」
ミリの答えに、俺達は走り出す。
それから足元がおぼつかないながらも懸命に足を動かし、全力で走った。その度に、地面が落下していく。
その中を、俺は足元に隆起して揺れる中を転ばないように必死で走った。
この状況、気分はインディージョーンズだ。違うのは、今は現実で、あちらは映画という事。筋書きがある映画と筋書きが無い現実では状況からして大分違う。
そうして、俺は何とか通路のすぐ近くまで駆け抜ける事に成功した。
よし。
これで何とか生き残れる。
が、そこで足元が急激に崩れだし、落下した。同時に、俺の足が突如隆起した地面に引っかかった。
「あッ!!」
そうして、俺は通路に辿り着く寸前で転びそうになる。それでも懸命に手を伸ばすが、ギリギリ通路に手が届かない。同時に俺の体は一気に無事に残った細い通路が遠ざかっていく。
ヤベェ! 死んだ!
「ソーマ!」
と、俺が死を覚悟した瞬間、声がしてミリの手が伸びてきた。その手を、俺は反射的に手を掴んだ。
「えぇ~~い!」
その瞬間、ミリは全力で俺の体を引き上げた。俺も俺で、崩落していく地面を全力で蹴りだす。
そうして、俺の体が空中に投げ出され、引っ張る力と蹴りだした力で前のめりに通路へと倒れこみ――
「あッ」
「うあぁぉっ!」
そのまま、俺の手を引いてくれたミリを巻き込んで狭い通路へと倒れこんだ。
ガツンという激しい音と共に、俺の体はミリと共に倒れこみ、通路を滑る。
「あ、てぇぇぇ~~ッ」
それから暫く、打ち付けた体を持ち上げ、顔を上げる。
すると、目の前には同じく倒れたミリの顔があった。彼女も苦痛に顔をゆがめていたが、すぐに目を開き、そこで俺と目が合う。
ちょうど押し倒したような体制で、俺とミリは無言で見つめあった。そうすると、今まで気付かなかった若く瑞々しい唇や潤んだ瞳がやけにはっきりと見える。なんか、異様に恥ずかしい。
「あ、そ、その、ごめん」
俺は慌てて顔を背ける。何しろ俺のドジで地面を破壊した挙句、助けてもらって、更にこうして押し倒してしまったわけだ。その圧倒的罪悪感と彼女の美少女としての側面を改めてまざまざ認識させられてしまったことへの気恥ずかしさに、とても目を合わせてはいられなかった。
「あはは。大丈夫大丈夫。ソーマが落ちなくて良かったよ」
そんな俺とは裏腹に、ミリは明るく無邪気な声で告げた。気恥ずかしさに耐えてそちらをそっと見ると、そこには声音と同じく無邪気で、かつ圧倒的な美少女然とした笑みでこちらを見ている。
いかん。コレはダメだ。こんな可愛い子の顔、間近で見てたら耐えられん。
俺は慌てて立ち上がると、ミリの腕を掴んで彼女を立ち上がらせ、熱くなった頬を隠そうとそっぽを向き伝えた。
「とりあえず、戻るか」
「うん」
まったく邪気の無い声に、俺は耳まで熱くなってしまった。
「ああ」
獣人の村を出た俺とミリは、俺が来たのと違う方向の山へと入っていった。
ビースト達がやってきたのは、どうやらこちらかららしい。とりあえず、ミリに案内してもらいながら、山の中で怪しい方向へと進んでいく。
マッドネスビ―ストは、本来この辺りには現れない化け物―どうやら魔獣というらしい――ではないのは、先ほどの会話の中でも判明している事だ。つまり、誰かしらがソレを放った可能性が高いとの事らしい。
なので、俺達は人が潜む事の出来そうな場所を探して、山を探して回る事にしたのである。
ミリの話によれば、この辺りは山頂の辺りには巨大な岩山があり、洞窟などの隠れられる場所は沢山あるそうだ。
俺は先行するミリの背中を追い掛け、道らしい道もない山を登っていく。
もともとのガリガリの体ではとても登れないくらいの険しい道程だったが、今の俺の体なら息も切れる事はない。
どころか、山道を走り抜け、先ほどまで散々暴れまくっていたのに、全然疲れを感じない。
若い頃でもこんな体力があったのか、まるで分からない。異世界転生した事によって、劇的に身体能力も向上したのかもしれない。うつ病が治った効能も含め、転生できた事に感謝が段々と生まれてきた。
それはともかく、俺は獣のように軽やかな足取りで進むミリにまるで遅れず進んでいく。そうして、件のような洞窟が多い岩山の辺りまで到着した。
岩山は、この場から見ても複数の横穴が開いているのが見える。
「ここだよ。この辺り、あたしは子供の頃からこの山を遊び場にしていたけど、かくれんぼしててもこの辺りは重宝した場所なんだ」
「なるほど。さっき聞いた通り、身を隠すにはお誂え向きな場所って事だな。洞窟の中は分かるのか?」
「うん。このあたりの洞窟は全部潜った事があるから、何処がどうなってるかは全部わかるよ」
「了解。なら、魔物が出てきたら、俺に任せてくれ。ミリは案内役専念な」
そういうと、ミリは不満そうに顔を顰めた。
「え~。あたしだって戦えるよ~。これでも獣人拳法免許皆伝なんだから~。あの村じゃ一番強いんだから」
「いや、ミリがそれなりに戦えるのは分かってるけど、長老と約束をした手前な。それに、俺が連中を倒せば手っ取り早く終わるしさ。今回は俺に任せてくれ」
頬を膨らませて、ミリは俺にビシっとその猫手を突き出す。
「ぶぅ~。分かったよ。でも、ソーマが危なそうだったら、あたしも戦うからね」
「分かったよ。もしもの時は宜しく頼む。頼りにしてるからさ」
「うん。任されたよ」
無邪気に笑い、ミリは胸をバシンと叩く。すると、決して小さくはない、発展途上の胸がプルンと揺れた。
俺はその無邪気だけど童貞には色々と辛い状況に目を反らす。そして、すぐ気を紛らわしがてら、大きく息を吐き出した。
それから俺達は、並んで一番手近な洞窟へと潜った。
そこから連れ立って洞窟をいくつも探索する。しかし、二つ、三つと洞窟を探っていっても、一向に魔獣の影も、それらを操っているであろう人の影もまるで見えなかった。
「う~~ん。何もないね~」
「だな。アイツらが自然発生する事はないって話だし、何処かに何かある筈なんだけど……もしかして、あいつらが全滅させられたのを知ってあの連中を解き放った奴も逃げちゃったか?」
「うん。だったらもう心配ないんだけど……でもじっちゃんが、誰にも気付かれずにマッドネスジャガ―達を連れてくる事なんて絶対できない筈だって言われたし。何か手掛かりぐらいは残ってそうだよね」
「そうだな。あの魔獣がこの辺りにいない奴なら、何かしらの仕掛けでもあると思うんだが……」
何も見つけられず、若干うんざりとしながら俺は岩山の壁に何となく寄りかかった。否、寄りかかろうとした。
が、その瞬間、何故か俺の体が壁を透かして倒れこんだ。
「うおっと!」
それに気付いた瞬間、既に時は遅く、俺の体は壁を透けて後方の空間へと転がってしまった。
「ソーマ!!」
慌ててミリが俺に手を伸ばすが、その手を俺は掴み損なって転がり、地面に叩きつけられる。
何とか頭だけはと庇い、付け焼刃の受け身を取る。が、背中や腰が地面にぶつかる。
「いってぇぇ……」
俺が打ち付けた背中をさすりながら体を起こすと、突然先ほどまで潜っていたのと同じ洞窟が広がっているのが見えた。
「これって……」
俺は立ち上がり、自分が転がってきた洞窟の壁に手を伸ばす。すると、壁はするっとすり抜けた。俺はそのまま顔を壁へと突っ込む。すると、さっきまでいた外の光景が見えた。
「あ、ソーマ」
「おう。ミリ、この中、洞窟みたいになってる。たぶん、外から見えないように偽装してる。ちょっと来てくれ。壁、そのまま行けば抜けられるぞ」
「うん。分かった」
そう言って、俺はミリと共に偽装された洞窟の中にも入っていった。
「ほぉえ~~。こんなところに洞窟が……って、あれ? よく見たら、ここ。来た事ある洞窟だ~」
「そっか。なら話は早い。わざわざ隠されてたんだ。きっとここに何かあるんじゃないか?」
俺は俄然やる気が湧いてきて、俺はミリにとりあえずここを探索しようと告げた。
ミリも大きく頷き、俺達は連れ立って洞窟の奥へと歩き出そうと足を出した。
――GRYUUUUUUUUUUUUUUUUUU
と、獰猛な呻きが聞こえたのは、その瞬間だった。
同時に、暗い洞窟の奥から、先ほど村で戦ったマッドネスビースト達が姿を現す。
「出やがった! って事はここは当たりって事だな」
そう思い、俺はミリの前へと出る。そして、迫りくるジャガー達をにらみつける。
「さんざん回り道させられていい加減うんざりしてたところだ。悪いが、ぶっ飛ばさせてもらうぜ!」
俺はさっきまでいろんな洞窟を探索してもスカだった苛立ちを燃やした。できれば一一自分のトラウマを抉る事はしたくなかったから。
俺の狙い通り、その苛立ちは俺の怒りを増幅させ、爆発へと至らせる。同時に、俺の全身を黒い光のオーラが包み込む。
「ミリ、俺が先行してあいつらをぶっ飛ばしながら進む。あとをついて、後ろから道の指示をくれ」
「うん。ここ一本道だから迷う事はないよ。ジャンジャン行っちゃおう!」
「了解だ! 行くぜぇぇ~!!」
答えるや否や、俺は奥で待ち構えるジャガー達に突進、そのまま拳を叩きつけた。忽ち一匹目のジャガーは消滅する。が、奥から次のジャガーがすぐに走ってくる。
「邪魔だ、化け物! 道開けろ!!」
怒りのテンションのまま、俺は次の相手に拳を突き出し、消滅していくのには目もくれずに前進する。
それから、奥から敵が走ってくる度に、拳を振るって倒しながら、前へ前へとガンガン進んでいく。
「ソーマ、そろそろ洞窟の一番奥だよ」
それで、どれくらい進んだか、ミリが後ろから教えてくれる。
「OKだ! 黒幕の面、やっと見れるってわけだな。気をつけろよ、ミリ」
「リョーカイだよ!」
それを聞いて、俺は襲い来る魔獣を殴り倒して、遂に洞窟の最奥へと続く、光が見えてきた。
そうして、俺達は連れ立ってその最奥の光の先へと走りこんだ。
そこは天井が空洞になった広い空間で、俺達が入ってきたところに狭い道が続き、その先に円形の巨大な地面が広がっている。そして、その円形の広い空間には巨大な魔方陣が描かれている。
魔方陣は円形の広場いっぱいに広がっており、赤黒い怪しげな光を纏ってゆっくりと回転していた。
「なんだ、コレ。魔方陣?」
「あ、見て!」
俺が眉をひそめてじっとそこを見ていると、ミリが鋭く告げる。すると、魔方陣から突如禍々しい光が収束し、徐々に何かの形を作ったかと思うと、一気にマッドネスジャガ―へと変わった。
「な……まさか、あの魔方陣が魔獣を生み出してるのか?」
俺の言葉を裏付けるように、魔方陣からは続々と魔獣g誕生している。魔獣達は俺達の姿に気付き、一斉に俺達目掛けて走ってきた。
「チッ! ともかく、あいつら片付けないとな!」
気合を入れるように叫び、俺は狭い道を走って迫ってきたジャガー達を迎え撃つ。
飛び込んできた敵を、俺はカウンター気味に顔面パンチを叩き込む。その一撃を皮切りに、俺は何体も湧いてくる魔獣達をなぎ倒しながら、ミリを伴って魔方陣の元へと辿りつく。
「ったく。魔方陣があるなんて思ってなかったぞ。コイツ、どうやったら止められるんだ?」
「う~ん。多分、魔方陣が描かれてる場所を破壊すれば、効力は失われると思う。詳しくは知らないけど、昔じっちゃんに聞いたんだ」
「なるほど。なら一発、かますか!」
ミリの言葉を受け、俺は湧いてくるモンスターを片端から倒しながら、魔方陣が書かれた地面を破壊すべく、この無限に敵が湧いてくるうざったい状況に怒りを燃やしてオーラを高める。これだけ大きな地面を一撃で破壊するには相応の力が必要だと感じたから。
そうして、一際黒い光が高まったのを見計らって、地面へと全力の拳を叩きつけた。
「ぶっ壊れちまえよ! うざったい魔方陣!!」
叫び、全力で地面を殴る。同時に全身のオーラを流し込むイメージを高める。すると、全身のオーラが拳の先から凄まじい奔流となって地面へと注がれていく。
魔方陣は俺の一撃を受け、激しく点滅していく。本来なら地面など等に砕けているであろう状況だが、魔方陣は激しい抵抗を見せて中々壊れない。
「いい加減壊れろ~~~!! 抵抗してんじゃ、ねぇ~~~~~!!」
俺は中々壊れない魔方陣に対する苛立ちを爆発させ、更にオーラを叩きつける。
すると、魔方陣はガラスが割れるような甲高い音をたて、跡形もなく割れた。
よし、壊れたぜ!!
と、俺が思ったのもつかの間、地面に巨大な亀裂が走った。亀裂は一気に円形の地面に広がり、やがて地震でもあったかのように割れ、崩れだした。
「ッ!!? ヤベェ! やり過ぎた!!」
どうやら力加減を間違えたらしい。円形の地面が割れて隆起し、徐々に崩落し始める。多分、遠からずこの場所は全部崩落して無くなる。
「すまん、ミリ! やらかした!」
「そんな事の前に、早く逃げよう!」
ミリの答えに、俺達は走り出す。
それから足元がおぼつかないながらも懸命に足を動かし、全力で走った。その度に、地面が落下していく。
その中を、俺は足元に隆起して揺れる中を転ばないように必死で走った。
この状況、気分はインディージョーンズだ。違うのは、今は現実で、あちらは映画という事。筋書きがある映画と筋書きが無い現実では状況からして大分違う。
そうして、俺は何とか通路のすぐ近くまで駆け抜ける事に成功した。
よし。
これで何とか生き残れる。
が、そこで足元が急激に崩れだし、落下した。同時に、俺の足が突如隆起した地面に引っかかった。
「あッ!!」
そうして、俺は通路に辿り着く寸前で転びそうになる。それでも懸命に手を伸ばすが、ギリギリ通路に手が届かない。同時に俺の体は一気に無事に残った細い通路が遠ざかっていく。
ヤベェ! 死んだ!
「ソーマ!」
と、俺が死を覚悟した瞬間、声がしてミリの手が伸びてきた。その手を、俺は反射的に手を掴んだ。
「えぇ~~い!」
その瞬間、ミリは全力で俺の体を引き上げた。俺も俺で、崩落していく地面を全力で蹴りだす。
そうして、俺の体が空中に投げ出され、引っ張る力と蹴りだした力で前のめりに通路へと倒れこみ――
「あッ」
「うあぁぉっ!」
そのまま、俺の手を引いてくれたミリを巻き込んで狭い通路へと倒れこんだ。
ガツンという激しい音と共に、俺の体はミリと共に倒れこみ、通路を滑る。
「あ、てぇぇぇ~~ッ」
それから暫く、打ち付けた体を持ち上げ、顔を上げる。
すると、目の前には同じく倒れたミリの顔があった。彼女も苦痛に顔をゆがめていたが、すぐに目を開き、そこで俺と目が合う。
ちょうど押し倒したような体制で、俺とミリは無言で見つめあった。そうすると、今まで気付かなかった若く瑞々しい唇や潤んだ瞳がやけにはっきりと見える。なんか、異様に恥ずかしい。
「あ、そ、その、ごめん」
俺は慌てて顔を背ける。何しろ俺のドジで地面を破壊した挙句、助けてもらって、更にこうして押し倒してしまったわけだ。その圧倒的罪悪感と彼女の美少女としての側面を改めてまざまざ認識させられてしまったことへの気恥ずかしさに、とても目を合わせてはいられなかった。
「あはは。大丈夫大丈夫。ソーマが落ちなくて良かったよ」
そんな俺とは裏腹に、ミリは明るく無邪気な声で告げた。気恥ずかしさに耐えてそちらをそっと見ると、そこには声音と同じく無邪気で、かつ圧倒的な美少女然とした笑みでこちらを見ている。
いかん。コレはダメだ。こんな可愛い子の顔、間近で見てたら耐えられん。
俺は慌てて立ち上がると、ミリの腕を掴んで彼女を立ち上がらせ、熱くなった頬を隠そうとそっぽを向き伝えた。
「とりあえず、戻るか」
「うん」
まったく邪気の無い声に、俺は耳まで熱くなってしまった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる