あやかし百鬼夜行

佐藤紗良

文字の大きさ
上 下
21 / 87

【3】九十九の願い事……⑧

しおりを挟む






(眠い……)

 翌日、太郎は休みだった。
 午睡の時間、なかなか寝付けない園児に添い寝をしていた佐加江は、昨夜あまり眠れず、油断すると一緒に寝入ってしまいそうだった。と、園児がカーテンの隙間を凝視していた。その視線をたどっていくと、角が見えたような気がした佐加江の眠気は、一気に吹き飛んだ。

(何やってるの?!)

 青藍だ。隠れているつもりなのかもしれないがカーテンに影も写っているし、隙間から覗く目が佐加江を見つめている。

「怖……」

 教室内にいる誰かにバレていないか心配であたりを見回したが、添い寝をしていた園児は眠りにつき、テーブルで作業をする二人の先生は気づいていないようだった。

 どこかへ行け、と手を払うが何を勘違いしたのか、青藍は手を振り返してくる。

(違う、そうじゃない)

 園児に布団を掛けた佐加江は、青藍を無視して先生たちの作業に合流した。
 クリスマス会の演目の桃太郎のお面作り。まだ先だが、芋掘りやら何やらとこれから忙しくなるのを見越して、今から作業を進めていた。

「佐加江先生は鬼のお面、切り取って」
「了解です。これ、怖すぎじゃないですか?」
「だよね。私もそう思う」

「もっと優しい顔してるのに……」

 佐加江は切り取った面を本物にぜひ見てもらおうと、顔に当て振り返る。

 牙がむき出しになった、赤鬼の顔。佐加江の緩くカールする癖っ毛と鬼の面があいまって、小人鬼の出来上がりだ。

 窓からずっと覗き込んでいた青藍の顔が固まった。が、青藍と同じように今にも泣き出しそうな顔をした園児もひとりーー。

「あ……」

 口がへの字になり、次第に目が真っ赤になる。みるみる間もなく涙が溢れ、大声で泣き出してしまった。

「佐加江先生」
「すいません! ごめんね、先生だよ。ってか、このお面、怖すぎですから」

 面をテーブルに置き、園児を抱き上げると青藍の姿はなくなっていた。

 午睡の後も、その姿は見かけなかったが仕事が終わると、青藍は駐輪場の隅で膝を抱えてうずくまっていた。

「……さっきの面、恐ろしかったです。本物より本物のようで」

「そうですね!」

「何か、怒ってます?」

「ナニカ、怒ッテマスゥゥ?!」

 すうっと大きく息を吸った佐加江は、自転車のスタンドを勢い良く蹴った。

「なんで保育園まで来るの。誰かに見つかったらどうするの? せめて角をしまっておくとかさ、先生たちは気付いてなかったけど青藍のこと見てた子いるからね。見える子には見えるんだから」

「発情が起こらないか心配で」

「今までなかったんだもん、平気。それに大きくなった僕が嫌なんでしょ。大丈夫だよ、気にしないで」

「そう言うわけでは」

 青藍と話しながら、佐加江は自転車を引いて歩いていた。これもリストに書いたような気がするが、テンションが理想とかけ離れている。

「嫌なのが伝わって来る。僕の背中の紋、消してよ。そうしたら番になる約束なんて解消だよ」

 心にも思っていない事を言い続け、佐加江の心はズキズキと痛む。

「ーー紋は消せません。私たちは、番にならねばいけないのです」

「義務か。それは義務なのか!?青藍のクソ馬鹿ヤロー!」

 佐加江が自転車にまたがり走り始めるとズシっと後輪が重くなり、どうにも先に進めなくなった。

「ちょっと!」

 装束の裾を気にしてか、青藍は荷台に女子のように横乗りし、佐加江の腰に腕を回してくる。

「私は佐加江と再会する事なく、このまま時間が過ぎれば良いと思っていたのです」
「それはどう言う意味?」
「そうすれば、佐加江は発情などなく普通に暮らしていけるでしょう。鬼は人の世では嫌われ者です。そんな私と番になるなど……」

「は?何言ってるの?!僕は子供の頃から言ってるよ、結婚してくださいって」

 なんとか鬼治稲荷の前まで来ると急にペダルが軽くなり、危うく転びそうになってしまった。

「……また、すぐいなくなる」

 青藍の姿は見えなくなっており、佐加江は頬を膨らませながら家へ帰った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

手〈取捨選択のその先に〉

佳乃
BL
 彼の浮気現場を見た僕は、現実を突きつけられる前に逃げる事にした。  大好きだったその手を離し、大好きだった場所から逃げ出した僕は新しい場所で1からやり直す事にしたのだ。  誰も知らない僕の過去を捨て去って、新しい僕を作り上げよう。  傷ついた僕を癒してくれる手を見つけるために、大切な人を僕の手で癒すために。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

【完結】A市男性誘拐監禁事件

若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。 男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。 しかし、おかしな点が多々あった。 男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。 男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。 しかし、それは男性に限ったことでなかった… 誘拐犯×被害者のラブストーリーです。 性描写、性的な描写には※つけてます 作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

蜘蛛の巣

猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω) 世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。 混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。 やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。 伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは? ※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

処理中です...