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第10話 うぃる
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主様からやえは話を聞いた。
「俺の名はウィリアム。
それが父から名付けられた名前だ。
言いづらかったらウィルで良い。
母もそう呼んでいた」
「うぃる。
変った響きじゃけど……なんか良い名じゃ。
主さんに似合うちょる」
「異国の名だな。
父は異国の人間だったらしい。
これは父方の呪いなのだと思う」
うぃるは昼間は人間、夜になると狼の姿になると言う。
これはうぃるの父親も同じであったらしい。狼の姿で野獣を倒したり、里に現れた父の姿を見て人々は山の主と呼んだ。その父親とは幼い頃死に別れた。詳しい事情は誰も知らない。
うぃるは母親と山奥で暮らしていた。狼の姿になる子供を普通の里人に見られる訳にはいかない。
「そしてある程度大きくなって、俺は主を継いだ。
山の危険な獣、熊なんぞを狩って里に持って行くと人々は俺を主と呼んで食料や生活品を捧げてくれた」
「はぁ…………
ちっちゃい頃に父ちゃが死んだんか。
そいで母ちゃも数年前亡くなった。
それは……大変じゃったねぇ」
「やえ……お前ホントに俺の話聞いてたか?」
「聞いちょるよ。
それで一人で里の人のため、熊を倒しちょったんじゃろ」
やえは近づいて、彼の頭を撫でていた。
「うぃるは偉いねぇ」
「…………?!……
馬鹿か、子供扱いするな」
「いけん、呼び捨てにしてもうた。
主様じゃったね。
うぃる様と呼ばんといけんかった」
「……要らない。
様付けなど要らない。
うぃると呼んでくれ」
こうしてうぃるとやえの新たな生活が始まった。
うぃるは日が落ちる夕刻になると姿を消す。夕日の中で徐々に毛が生えて、人間の姿から狼に替わるらしい。
初めて逢った時はその変化する様を見せつけて、やえを驚かせて帰らせるつもりであったらしい。
朝日が昇ると人間の姿に変わる。
異国にはそんなお人もおるんじゃねぇ。いや主さんと呼ばれる、神様に近い人じゃからこその特別な事なんかのう。
気にはなるがやえとしては確かめる術が無い。とりあえず、うぃるの家の掃除や炊事に精を出すやえなのである。
「俺の名はウィリアム。
それが父から名付けられた名前だ。
言いづらかったらウィルで良い。
母もそう呼んでいた」
「うぃる。
変った響きじゃけど……なんか良い名じゃ。
主さんに似合うちょる」
「異国の名だな。
父は異国の人間だったらしい。
これは父方の呪いなのだと思う」
うぃるは昼間は人間、夜になると狼の姿になると言う。
これはうぃるの父親も同じであったらしい。狼の姿で野獣を倒したり、里に現れた父の姿を見て人々は山の主と呼んだ。その父親とは幼い頃死に別れた。詳しい事情は誰も知らない。
うぃるは母親と山奥で暮らしていた。狼の姿になる子供を普通の里人に見られる訳にはいかない。
「そしてある程度大きくなって、俺は主を継いだ。
山の危険な獣、熊なんぞを狩って里に持って行くと人々は俺を主と呼んで食料や生活品を捧げてくれた」
「はぁ…………
ちっちゃい頃に父ちゃが死んだんか。
そいで母ちゃも数年前亡くなった。
それは……大変じゃったねぇ」
「やえ……お前ホントに俺の話聞いてたか?」
「聞いちょるよ。
それで一人で里の人のため、熊を倒しちょったんじゃろ」
やえは近づいて、彼の頭を撫でていた。
「うぃるは偉いねぇ」
「…………?!……
馬鹿か、子供扱いするな」
「いけん、呼び捨てにしてもうた。
主様じゃったね。
うぃる様と呼ばんといけんかった」
「……要らない。
様付けなど要らない。
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