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第五章 アルク野獣の森

第270話 死闘、森の巨人その1

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「ハァハァ、まだ死なないのか。
 いくら巨人とはいえタフ過ぎないか」
「フゥフゥ、まだ死なないなんて。
 いくら巨人とはいえタフ過ぎます」

聖戦士・槍ハチ子と聖戦士・弓ハチ美だ。

従魔少女達は“森の巨人”フンババと戦っている。
巨大な魔獣。
体力がハンパではない。
全員総がかりで体力を削り切ろうとしているのだ。

ハチ子が槍で刺す。
巨人はハチ美の『気絶の矢』で気を失っている。
殴り放題、斬り放題。

しかしもうハチ子に元気は無い。
これまで必死で槍を振るってきたのだ。

もう限界。
腕が重い。
槍に全身の腕の、腰の筋肉を乗せて突き刺す。
そんな力がもう無い。
槍を巨人の腿の上に。
腕の力を抜くと槍が重さで落ちていく。
巨人に槍の刃先が刺さる。
そんな状態。

ハチ美は弓矢を射る。
矢そのものは軽く見えるかもしれない。
だが、弓の弦を引き絞る。
集中して相手を狙う。
弓矢は体力も気力も使う。
既にハチ美も限界。

ハチ子に並んで隣で矢を巨人に刺す。
もう弓を引き絞る力は無い。
矢を持って、巨人に突き刺す。
直接矢じりでザクザクと刺していく。


「うぅー、タマモもう疲れた」

斧戦士にして忍者タマモももう限界。
ハルバードを持ち上げ、斧刃で巨人の肩を打つ。

長い柄の部分に斧の両刃が有り、先端は鋭い槍状の武器。
振るうだけでも体力を使う。
タマモもハチ子と同様。
ハルバードを持ちあげては力を抜く。
斧の重さで切り込む。


「タマモちゃん、『マヒの遠吠え』はまだ使えますか?」

みみっくちゃんが訊く。
従魔少女達は巨人を行動不能にして戦っている。

ケロ子が延髄蹴り、タマモが『マヒの遠吠え』。
続いてみみっくちゃんの『眠りの胞子』ハチ美の『気絶の矢』
みみっくちゃんとハチ美はもう限界。
これ以上状態異常は使えない。


「タマモもうダメ。
 さっきので限界」

タマモは状態異常攻撃を使ったのは一回だけ。
しかし既にスキルを使っている。
斧戦士のスキル『猛り打ち』。
忍者のスキル『分身』。
もう魔力に余裕は無い。


「ハッハッハッハッ」
ケロ子は打つ。
巨人のアゴを掌底で。
打つ。
打つ。
打つ。

もう『身体強化』の効果は終わっている。
ケロ子の得意技、跳んでからの蹴りを喰わせる余力が無い。
巨人の胸元に座り込んで腕で打つ。
最小限の動きで顎を打ち続ける。


しかし。
巨人が立ち上がろうとする。
周囲の従魔少女達を撥ね退け動き出す。
状態異常の効力が切れた。

巨人は無傷では無い。
ボロボロ。
満身創痍と言っていい。
右腕は傷つき、まともに動かない。
両足も至る所に刺し傷が有る。
血が流れているのだ。
アバラ骨が折れているのか。
腹は変色し胸元は歪む。
背中の鱗は所々剥がれている。


WWOOOOO!!

しかし。
まだ吼える。
吠え声を上げる力が有る。

巨人に撥ね退けられ、ハチ子が倒れている。
起き上がろうともがく。
パッと跳ね起きる体力が残っていない。
槍を杖の様に使いながら、ギリギリと立ち上がる。
無理矢理自分の身体を持ち上げる。


巨人が石斧を振り回す。
巨人だってボロボロ。
勢いよく振るうパワーは無いが。
斧の重さで振り回すだけで破壊力は絶大。
ハチ子はまともに避けられない。

タマモが走る。
ハチ子を押し倒す。
ハチ子とタマモの上を斧が通り過ぎていく。


くっ。
ケロ子は歯噛みする。
もう状態異常の力は使えない。
巨人もボロボロだけどみんなもボロボロ。
巨人の攻撃を避ける元気が残ってない。
どこかで喰らってしまったらっ。

みみっくちゃんは見上げる。
目の前にはデカイ巨人。
5、6メートルは有る
普通の人間の3倍サイズ。
体中傷だらけでは有るが。
後一発で倒せる、そんなフンイキでは無い。
マダマダオレハマイラネエ。
そんな風なのだ。

巨人が天を仰ぐ。

WOOOO!WOOOONWOOOOON!

ああ。
回復してしまう。

少女達に絶望感が広がる。
もうみんなスキルは使い果たした。
これだけ攻撃して倒せないなら。
そこで回復してしまうのなら。

駄目。
もう無理だ。
そんな気分が広がる。


「待つです。巨人を見るですよ。アイツ回復出来てないですよ」

少女達は巨人を見上げる。
巨人が天を仰いで祈るように叫ぶ。
血が止まる、剥がれた鱗が戻る、傷が消える。
今までだったらハッキリわかるレベルで回復していた。
それが今は。
もしかしたら、少し回復してるのかもしれない。
見て分からない、判別が付かない程度。


「ケロ子お姉さま、ナイスですよ」
「みみっくちゃんのおかげだよっ」

「どういう事だ?」
「どういう事です?」

「木属性の魔法です。巨人の回復はおそらく木属性の魔法なんですよ。
 みみっくちゃんも木属性魔法使うです。そしてその効果は多分森の中、木々に近くに居る方が効果が上がるんです。
 村の中で練習するより、森に入って木魔法使う方がパワーが上がるんです。多分自分の魔力だけじゃない、植物や木々の力を借りてるんです。
 あの巨人も一緒でしょう。あの戦っていた舞台は木で出来ています。あの舞台に乗っていると木属性の効果が上がる。
 効果の上がった回復魔法で今まで回復していたんです」



なるほど。
ショウマは納得する。
空間に映し出されていた映像で従魔少女達と巨人の戦いを見ていた。

巨人はデカイ。
おそらく途方もない体力。
従魔少女全員が倒しても削り切れない。
少女達は知らないが。
「そう、木属性のランク3『森の息吹』よ。
 全員が少し体力が回復する。それも数分間回復し続けるの」
“森の精霊”フワワはそう言っていた。

少し体力が回復する?
明らかにたくさん回復してるよ。
おかしくない?
そう感じていたのだ。

場所。
木で出来た舞台で戦っている。
そのブースト効果。

よし、回復の威力は減らした。
でもこれからどうする。
まだ巨人は一発、二発じゃ退治出来そうにない。

「ねぇ、フワワさん。
 ここから僕、巨人に魔法で攻撃できないかな」

あれフワワさん?
さっきまで隣で一緒に映像覗き込んでいたのに。
見るとフワワさんは倒れている。
寝転んで上半身だけ起こす。

「無理よ。
 空間が離れてる。
 あそこは『野獣の森』でも階層が分かれてるわ」

「大丈夫?
 本当に具合悪そうだよ」

「本当に悪いの。
 “鋼鉄蛞蝓”にずっとやられていたし。
 この間の“金環形邪蟲メタルワーム”もダメ押しになったわ」

「?」

「あの子達、『野獣の森』の子じゃないわ。
 『鋼鉄の魔窟』の子達。
 あれに暴れられると『野獣の森』そのものがおかしくなる」
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