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第五章 アルク野獣の森

第260話 野獣の森ラスボスその6

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……えっ?!……

ショウマは足を踏み出した。
舞台へ。

ラスボスステージ。
予想とラスボス違ったけど。

獅子の仮面をかぶった女性。
“森の精霊”フンババさん。
女性と従魔少女の女子だけバトルになるんじゃなかったの。
嬉し恥ずかしキャットファイト。
戦ってるうちに鎧がはずれちゃったりして。
ポロリもあるでよ。
みたいな。
そーゆーの。

違ったの。
サギじゃん。
んじゃ何のためにここまで来たのさ。
いや、何のためにかは決まってるんだった。

そう。
ショウマには目的が有るのだ。
『野獣の森』その奥の最奥まで来た目的。

しかし。
舞台へ足を踏み出したショウマ。

なんか違う処にいる。
ここどこ?

さっきまで見えてた石斧巨人はいない。
というかショウマの前方を歩いてた従魔少女達もいない。

みんなっ?
何処へ行ったの?

「……来てくれたんですね」

誰かが言った。

獅子の仮面をかぶった女性。
“森の精霊”フンババさん。
神様と思ってる人もいる。
そうザクロさんが言っていた女性。
女性がショウマの目の前に立っていた。




「……マズいですね」
「どうしたよ、ムゲン」

チェレビーは訊く。
訊きながらも前線を見ている。

ケガや疲れの多い戦士を後ろに下げて、回復させる。
替わりに回復終わった戦士で前線を支える。
何時の間にか監督のポジションになってる男だ。

「弓兵の部隊です」
「……ああ、そう来たか。
 まあいずれ来ると思ってはいたが……」

帝国軍だってシロウトじゃない。

自分達より圧倒的に数の少ない戦士達。
亜人の戦士に阻まれて何もせずにいるハズが無い。
何かの手は打ってくるだろう。
そう思ってはいた。
むしろ対応が遅すぎるくらいだ。

「道が狭くて兵士が詰まってますからね。
 帝国側もそう簡単に隊を移動できなかったんでしょう」

前では亜人の戦士達が帝国兵と戦っている。

人数差は圧倒的。
しかし道は狭い。
前列で戦えるのは5人程度。

状況はギリギリ拮抗状態。
亜人の村の戦士達はタフだ。
タケゾウやキバトラ、強者がいる。
ムゲンによる弓の支援。

戦線が崩れそうになればコザルがフォロー。
キズを受けたものは交替で後ろに下がる。
チェレビーが薬で回復。
それで保たせてきた。

そこに帝国軍が弓部隊を導入してきたのだ。
現在でこそなんとか戦士達は戦列を保っている。
しかし後方から弓で狙われ出したら。
後方にいる回復中の戦士やチェレビーも狙われる。
これ以上保たせるのは厳しいだろう。

「逃げようぜ。
 女達はもう逃げただろう。
 俺達も逃げっちまおう」
「無理でしょう。
 帝国軍が行かせてくれないですよ」

「んじゃあどうすんだよ。
 ムゲン、アンタだって時間稼ぎしたら逃げるつもりだったんだろ」
「さあて、そこまで考えてませんでした」

「嘘だろ!」

そこに弓矢が降ってくる。

観察していた通りである。
帝国の弓兵は自分達の同僚は撃ちたく無いのだろう。
前面で切り結んで出る所を越えて後方を狙う。

弓なりに上空に向かい矢を飛ばす。
落ちてきた矢が亜人側の後方を襲う。
この撃ち方では正確に狙いを付けることは出来ない。 
しかし帝国軍は数がいるのだ。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのである。

「やべぇ」

チェレビーの近くの地面に矢が刺さるのだ。
続けて矢は何本も降ってくる。

「冗談じゃねえよ。
 オレは逃げるぜ」
「分かりました。
 お好きにどうぞ」

「被害を受けそうな女が逃げる時間は稼いだんだ。
 充分だろ」

そう言ったがチェレビーはウロウロしたまま。

亜人の村の戦士は逃げない。
ムゲンも降ってくる矢を避けながら弓矢を構える。
後方の弓兵を少しでも減らすつもりのようだ。

タケゾウは変わらない。
最初から嬉々として前線で刀を振り回している。

チクショウ。
何でコイツら逃げねーんだよ。

「あーもう、クソッ」

言いながら矢傷を受けた亜人の戦士の治療をする。
矢を革鎧から引っこ抜き、消毒液をぶっかける。

ヒュッ。
上から降ってくるモノを小柄な人影が受け止める。

顔まで布装束で隠した忍者。
コザル。

チェレビーに当たる軌跡を描く矢。
そいつを受け止めたのだ。

「逃げるなら今のウチだ。
 弓兵が更に追加されている」
「何だと。
 やべーじゃねーか。
 お前こそ逃げろ」

「コザルは平気だ。
 イザとなったら一人でも逃げられる。
 自信がある」
「……あのな」

チェレビーがコザルを引き寄せる。
2人にしか聞こえない声で囁く。

「お前女だろ。
 可愛いムスメは戦場じゃろくな目に遭わねえ。
 相場は決まってんだ」
「な、ななな……」

薬師のチェレビー。
医者の真似事もしている。
体形や歩き方を見れば男か女かくらい分かるのだ。

「……チェレビーも一緒に逃げるのか?」
「いや、オレは男だからな。
 一人だけ逃げるようなカッコワルイ真似できるかよ」

「ならば自分も逃げない。
 ……忍者だからな。
 任務が最優先だ」

そんなもんか。

自分がカッコワルイ真似できねー。
そう言ってるのであまりしつこく言えないチェレビー。

コザルが主人キューピーから言い使っている任務はエリカの護衛。
ついでにショウマから目を離すな。
その二つだ。
どちらともあまり関係ない事をしている。
そこまではチェレビーには分からない。

「分かった。
 イザとなったら本当に逃げろよ」

そう言おうとしたチェレビー。

ヒュッヒュヒュヒュッ。

矢音、しかも複数。

上も見ずに目の前の小柄なムスメを抱きしめ自分の身体で守る。
上から覆いかぶさったのだ。

ムゲンも見上げる。

多数の矢。
マズイ、これは誰かしら喰らう。

だが。

ビュッ。

風を切り裂く音がする。
矢音では無い。
頭上の空間を走る唸るモノ。

あれは革鞭か。
広い空間を革鞭が薙ぎ払う。
矢のほとんどを払い飛ばす。


「うふふ。
 こんにちは。
 手練れのお姉さんの助けは要るかしら?」

革鎧の上にコート。
両手に革鞭を持っている女冒険者。
マリーゴールドであった。

誰だか知らないがムゲンは答える。

「ええ。
 ちょうど必要としてた処なんです」



それはそれとして。

布装束の忍者コザル。
コザルは上を見ている。

今なにが起きた。
男に可愛いムスメって言われた。
そのまま男が自分を抱きしめた。
男は自分に覆いかぶさっている。
これは一般的に押し倒されたと呼ぶのでは。

……今……もしかして……自分は……
男に可愛いと言われて押し倒されたー?!
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