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第五章 アルク野獣の森

第229話 鋼鉄蛞蝓その5

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村では貨幣をほとんど使ってない。

大工仕事の分、食料やなんやらが替わりに渡される。
とは言っても順番待ち。
組合の建物なんて優先順位はずーっと後の方。

いつまでも手を付けられない。
その筈だったのに聖者サマがクチを利いてくれたのだ。

ちなみに貨幣は少しづつ使い出してる。
他所から冒険者が来るようになった。
彼らが買い物するのにお金を取ってる。
食堂も出来た。
そこで食べようと思ったら亜人の村の住人もお金が必要。


「なるほど、聖者サマか。
 どんな人なのかしら。
 顔を見てみたいわね」
「今日は聖者サマ、
 『野獣の森』に行くらしいから顔出すかもねー」

「じゃあ聖者サマの話はもういいわ。
 大事な話をしましょう」

大事な話。
別の土地からわざわざ冒険者組合支店長が訪ねて来た用事。

何だろう。
ザクロは知らない。

マリーゴールド。
冒険者組合支店長だと言う。

おそらく元冒険者。
革鎧の上からコートを着ている。
武装とそれを隠す上等な外着。
オフィシャルな席にも耐えられるギリギリのライン。

名を上げた冒険者が引退して組合のポストに座る。
珍しくは無い。
けど支店長にまでなるなら相当の知名度、もしくは能力が無いと。
そんな人がわざわざ亜人の村までやってくる大事な話。


「……まだ、新築祝いやっていないのよね?」
「はぁ?」

上司が応えるけど何の話か分かってないみたい。

「やってないわね、そうだと言って!」
「やってないよー。
 最近すごい勢いで建物造られてるからねー。
 してるヒマが無いんだよー」

「フフフフフ。
 よし、じゃあ新築祝いしましょ。
 呑むわよ」

すでにマリーはコートから瓶を取り出してる。
酒瓶。

どこにしまっていたのか。
葡萄酒、どぶろく、蒸留酒、エール、ライスワイン。
次々取り出す。


「いえ、あのですな。
 マリーゴールド様、今は職務中でして」
「固い事言いっこなし。
 組合の建物が新築された。
 新築祝いよ。
 一杯くらい呑んでも、誰も文句は言わないわ」

「あははは。
 ザクロも呑むー」
「コラ、ザクロさん」

「この葡萄酒がオススメよ。
 新酒なの、最近人気上昇中ね」
「葡萄酒いいね、この村にはどぶろくかエールしかないんだ」

女性同士が一気に盛り上がる。

グラスで乾杯。
酒を呑みあうのだ。


「支店長も一杯くらいどう?」
「いえ、私は」

「支店長ー。
 新築祝いだよ、新築祝い」
「新築したのなんて何日前だ。
 今さらそんな言い訳出来るか」

ザクロとマリーゴールドが盛り上がってる。
お互いのグラスに注ぎ合う。

今度、村のどぶろくも持ってくるよ。
へー、呑みたい呑みたい。
大工の奥さんが作ったヤツがおいしーの。
いいわねー、このライスワイン試してみて。
なにこのスッキリした味、ウマー。
でしょ、どぶろくと原料は同じなんて信じられないでしょ。
ウソー。

既に女子二人は酔ってる。

亜人の村の組合支店長は呆れる。
部下の女性に。
怖いもの知らずな事だ。

ザクロはまだ若い。
知らないのだろう。

支店長の年代なら誰でも知ってる名だ。
酔いどれマリー。
女冒険者サラと並ぶ有名人だ。
すっかり名前を聞かなくなったと思ったら、冒険者を引退して迷宮都市の組合の支店長になっているとは。

【次回予告】
色々テキトーに言ったような気もするね。カレー、ラーメン、コーヒー、プリン、チョコレート。久々に食べたいなと思うモノを羅列。こんなカンジと伝えた。

「イタイイタイ、口の中が痛い。おのれ、王を攻撃するつもりか」
次回、ハチ子は怒ってる。 
(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
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