上 下
215 / 289
第四章 地底大迷宮と暴走する英雄と竜の塔と鋼鉄の魔窟と

第215話 地底大迷宮とレオン王子その3

しおりを挟む
『地底大迷宮』の7階。
石造りの通路が複雑に絡み合ってる。
前回『花鳥風月』が来た時には奥に8階への階段らしきものを見つけた。
そこで引き返している。

7階は大した敵はいない。
元『地下迷宮』の一階に居た魔獣が出るだけ。
雑魚の“飛び廻るコイン”、“吸血蝙蝠”。
少し強めなのが“狂暴犬”。
こいつは体力が有って攻撃力も有る。
以前の『地下迷宮』1階では1頭しか襲ってこなかった。
『地底大迷宮7階』では二頭襲ってくるのだ。
あとは“毒蛙”。
こいつは毒の攻撃をしてくるし、仲間を呼んだりもする。


「あーっはっはっはっはっ!」

一行は呆れている。
混成冒険者チーム。
女弓士カトレア、重戦士ガンテツ、侍剣士キョウゲツ、女重戦士ビャクラン、武闘家イヌマル。
全員死んだサバのような目になっている。
王子の行動に慣れてる軽戦士メナンデロスだけが気にしてない。

「レオン王子、
 いつもよりノリノリっすよ」

カトレアに言ってるのか。
応答する気になれない。
カトレアの前では男が戦っている。
笑いながら。
炎をまき散らしながら。
コイツ、ホントウに王子様かな。

西方神聖王国第一王子レオンだ。
魔獣に遭遇した彼はいきなり走り出した。
剣を振りかざす。
すると剣から飛んでいくのだ。
宙に浮かぶ火の玉。
火の魔法に似た攻撃。
それだけで“飛び廻るコイン”や“狂暴鼠”は消えていった。

どんな魔獣が出ようが王子は真正面に走ってく。
そして剣を振り回すのだ。
「あーっはっはっはっはっ」
ハイテンションに笑いながらである。
相手が“毒蛙”だろうが、“吸血蝙蝠”だろうが同じである。
魔獣が一体でも五体出ようがお構いなし。
火の玉をぶっ飛ばしたあげく、自分が突っ込んで行くのだ。
「あーっはっはっはっはっ」
大笑いしながら。

最前列にいるビャクランやガンテツも一緒に魔獣に対応しようとする。
しかし王子は他の冒険者を見てない。
一人で突っ込んで行くのだ。
「あーっはっはっはっはっ」
そして火の玉をぶっ飛ばす。
一発じゃない。
3,4発の火の玉。
それが剣の一振りで飛んでいく。
王子の横に並んで戦おうなんて思ったら危なくてしゃーない。
二人の重戦士はあっという間に諦めた。
協力して戦おうと考えるのが間違ってる。

“狂暴犬”だと魔法一発じゃ倒せない。
そのまま王子は走っていくのだ。
「あーっはっはっはっはっ」
剣ごと体当たりである。
剣技もクソも無い。
突っ込んで行きぶっ刺す。
魔獣の返り血を頬に浴びてる。
血みどろで笑顔を浮かべるのだ。


やべー。
絶対こいつやべーヤツだ。
カトレアはテンションダダ下がりである。
なんだか少し前に別の意味でやべーとか思った気もする。
整った美青年が浮かべるカワイイ笑顔が心のどこかに焼き付いたような。
そんな錯覚、そんな事が遥か昔に有ったような気もする。
若き日の過ちってヤツだな。
英雄の王子様なんていなかったんだ。
金髪碧眼、美青年にして王子、もしかしたら世界一強い冒険者。
そんなモノ物語だけの存在だったんだ。
フッ、分かっていたことさ。
そんなの絵物語にしかいないってね。
心の中でハスに構えてみるカトレアである。


「大丈夫っすよ。
 今ご機嫌すけど、疲れて来れば収まるっす」
「暴れるだけ暴れて帰るってコトかい」

王子様が帰るんならウチも。
もう帰るんでもいーや。
そう思ってるカトレアだ。

「いやー、そろそろ魔力切れ近付くっすよ。
 そしたら大人しく後列で見学モードに入るっすよ」

なんだそれは。
暴れるだけ暴れて後は他に任せて見学。
ブルーヴァオレットさんも大変だって言ってたっけ。
確かにデタラメなワガママ王子だ。

「ブルーヴァイオレットさん。
 これは大変だね」

王子の親衛隊隊長ブルーヴァイオレットさんは後ろからオブザーバーとしてついて来ている。
分かっていただけますかという風情で微笑んだ。

彼女はチームメンバーとしては登録してない。
だからオブザーバー。
近くに居ても、魔獣を倒した経験値はチームメンバーにしか入らない。
冒険者チームが運び人を雇ったり、見習いを連れて行く時にそういうスタイルを取る。

「ブルーヴァイオレットさんは戦わないのかな?」

確か彼女も冒険者部隊の一員の筈だ。

「ブルーさんはあまり戦闘好きじゃないっすね。
 チームに参加するときは戦うっすよ」


王子の暴れっぷりであっという間に7階の奥まで辿り着いた。
一行は8階への階段前にいる。

「自分達はまだ8階に降りたコトは有りません」
ガンテツが言う。
前回、階段の場所だけ確認して引き上げたのだ。

「アタシ達は階段降りた」
『誇り高き熊』のリーダー、ビャクランだ。

「そうなのか?
 で8階はどうだったんだよ」
カトレアが訊く。

「知らないよ。
 同じような石造りの通路だった。
 それだけ確認して引き上げたんだ」
「なんだよ。
 なにも分かってないんじゃないか。
 降りたって言えるか、バーカ」

「降りたものは降りたんだ。
 だから降りたって言っただけ。 
 ウソは言ってない」

「カトレア、ケンカ腰になるな。
 いつものメンツじゃないんだぞ」

ガンテツに注意されてしまった。
確かに相手は『花鳥風月』の一員じゃない。
別の冒険者チーム『誇り高き熊』のリーダー。
周りにいるのもいつもの仲間じゃない。
あの王子はともかく、女神官もいるしブルーヴァイオレットさんも後ろにはいる。

「チッ。
 ワリィね。
 イライラした」
「いやいい。
 ビャクランも悪かった」

多分、ビャクランもイライラしてる。
顔も表情も全く見えない鉄鎧に身を包んだ女戦士。
それでもカトレアには分かる。
鎧に力が感じられない。
気合が入ってない。
伝わってくるのだ。
夢を壊された女の悲哀が。
コイツの方がカトレアより王子様に夢を抱いてたハズ。
今夜はビャクランの奴と一緒に呑むか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

処理中です...