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第三章 亜人の村はサワガシイ

第139話 双頭熊その5

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「ケロ子!」

ケロ子が来てくれた。
ショウマに向かってきていた“双頭熊ダブルヘッドベアー”。

向きを横に変えてる。
強引にケロ子がぶつかって向きを変えたのだ。

今、“双頭熊”の視線の先に居るのは薄い革鎧に身を包んだ女戦士。
ケロ子。

フットワークを使ってる。
軽い足捌き。
ケロ子は拳を上げてボクシングのような戦闘態勢。
魔獣と睨み合ってる。

矢が飛んでくる。
“双頭熊”目掛けて。
魔獣は前足で払いのける。


さっきも矢が飛んできてた。
ハチ美も来てるんだ。
どこだろう?
弓矢で狙ってるんだから、そんなに遠くないハズ。
キョロキョロするショウマだ。


矢に気を取られた“双頭熊”にケロ子は攻撃する。
下段回し蹴り。
右足を軸に左足に回転力を乗せる。
狙いは魔獣の足元。


「グガァッ」

“双頭熊”はグラついた。
3メートルを超す体長、それを支える体重が少女の蹴りでグラつく。


クッ。
ケロ子はローキックを当てて、一度距離を置く。

思いっきり蹴ったのに、相手はグラついた程度。
“暴れ猪”ならブッ跳んでった。

『身体強化』を使った上で。
『体当たり』も喰らわせたのに。
それで向きを変えられた程度。

ケロ子は“双頭熊”を見据える。
この魔獣、強いんだ。


“双頭熊”は無傷では無い。
先ほど『体当たり』を喰らった時か。
足を痛めてる。

4本の前足、その一本が上がっていないのだ。
蹴られた右足も動きが鈍い。

しかし、まだ全身を見れば弱った風情ではない。


今度は“双頭熊”がケロ子を攻める。

3本の前足が襲う。
交互にツメをキラめかせながらケロ子に迫る。

ケロ子は素早く躱す。
『身体強化』で体も軽い。
躱しつつ、また足元にローキック。
魔獣がグラついたところで離れる。

声が聞こえたのだ。

「避けてね」
ショウマさまの声。

……あれ?!
全部躱したと思ったのに。

ケロ子の頬から血が流れだしていた。
爪がかすめたのだろう。


『旋風(つむじかぜ)』


ショウマは風属性の魔法を唱える。

“双頭熊”はモロに喰らった。
ケロ子と攻防を繰り広げる魔獣。
『咆哮』する余裕は無いハズ。


“双頭熊”の前足が切れて落ちる。
肩から大きな切り傷。

やっとダメージを喰らわせた。
後、2,3発当てれば何とかなりそう。


「グワアアアアァッ!!ウグゥワアアアアァッ!!!ガァアアアアアアアア!!!!」

“双頭熊”が怒りの『咆哮』を上げる。

でももうショウマは怯えない。
ケロ子がそばに居るのだ。
見えないけどハチ美もいる。

相手は巨大で見た目はおっかないけど、魔獣。
ただの経験値の元なのだ。

でもケロ子は大丈夫?

ケロ子は立ちすくんでもいない。
大丈夫そう。


「わああああっ」
と思ったら叫んだ。


「ショウマさまをキズつけようとしたなっ。
 絶対許さないっ」

何?どうしたの。
ケロ子。
気合を入れてるのかな?

ショウマの予想はだいたい合ってる。

“双頭熊”が叫び声をあげた。
ケロ子はその瞬間怖くなった。

相手はケロ子より大きい魔獣。
爪が光ってる。
二つの顔で睨みつけてる。

『身体強化』して『体当たり』したのに効かなかったのだ。
ケロ子より強い。

でも。
ショウマさまが見える。
ショウマさまが魔法で攻撃してくれた。

だから魔獣はやられてる。
腕を一本無くしてる。

負けるモノかっ。
ケロ子は逃げたくなる心を抑えつける。

「ショウマさまをキズつけようとしたなっ。
 絶対許さないっ」

声を上げる。
宣言する。
宣戦布告。
絶対に引かない。


“双頭熊”が接近してくる。

4本の前足の中で。
一本は失い、一本は傷ついて動かない。

まだ動く手でケロ子を狙う。
二つの顔も近づく。
二つの巨大な口が開かれる。

その牙で噛みついてくるのだ。


「グウゥッ!」

熊の顎の筋肉はハンパではない。
ヒグマの一種、グリズリーはボウリングの玉に噛みつき砕いて見せたと言われてるのだ。


ケロ子は魔獣の顎を避ける。
避けつつ、カウンター。

せり出してきた“双頭熊”の顎を狙う。
後方宙返り蹴り。
魔獣の頭を蹴り飛ばす少女。


“双頭熊”と離れて、ケロ子は頬をぬぐう。
さっき切られたキズ。
思ったより深かった?
頬を拭った手は真っ赤に染まっていた。


あっ?!
あああああああああっ!!

ショウマはケロ子を見てしまった。
ケロ子が、ケロ子の頬が真っ赤になってるのだ。
血で染まっているのだ!


プチン。

何処かでなにかが切れた音がする


もう手加減無し。
手加減無し!

ちょうどみみっくちゃんもいないし。
周りのエリカやらコノハさんはパニックにおちいってる。

知ったコトか。
だいたい僕が何で魔獣に手加減しなきゃいけないの。
おかしいじゃん。


「ケロ子、避けてて。
 大きいのいくよ!」

“双頭熊”は少し警戒した風。

ケロ子と睨み合ってる。
ケロ子は魔獣と睨み合う目線を外さずにどんどん離れてく。

充分離れたのを確認して……
よし。
手加減無しと言ったら手加減無し。

異能の魔術師は唱える。



『絶対零度』


周囲の木々が、枝葉が凍り付く。
“双頭熊”が凍り付く。

足元の草も凍り付く。
音を無くした世界。

魔術師の声が響く。


『灼熱地獄』



輝く物が噴き上げる。
大地の中から。

魔獣を呑み込む。
ドロドロと溶かし尽くす。

数秒後、後には何も残らない。



コノハは何が起きてるのか良く分からない。

“双頭熊”が叫び声を上げた。
それから頭のシンがぼーっとしてる。

怖くてたまらない。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。

でも戦ってる。
誰か戦ってる。

魔獣と。
恐ろしい魔獣と。
かないっこない魔獣と。

ショウマさん?
ショウマさんが危険。

コノハが巻き込んだ。
ショウマさんには関係ないのに。
コノハが連れてきてしまった。

逃げなきゃ。
でもショウマさんも助けなきゃ。

目の前にタマモがいる。
タマモにくっついてれば安全。
怖さが薄れる。

逃げよう。
タマモと一緒に。
ショウマさんも一緒に逃げればいいんだ。

でも戦ってる。
誰か戦ってる。

恐ろしい魔獣と。
“双頭熊”と。

あれはケロ子さん。
怯える風もなく。
真っ向から魔獣に立ち向かってる。
コノハには出来ない。

そうだ。
コノハは逃げよう。

タマモと一緒に。
ショウマさんと一緒に。
この隙に。

……ダメ……
逃げちゃダメ。

頭のどこかが言う。

ショウマさんは目の前。
ケロ子さんと魔獣は少し離れたところで戦ってる。

ショウマさんは戦いを見てる。

一緒に逃げよう。
そんなコトを言ってもムダ。
ぼーっとした頭でも分かる。

何?
なにか言った。
ショウマさんが。

いきなり辺りが静かになる。

ケモノの叫び。
ケモノが枯葉を踏む音。
戦う音。
音が消えていた。

冷気がコノハの体を刺す。
……寒い……

と思ったら?
……熱い……

何が起きているのか。

目の前には輝く物。
ドロドロとした物が噴き上げてる。
地面から。

“双頭熊”は見えない。

熱気がコノハを襲う。
思わず目を閉じる。

次にコノハが目を開けるとそこには何も無かった。

森が、木々が広がってる。
さっきまでいた魔獣は影も見えない。

幻覚?
“化け狸”に化かされた。
そんなハズは無いけど……



『LVが上がった』
『ハチミは冒険者LVがLV7からLV8になった』 
『コノハは冒険者LVがLV5からLV7になった』


そんな声が聞こえる。

やっぱり幻覚じゃなかった。
幻覚だったらレベルは上がらない。


ショウマさんがケロコさんに近付いてる。


『癒しの水』



「ケロ子。
 キズ、キズは消えた?
 ホッペタ見せて」
「ショウマさまっ。
 大丈夫ですっ。
 治りましたっ」

「ホントウに全部治ってる?
 ホッペタ良く見せて」
「痛いですっ。
 ほお引っ張らないでくださいっ」


良く分からない。
良く分からないけど……
全てが終わったんだ。

そんな気がしたコノハは息を吐き出した。


【次回予告】
ショウマは生まれ変わろうとしていた。新ショウマである。真ショウマかもしれない。あるいは神ショウマかも。
それはそれとして。

「ご主人様、ご主人様。お耳に入れたい事が」

次回 『亜人の村反省会』
ショウマ・ネクストが今立ち上がろる。

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください) 
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