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第三章 亜人の村はサワガシイ

第118話 『野獣の森』の冒険者その2

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「何ですと?
 ベオグレイドに行かれるのでは無いのですか」

ショウマがベオグレイドに寄らずに亜人の村に行くと言うと、キューピー会長は驚いていた。

『野獣の森』に行くと言う時点でベオグレイドに行く物と思い込んでいたらしい。
だが一行は亜人の村に向かうのだ。


「……ベオグレイドに立ち寄りもしないのですか?
 あそこは迷宮都市に負けず、発展した街ですよ。
 馬車旅でお疲れでしょうから街で休んでから行かれては?」

「……うーん……
 どうする?」
「ご主人様。お疲れも何も馬車の中で葡萄酒飲んで、ご馳走かっ喰らってただけですよ。みみっくちゃんむしろ休み疲れてますよ。亜人の村まで歩いてくのがちょうど良い運動というモノですよ」

まあその通りだ。
馬車の中で二日間ソファーで寝そべって、葡萄酒片手にキューピーが用意してくれた美味を食べるだけだったのだ。

えー歩くの?! 休憩してから行こうよ。

普段なら迷わずそう言うショウマだ。
でもさすがに軽く散歩したい気分である。

ちなみにずっと寝そべってたのはショウマとみみっくちゃんくらいだ。
他の少女達は馬車が停車していた時は馬車から出ている。
ケロ子とコノハは馬車の周囲を散歩していたし、ハチ子とハチ美も外でトレーニングしている。


ショウマ達は旅支度として食料を持ってきていた。
しかしほとんど減っていない。
キューピーが用意してくれていたのだ。
減っていないどころか増えている。
日持ちしそうな物を選んで、袋詰めしてみみっくちゃんに吞み込んでもらってる。

街に寄らなきゃいけない用事が無い。

そうだ。
絵物語。
旅のお供に本持ってくるべきだった。
ベオグレイドには迷宮都市に無かった本も有るかな。

「絵物語ですか。みみっくちゃん望み薄だと思いますね。絵物語が庶民にも流行ってるのは西方神聖王国から母なる海の女神教団の主都テイラーサの辺りです。その辺は識字率も高いですし、庶民文化が発達してます。帝国ではそこまで識字率は高くない筈ですよ」

そうなの。
じゃ本当に用はないや。


「馬車から降りたら、すぐ亜人の村に向かうよ。
 ここまでありがとね。
 キューピーさん」

そう聞いたキューピーは何やら考え込んでいる。
考えた挙句こんな事を言い出した。

「分かりました。できれば私もご一緒したいのですがそうもいきません。
 そこで提案なのですが、
 ショウマさんは『野獣の森』にはお詳しくないでしょう。
 私の知り合いの冒険者を案内人としてお付けしましょう」

「案内?
 ツアーガイド?
 でもコノハさんが『野獣の森』出身だから大丈夫じゃないかな」

「いえ、ショウマさん。
 私は『野獣の森』の中までは詳しくありません」

訊くとコノハさんは『野獣の森』から溢れてきた魔獣を退治していただけだと言う。
森の内部まで探索に行った事はほとんど無いらしい。

キューピー会長は言う。
『野獣の森』で冒険者を続けている者達です。
きっとお役に立つでしょう。
部下としてこき使って下さって結構です。



高速馬車が止まったのは塀の前。
木で出来た塀が高く広く張り巡らされている。
門が見える。
見張りらしき兵士達がいる。

黒ずくめの軍服を着た男達。
帝国軍の証なんだっけ。

予想通りこの塀の中がベオグレイドらしい。
帝国の街。

見張りの兵士は一人や二人ではない。
警戒は厳重な様子だ。

コノハさんは『野獣の森』からは魔獣が溢れてくると言ってた。
そりゃ、警備もするよね。

「やっぱり厳重な警備ですね。帝国は自領から領民が逃げる事を絶対許さないと言いますからね」
「あれっ、そっちなの。
 それどんな脱北者?」


ここからコノハさんの案内で亜人の村へ向かう。
馬車の御者、クレマチスさんともお別れだ。
馬車はここで3日間休んで、また女神都市テイラーサへ出発するらしい。


「元気でねー、コノハ。
 御者をやる気になったらいつでも来てよね。
 待ってるから」

クレマチスさんがコノハさんに抱き着く。
やはり百合か?
百合なのか。

「クレマチスさん。
 ありがとうございました」

「アタシもお世話になりましたっ」
「また馬車を使う事も有るでしょうからね。クレマチスさん、その時はよろしくですよ。みみっくちゃん用にソファー用意しておいてくださいです」

ケロ子やみみっくちゃんも分かれの挨拶してる。
ショウマはまだクレチスとまともに話もしていない。
主人に似ず、コミュニケーション能力の有る従魔少女たちである。

ショウマが見るとクレマチスさんはケロ子や、みみっくちゃんにもハグしてる。
そうか、距離の近い人なのか。


亜人の村は『野獣の森』を迂回して数時間歩いた場所だそうだ。
ショウマ一行が歩き出そうとすると、兵士がこちらにまでやって来た。
黒ずくめの鎧で、盾と槍を持った兵士達。

「貴様ら! 何処へ行く?」

冒険者で亜人の村に行く。
そう答えるとジロジロと見てくる。

「冒険者?
 ガキばかりじゃないか」
「物好きな連中だな」


「……ああ、君達。
 この方はいいんですよ」

キューピー会長が兵士達に何か言ったら慌てて行ってしまった。

兵士達は居丈高でカンジ悪い。
追い払ったキューピーもなかなか底知れない人物だ。

キューピー会長はベオグレイドの街へ入るそうだ。
キューピーが紹介してくれる冒険者は後から追ってくると言う。


「案内人かー。
 どんな人が来るのかな。
 美人ツアーガイド?」

森の横を歩きながらショウマは思う。

湖と森の間を一行は歩いていく。
ショウマの左には鬱蒼とした森。
これが『野獣の森』。
深い木々に覆われて中は見えない。

右側には水辺。
馬車からも見えていた湖だろうか。

「これが我らの相手『野獣の森』というワケだな。
 うむナカナカ手強そうでは無いか、腕がなるというモノだ」

ハチ子、別に森と戦うんじゃないんだよ。
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