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第二章 迷宮都市はオドル

第104話 高速馬車にてその2

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馬車に乗り込んだショウマ一行。
ハチ子は一人、使命感に駆られているのだ。


「いいかケロ子殿。馬車には警護の者が居るとは言え、王を守る事が我らの仕事だ。
 やはり一人は必ず警護の担当を決めて置くべきだろう」
「う、うん」

「まぁまぁ、落ち着いて。
 ハチ子っち」

いきなりハチ子の首元に抱き着いてきた者がいる。
ショウマである。

「ショ、ショウマ王?!
 ……ハチコッチというのは私ですか?」
「そうだよ。ハチ子っち」

顔が真っ赤なショウマだ。
出来上がってる。

「ハチ子っちが頑張ってるのは僕が知ってる。
 だから~」

ハチ子をソファーに抱き寄せるショウマ。

「今は一緒に飲もう」

葡萄酒の瓶を直接ハチ子の口に差し込む。
そのまま瓶を傾けるショウマだ。
ハチ子は目を白黒させているが、相手がショウマでは暴れる訳にいかない。


「んっ……ショウマ王……んっんんん!
 これ以上は……んっ……」

「ご主人様、ご主人様。その飲ませ方はさすがにまずいと思うですよ」

「姉様。王と一人でイチャイチャしてズルイです」
「イヤ、ハチ美。私はだな……ヒック」

一気に葡萄酒を飲まされたハチ子。
すでに顔が赤くなり、呂律が回っていない。 

「ハチ美も飲む~?」
「はい。ショウマ王、ご一緒します」

グラスを差し出すハチ美。
ショウマが葡萄酒を傾ける。

「アレ。もう無くなっちゃった」

呆れたことに葡萄酒の瓶を既に空にしている。

「はっはっは。
 これは愉快ですな。
 まだまだありますぞ
 さぁどうぞ。ショウマ様」

次の瓶を差し出す商人のキューピー。


それを見ながらケロ子はそっと逃げ出す。
酔っぱらいは素面の人間から見たらみっともないモノだ。
混ざったらマズイと思ったのだろう。

「ケロコさん。こっちこっち」

コノハがケロ子を呼ぶ。
馬車の前方にあるソファーにコノハは避難してた。
タマモも一緒だ。

「酔っぱらいは危険ですからね」

タマモに隠れる、コノハとケロ子だ。


「うー。ショウマ王。
 私はですな……
 私は前から気になってたのです」

ハチ子はマズイ雰囲気になってる。
言っちゃいけない事を言い出すのが酔っぱらいと言うモノの特徴だ。

「なに?
 どうしたのさ、ハチ子」

「……何故?
 何故ショウマ王は飛行する時、ハチ美にばかり抱かれるのです。
 私に抱かせてくれてもいいじゃないですか」

「姉様、偶然ですよ。
 たまたま。気にするような事じゃないです」
「……えー。
 特に考えてないよ」

「またまた、ご主人様。ホンネはどうなんですか?」
「そうです。
 王は……
 王はハチ美を気に入っておられるのでは?」

「まあ!ショウマ王。
 それならそうと言って下さればハチ美は……」
「違う!違う!ちぃがぁうぅー」

ショウマが抱えて移動してもらうする時にハチ子を選ばなかった理由はハッキリしてる。


「……だって…………
 ハチ子の方がガサツそうだもの。
 抱えて飛んでもらったら、その辺の壁に足とかぶつけられそうじゃん」

普段なら包み隠すだろうが、露骨に言ってしまうショウマ。
酔っぱらってるのだ。
言葉を選ぶような高度なマネ、出来ないのだ。

「王!
 ……王はそんな風に私のコトを……」


ガッビーン!!と言う文字が顔に現れているハチ子。
うるうると涙目になって来る。
あららヤバいかな、と周囲が心配顔をするのを無視。
一気に手に持つグラスを呷る。

葡萄酒の一気飲み。
ヤケ酒である。
飲み慣れない方はくれぐれもマネしないように。


「ガサツねー。ハチ子がガサツなのは誰の目にも分かってることですよー。今さらガサツと言われたくらい傷つくような言葉ですか。ガサツと言われて傷ついたアピールをご主人様にするのはカッコ悪いというモノですよ。ハチ子」
「ゲテモノ。貴様、ガサツと言われて傷ついてる姉様に追い打ちをかけるつもりですか。
 姉様は確かにガサツです。
 誰の目にもガサツです。
 自分でもガサツと分かってるからこそ、ショウマ王にガサツと言われてショックなのです。
 いくらガサツな姉様でも傷つく乙女心くらいは持っているのです」

みみっくちゃんは辛辣、ハチ美は姉を庇ってるつもりかもしれないがトドメを刺してる。

ガサツ、ガサツ、ガサツ!
連呼されてるのである。
言葉の槍で刺されてる。

「ハチ美まで……」
涙目からすでに涙の溢れ出してるハチ子だ。


うーん。
少しマズったかな?
気になってしまうショウマ。
酔った足取りでハチ子の隣へと歩いてく。

「落ち着いて、ハチ子」

ハチ子に語り掛けるショウマ。

「ハチ子はハチ子でいいところが有る。
 いつでも前向きなとこ、努力家なところ。
 僕は分かってるから大丈夫」

普段ならなかなか言えないようなセリフ。
酔ったショウマの口からはポンポンと出て来る。
いつも酔っていた方がリーダーに向いてるかもしれない。
語りつつ、ハチ子が空にしたグラスに葡萄酒を注ぐショウマだ。

「お、王!」

「ショウマ王はやっぱり、ハチ子の王です。
 ただ一人の王です。
 ハチ子は全身全霊でお仕えします」

さっきまで涙を浮かべてたハチ子。
すでに涙は止まっている。
替わりにピンクのハートマークが浮かんでいる。

心の中が全部ダダ洩れである。

「うわー。これが噂のチョロインてヤツですね。みみっくちゃん生で見たのは初めてですよ。貴重なモノ見せていただいたですよ。感謝はしませんけど」
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