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第二章 迷宮都市はオドル

第103話 高速馬車にてその1

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コノハは衝撃を受けている。

これは何事なんだろう。

既に馬車は出発している。
クレマチスさんは御者席の方へ行ってしまった。

クレマチスさんが言ったのは冗談じゃなかった。
本当に馬車が一台、一行の専用に用意されていた。
馬車の中はコノハにとって驚きだった。

馬車の中にソファーが用意されてる。
家具に詳しくないコノハだけど、上等の品だろうと予想は付く。
背は意匠が施され、クッションは革張りでフカフカ。
後方には小さめだけどテーブルも有る。
テーブルも小型だけど、飾りの付いたオシャレな品物。
お茶やお菓子まで用意されてる。

これはコノハの知ってる馬車じゃない。
コノハが乗った時は、馬車の荷台にギュウギュウに荷物を詰めてた。
広い荷台をパンパンにしてある。
天井ギリギリまで積み上げ、ロープで固定するのだ。
馬車からみて後ろが荷物の乗り入れ口になる。
そこには多少余裕を持たせてる。
その空いたスペースに人が寝るのだ。
ギリギリ人が眠れる程度。
荷物はしっかり固定してあるとはいえ、横には馬車の天井まで積まれた荷物。
圧迫感が有って、寝るどころじゃなかった。

それがどうだろう。
荷物はほんの少しだけ。
並べられたソファーには睡眠が取れるように毛布やブランケットまで用意されてる。

 
「本当に私も乗っていいんですか?」

恐る恐る聞いてみる。
今からでも、別の馬車に行って荷物の後ろに乗るつもりのコノハだ。


「何をおっしゃってるんですか。
 ショウマ様から、6人と一匹と伺ってます。
 ご遠慮なく、さぁお飲み物は何がよろしいですかな」

飲み物まで勧めてくるキューピー会長。
コノハは紅茶を貰う。
ちなみに彼はキューピーとしか名乗っていない。
もしもキューピー・ルメイと名乗ったらコノハも気づいていただろう。
相手が誰かという事に。
気付いていたらお茶を貰うどころではなかっただろう。
帝国では最も有名な商会の会長なのだ。
しかしキューピー会長はショウマがルメイ商会を嫌がってるのでキューピーとしか名乗らなかったのだ。

「手伝いますっ」
とケロ子が飲み物を出すのを手伝う。
馬車には小型の冷蔵庫まで用意されてる。
紅茶もあればジュースもある。
おまけに酒らしき瓶まで有るのだ。

「よろしければいかがですかな」

キューピー会長がショウマに勧めてきたのは瓶に入ったドリンク。
葡萄酒だ。

「さっぱりした新酒も、深い味わいの古酒もありますよ」
「ありがとー」

ショウマは気軽にグラスに注がれたドリンクを飲んでしまう。
ぶとうジュースと思ったのだ。

あれ、これあんまり甘くないや。

葡萄酒を飲んだことが無いショウマだ。
ちなみにショウマの産まれた村でもブドウは栽培してる。
収穫祭や、葡萄酒が出来た時は子供でも少し飲んだりする。
子供にお酒飲ませちゃダメじゃん?という話は有るが、そうやってお酒を経験していくのだ。
辺境の村で、地元で葡萄酒を作っているのだ。
そこまでみんなうるさくない。
しかしショウマは飲んでいない。
だって収穫祭参加してないからね。

「御主人様は新酒ですか。ヌーヴォーってヤツですね。みみっくちゃんにはそっちの年代物をくださいですよ。あ、これは上等の品物ですね。迷宮に冒険者が持ってきてる安酒とはワケが違うですね」

みみっくちゃんはスッカリ我が物顔でくつろいでる。
ソファーに飛び乗ってクッションを堪能してる。
葡萄酒まで飲み始めてしまった。

「みみっくちゃんっ。それお酒じゃないのっ?
 ダメだよっ」
「ケロ子お姉さま。心配ご無用です。みみっくちゃん、これでも成人年齢ですよ。16歳です。その証拠に冒険者証だって持ってるです。こう見えてもお酒の嗜みは有るですよ。」

ええっ。
ミミックチャンさん、もっと子供かと思ってた。
コノハは驚いてる。

「みみっくちゃんはいざとなったら 体内でアルコール分解出来るです。気にしなくて大丈夫ですよ。
 ケロ子お姉さまが心配すべきはそこの一杯飲んだだけで真っ赤になってるオコチャマの方ですよ」

みみっくちゃんに言われてみてみれば、ショウマは真っ赤になってる。
アルコールが初めてなのにグラスを一気に飲んでしまったのだ。

危険なので読んでる人はマネしない様に。
ちなみにワインは飲みやすいなどと言われるが、アルコール度数は10~15%。
ビールが4%ほどしか無い事を考えると遥かに危険である。
飲み慣れない方はくれぐれもマネしない様に。

「おおっ、さすがお強いですな。
 ささっどうぞどうぞ」

キューピー会長はさらにショウマのグラスに葡萄酒を注ぐ。


「どうですかな。お二人も」

キューピー会長がさらに勧めたのはハチ子とハチ美だ。

「いや。気持ちはありがたいが遠慮しておこう。我らには王の護衛の任が有るのだ」
「王の護衛の任が有ります」

まだ警戒しているハチ子とハチ美である。
馬車内には魔獣、“妖狐”のタマモがいるのだ。
馬車の外には“八本脚馬スレイプニル”もいる。
従魔だと言うが、従魔師と結託して王を襲わないとも限らない。


「ケロ子殿、思うのだが我ら三人交替で王の警護をしないか。
 到着まで二日かかるという。
 さすがに不眠不休という訳にもいかない」

「そっか、そうだねっ。ハチ子ちゃん。
 じゃあ三人だから、8時間ずつ。
 二人は起きてショウマ様の警護、一人は休憩睡眠ってカンジかなっ」

「ちょっとちょっと。なんで三人交替ですか。みみっくちゃんはどうしたですか。
 みみっくちゃんのけものですか。員数外ですか。 
 ハチ子はともかく、ケロ子お姉さままでヒドイですよ」

「うるさい! お前は既に酔っぱらってるだろうが。人数に数える訳が無いだろう」
「数える訳が無いです」

言い合いを止めに入ったのはキューピー会長だ。

「お待ちください。警護なら専門の者が付いております。
 別の馬車、三台にそれぞれ護衛の者が乗っている筈です。
 皆様はゆっくりおくつろぎになられて大丈夫ですとも」

「フフン。というワケですよ。今はゆっくりと『野獣の森』攻略に備えて英気を養っておくのが賢い行動というモノですよ。みみっくちゃんには最初から分かってたですよ」

「ええい。キサマはもう口を挟まなくて良い。我らだけで考える。
 いいかケロ子殿。馬車には警護の者が居るとは言え、王を守る事が我らの仕事だ。
 やはり一人は必ず警護の担当を決めて置くべきだろう」
「う、うん」

1人で使命感に駆られているハチ子である。
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