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第二章 迷宮都市はオドル

第85話 キキョウの災難その2

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アヤメがケロ子とみみっくちゃんの新しい冒険者証をくれた。
階級クラス:ドッグにアップしたヤツ。
ハチ子、ハチ美の加入も終わり。
【クエスト:『毒消し』を手に入れろ】も終了。
報酬は2200万円。
ショウマとしてはミッションコンプリートである。

「ありがとー。
 それじゃ帰るかな」

「ちょいと待ちな!」

声をかけたのは老女サラである。

サラはハチ子、ハチ美をジロジロ眺める。
冒険者にしては美人な二人組だ。
リーダーは細身の少年。
さらに二人仲間がいる。
一人はまあ普通だが、まだ若い。
もう一人、不思議な雰囲気だがこれは子供だ。
全部で五名。


「今日冒険者になって、階級クラス:ドッグになるってのかい?
 なんだかおかしな話だね」

「ショウマだっけね。
 そこのリーダー。
 ちょいと腕試ししてみないかい?」
「うん?」

「サラ様!
 ……あのまだ彼らは新人で……」
「新人だから腕の程が分からないだろ?
 それじゃ一人前と呼べるか不安じゃないかい」

「腕試しって、
 何するの?」

止めに入るキキョウ。
だがショウマはのんきな口調で尋ねる。
キキョウは焦る。

この男は?!

誰に口を利いてるか分かっているのだろうか。
『名も無き兵団』のサラ。
迷宮都市じゃ誰でも知ってる女傑だ。
さすがに老いた今では本人が迷宮に入る事は少ない。
でも現役のリーダーだ。
若い頃は、バリバリの武闘派だったと聞いている。


「そうだね。
 その二人とウチの二人で練習試合ってのはどうだい」

サラ様はハチ子、ハチ美を指さす。
ウチの二人とはサラ様についてきた男性二人だろう。
どちらも服の上からでも分かる鍛えられた身体。
明らかに戦闘のプロだ。
『名も無き兵団』の一員だろう。

「ハンディだよ。
 そっちは武器を使っていい。
 こっちは素手だ。
 それでどうだい?」

「僕の方には何のメリットも無いかな」

目立つ事が好きじゃないショウマなのだ。
老人にワガママ言われてる気分である。

「王よ。我らなら王のためいつでも戦いますぞ」
「王のために戦います」

ハチ子、ハチ美はやる気になってる。

「メリット?
 勝てば『名も無き兵団』のサラがアンタの後ろ盾になる。
 それじゃ不足かい?」
「『名も無き兵団』?」

まったく知らないショウマだ。
それが迷宮都市最大規模の冒険者チームの名前と分かるハズもない。
だって冒険者チームの名前一つも知らないのだ。

脇で静かに聞いていたタキガミはニヤリと笑う。
『名も無き兵団』と聞いて、顔色も変えないとは。
なかなか度胸の有るボウヤだな。

全くのカンチガイである。

「やってみたらどうだ?
 サラ嬢ちゃんのコトだ。
 悪いようにはせんだろう」


他の冒険者の強さを知りたい。
そんな思いはショウマにも有る。
平均値?
中央値?
偏差値も誰か発表してくれないかな。
従魔少女たちはどのくらいの位置にいるのだろう。
だから逃げ出すタイミングを逸してしまった。

ワガママ言い出す老人て何処にもいるよね。
お婆ちゃんがワガママ言ってると思ったら、お爺ちゃんにも言われてしまった。
というか。
サラ嬢ちゃんて誰?

「嬢ちゃんは止めとくれよ。
 タキガミさん」
「何を言ってるんだ。
 今でもサラは可愛らしい。
 サラ嬢ちゃんだぞ」

うわ。
お爺ちゃんとお婆ちゃんがイチャイチャしてる。
ハチ子とハチ美がやりたがってるならしょうがないかな。
逆らう気力が無くなるショウマであった。




キキョウは一行を訓練場へ連れていく。
組合のすぐ裏には訓練場が有るのだ。
階級クラス:ドッグ以上の人なら無料で使える。
無料ではないけど、寝泊まりできる場所も有る。

まさかタキガミさんがサラ様を嬢ちゃん呼ばわり出来るとは。
聞いてみたら、タキガミさんが数年先輩らしい。
若い頃はサラ様は美しい女冒険者だった。
そんな噂はキキョウも知ってる。
現在の迫力を増す女傑からは想像できない。

訓練場はいつも人が多い。
使おうにもそこまで空いてる場所は無い筈だ。
そう考えていたキキョウ。

しかし。
サラ様が顔を出した途端、空き場所が確保できてしまった。
付いてきたキキョウが見届け人という事になってしまった。

見物人が増えていく。
冒険者の訓練場だ。
練習試合は珍しくない。
けれども、有名人サラ様がいる。
それに釣られる冒険者がいる。
しかも出場者の片方は美女二人だ。
ちょっと冒険者には見えないクラスの美人だ。
男冒険者も気になるというモノ。
人が集まって来ている。
だんだん大事になってきてしまった。
泥沼にハマりこむキキョウである。


「あのさー、サラさん。
 2対2って言ったじゃん。
 僕も入れて2対3じゃダメ?」
「フーン……
 イヌマル、キジマル どうだい?」

「サラ様、相手は子供です。
 後遺症が残らぬ程度にぶちのめしますよ」
「2人でも3人でも同じことです」

「フン。いいだろう。
 女に押し付けないで、自分も戦いの場に出るか。
 いいじゃないか。
 男だね」

ショウマが何やら話しかけて。
2体3の試合に変更されるのをキキョウは黙って見ている。
サラ様がニヤリと笑っている。
絶対負けない自信があるのだろう。
 
それはそうだろう。
キキョウが見ても、サラの連れる二人は歴戦の猛者と言った面構え。
盛り上がった腕と胸の筋肉。
鋭い目と隙の無い挙動。
兄弟なのか、よく似た二人。
ショウマ側は、冒険者に見えない美人二人組。
リーダーは細身の少年。
いくら魔術師にしても鍛えているようには見えない。
成人してるかどうかも危ぶまれる。
そんな三人なのだ。


「王よ。我らのために危険を冒すことはありません」
「王よ。我らだけで勝利してみせます」

女性二人は何か芝居がかってる。
王?
まさかショウマさんは王族?。
だからサラ様にも平気で抗える。

キキョウの思考はトンデモナイ方向へ向かっている。


キキョウは練習場の管理をしてる人間に話を通す。

審判役を一人出してもらう。
審判が女性二人の武器をどうしようかと言い出す。

普通なら練習用のモノと取り換える。
刃の殺してある槍、鏃を丸くした木の矢。
それでも当たればケガは負うのだ。
さすがに刃物を使わせるワケにはいかない。
審判は取り換えようと言う。
キキョウも賛成だ。

「真剣でもいいよ。
 こちらはLV25越えの猛者だ」

サラのLV25という言葉に周りがザワッとする。

「『名も無き兵団』のアレは誰だ?」
「アイツラあまり仲間以外に付き合わないからな」

「ありゃイヌマルとキジマル。
 どちらも武闘家で有名だ」
「おおっ、聞いた事あるぜ」

LV10を越えたらやっと一人前。
LV20を越えたら中堅クラス。
LV30まで行ったら英雄クラス、誰でも知ってるツワモノ。

キキョウも事務方とは言え、冒険者組合の主任。
そんな知識は勿論持っている。
LV10までならやる気さえあれば、LVは上がっていく。
もちろん、運もチームの協力も必要だ。
LV10を越えるとそう簡単にLVは上がらない。
年月だけが過ぎていく。
LV15を越えるとますますだ。
同じLVのまま一年を越すなどザラだ。
LV20を越えるなら本物だ。
うす暗い迷宮で毎日魔獣と戦う。
そんな日々を何年も過ごしてきた戦闘野郎。
LV25とはそういう事なのだ。

「ショウマさん
 本当に大丈夫ですか?
 今からでも、サラ様なら言えば分かってくださいます」
「ダイジョブ、ダイジョブ。
 僕もLV18いったからね」

LV18?
前に調べたときはLV13だったハズ……
LV15越えたら一つLVが上がるのに一年かかってもおかしくない。

キキョウが不審に思ううちに、試合が始まってしまう。


「ハジメェッ!!」

サラ様の老人とは思えない大声が鳴り響く。

試合会場の両端にいるお互い。
矢が放たれる。
ハチ美から武闘家の男イヌマルに向かって。

弓矢の矢は時速200kmを越えると言う。
プロ野球選手の球速より速い。
普通の人間では対応できない。
冒険者が矢を避けて見せるのは、弓の向く方向から予測をしているのだ。
矢の飛んでくる位置を予測し、そこから逃げている。
しかしイヌマルの行動はそれとも違った。

彼は叫んでいた。
矢が彼に近づく前に。


『身体強化』

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