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第一章 ハジマリの地下迷宮
第64話 迷宮の商人その4
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【ある男の物語】
男はショックを受ける。
自分より一年後輩の彼女が売り場担当となったのだ。
彼はまだ売り場担当になっていない。
さすがに店長に確認する。
尋ねない訳にはいかない。
「何故です。何故自分には売り場を任せてくれないのです?」
そう尋ねた男にヒゲを生やした店長は返した。
「お前のような醜い亜人に売り場を任せられる訳がないだろう。
雇ってやってるだけでも感謝しろ」
男は呆然とする。
店長はキミは良く働く。
キミなら任せられると言っていた。
ずっと騙されていたのだ。
店長の部屋を出て店の裏で立ちすくむ男。
その時彼の耳が声を捕える。
彼は普通の人間より耳がいいのだ。
店長室に誰か入って行く。
聞きたくない。
聞くべきじゃない。
そんな気がする。
だけど彼の耳には聞こえる。
「ダメよ、店長。こんな所で」
「くくっ、何を言ってる。職場でするのは初めてじゃないだろ」
「ああっ、いやよ」
「ほら、足を広げろ。いつもより興奮しているくせに」
女性の声と店長の声。
女性の言葉に店長が乱暴を、と一瞬思うがどう聞いても女の声は媚が混じっている。
そしてこの女性の声は聞いた事がある声だ。
口づけの音。
男と女の声。
衣服を脱ぐ音。
女の快感を告げる声。
この声は自分の彼女の声だ。
立ち去ろうと思うが男は動けない。
足が動かない。
やがてコトが終わった。
音が止む。
男女が衣服を着ける音。
「ああ、お前のボーナスだがな、
あの男の業績をお前の評価にに加えておいた。
大分多くなるはずだぜ」
「そう、店長。いつもありがとう」
いつも、
いつもとはなんだ。
………
男はフラフラとする足で家に帰った。
もう商会に行く気は無い。
頭の中がまとまらない。
川にでも身を投げるか。
迷宮都市に川は無い。
迷宮の1階に湖が有ると聞く。
そこにでも飛び込もうか。
何か男の中で閃く。
そうだ。
ここは迷宮都市だ。
迷宮に行こう。
………
ショウマは地下の湖に突き落とされてた。
ショウマは泳げない。
いや。
小学校のプールで息継ぎ無し10メートルなら泳げたはずだ。
遠い昔の事である。
それ以来、海にもプールにも行ってないのだ。
泳ぎ方など忘れている。
中学校の体育の授業に一度も参加しなかったのはダテじゃないのだ。
「ご主人様、ご主人様。大丈夫です。みみっくちゃん、浮くですよ。浮き輪です。ブイですよ。みみっくちゃんに捕まってください。やっときました。ご主人様をみみっくちゃんが助けるターンですよ」
「木の鎧に木の箱。
イカダみたいになってるよ」
みみっくちゃんに捕まって助かるショウマ。
「あれ、でもここ足が着くや」
落ち着いてみると水位は低い。
水は立ち上がったショウマの胸元くらいまでだったのだ。
「ショウマさまっ」
「ケロ子!」
「大丈夫ですかっ?
ショウマさまっ」
華麗に着地するケロ子。
「大丈夫だよ
ケロ子こそ飛び降りて平気」
「はいっ。ショウマさまが買ってくれた丈夫な靴ですっ
痛くも痒くも有りませんっ」
「みみっくちゃんのターン、もうお終いですか。そうですか……」
「王よ、無事ですか?」
「ご無事でしょうか」
そこへハチ子、ハチ美が下りてくる。
透明な羽を羽ばたかせている。
「うん。
商人さんは?」
「それが、あの男消えてしまいました」
「消えたのです」
「消えた?
素早く逃げたって事。
神出鬼没?
怪盗〇ッド?」
「いえ。その、我らの目の前からスッと」
「透明になり、消え失せました」
何かの仕掛け?
隠し通路?
でもハチ子、ハチ美の超感覚を逃れるなんて。
「王! お気を付けください。近付いてきます!」
「近づいてきます!」
「分かるよー」
だって水面が揺れている。
ショウマにも聞こえる。
何かが動く音。
大きい。
大きい何かが近付いてくるのだ。
水が大きく揺れる。
「ショウマさまっ。
大きいカエルですっ」
「カエル! みみっくちゃん知ってますよ。“毒蛙”の体長は50cm前後です。あれはどう見ても“毒蛙”じゃないです。
だって私たちが見あげるサイズですよ……」
「近づいてくるのは一体ではない」
「一体ではありません」
「何匹くらいいるの~?」
「……およそ10体ほどです」
「10体ほどです」
ショウマにも見える。
“巨大猛毒蟇蛙”の集団。
まだ相当離れているはずだが、巨大すぎて距離がわからない。
みみっくちゃんはパニックになってる。
「怪獣ですよ。バケモノですよ。大きいですよ。山が動いてるですよ。
『見ろよ、山が近付いてくるぜ!』ですよ。
『子供のころ、俺はあの山を動かそうと思って歌い続けていたんだ!』ですよ」
ケロ子はビックリしている。
「大きいカエルさんっ、親兄弟がいたんですね。
でもマズイですっ。
ワタシたちカエルさんが歩いただけで潰されちゃいますっ」
ハチ子、ハチ美は冷静に考えている。
「あれはデカすぎる。我らでも敵う相手ではない」
「敵わないです」
「王よ逃げましょう。敵に背を向けて逃げるは騎士の恥」
「ですが、あれはすでに魔獣と言うレベルではありません」
「言うなれば嵐とか火山です。ここは逃れるべきでしょう」
「戦う対象では無いのです。逃れるべきなのです」
男はショックを受ける。
自分より一年後輩の彼女が売り場担当となったのだ。
彼はまだ売り場担当になっていない。
さすがに店長に確認する。
尋ねない訳にはいかない。
「何故です。何故自分には売り場を任せてくれないのです?」
そう尋ねた男にヒゲを生やした店長は返した。
「お前のような醜い亜人に売り場を任せられる訳がないだろう。
雇ってやってるだけでも感謝しろ」
男は呆然とする。
店長はキミは良く働く。
キミなら任せられると言っていた。
ずっと騙されていたのだ。
店長の部屋を出て店の裏で立ちすくむ男。
その時彼の耳が声を捕える。
彼は普通の人間より耳がいいのだ。
店長室に誰か入って行く。
聞きたくない。
聞くべきじゃない。
そんな気がする。
だけど彼の耳には聞こえる。
「ダメよ、店長。こんな所で」
「くくっ、何を言ってる。職場でするのは初めてじゃないだろ」
「ああっ、いやよ」
「ほら、足を広げろ。いつもより興奮しているくせに」
女性の声と店長の声。
女性の言葉に店長が乱暴を、と一瞬思うがどう聞いても女の声は媚が混じっている。
そしてこの女性の声は聞いた事がある声だ。
口づけの音。
男と女の声。
衣服を脱ぐ音。
女の快感を告げる声。
この声は自分の彼女の声だ。
立ち去ろうと思うが男は動けない。
足が動かない。
やがてコトが終わった。
音が止む。
男女が衣服を着ける音。
「ああ、お前のボーナスだがな、
あの男の業績をお前の評価にに加えておいた。
大分多くなるはずだぜ」
「そう、店長。いつもありがとう」
いつも、
いつもとはなんだ。
………
男はフラフラとする足で家に帰った。
もう商会に行く気は無い。
頭の中がまとまらない。
川にでも身を投げるか。
迷宮都市に川は無い。
迷宮の1階に湖が有ると聞く。
そこにでも飛び込もうか。
何か男の中で閃く。
そうだ。
ここは迷宮都市だ。
迷宮に行こう。
………
ショウマは地下の湖に突き落とされてた。
ショウマは泳げない。
いや。
小学校のプールで息継ぎ無し10メートルなら泳げたはずだ。
遠い昔の事である。
それ以来、海にもプールにも行ってないのだ。
泳ぎ方など忘れている。
中学校の体育の授業に一度も参加しなかったのはダテじゃないのだ。
「ご主人様、ご主人様。大丈夫です。みみっくちゃん、浮くですよ。浮き輪です。ブイですよ。みみっくちゃんに捕まってください。やっときました。ご主人様をみみっくちゃんが助けるターンですよ」
「木の鎧に木の箱。
イカダみたいになってるよ」
みみっくちゃんに捕まって助かるショウマ。
「あれ、でもここ足が着くや」
落ち着いてみると水位は低い。
水は立ち上がったショウマの胸元くらいまでだったのだ。
「ショウマさまっ」
「ケロ子!」
「大丈夫ですかっ?
ショウマさまっ」
華麗に着地するケロ子。
「大丈夫だよ
ケロ子こそ飛び降りて平気」
「はいっ。ショウマさまが買ってくれた丈夫な靴ですっ
痛くも痒くも有りませんっ」
「みみっくちゃんのターン、もうお終いですか。そうですか……」
「王よ、無事ですか?」
「ご無事でしょうか」
そこへハチ子、ハチ美が下りてくる。
透明な羽を羽ばたかせている。
「うん。
商人さんは?」
「それが、あの男消えてしまいました」
「消えたのです」
「消えた?
素早く逃げたって事。
神出鬼没?
怪盗〇ッド?」
「いえ。その、我らの目の前からスッと」
「透明になり、消え失せました」
何かの仕掛け?
隠し通路?
でもハチ子、ハチ美の超感覚を逃れるなんて。
「王! お気を付けください。近付いてきます!」
「近づいてきます!」
「分かるよー」
だって水面が揺れている。
ショウマにも聞こえる。
何かが動く音。
大きい。
大きい何かが近付いてくるのだ。
水が大きく揺れる。
「ショウマさまっ。
大きいカエルですっ」
「カエル! みみっくちゃん知ってますよ。“毒蛙”の体長は50cm前後です。あれはどう見ても“毒蛙”じゃないです。
だって私たちが見あげるサイズですよ……」
「近づいてくるのは一体ではない」
「一体ではありません」
「何匹くらいいるの~?」
「……およそ10体ほどです」
「10体ほどです」
ショウマにも見える。
“巨大猛毒蟇蛙”の集団。
まだ相当離れているはずだが、巨大すぎて距離がわからない。
みみっくちゃんはパニックになってる。
「怪獣ですよ。バケモノですよ。大きいですよ。山が動いてるですよ。
『見ろよ、山が近付いてくるぜ!』ですよ。
『子供のころ、俺はあの山を動かそうと思って歌い続けていたんだ!』ですよ」
ケロ子はビックリしている。
「大きいカエルさんっ、親兄弟がいたんですね。
でもマズイですっ。
ワタシたちカエルさんが歩いただけで潰されちゃいますっ」
ハチ子、ハチ美は冷静に考えている。
「あれはデカすぎる。我らでも敵う相手ではない」
「敵わないです」
「王よ逃げましょう。敵に背を向けて逃げるは騎士の恥」
「ですが、あれはすでに魔獣と言うレベルではありません」
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