上 下
12 / 289
第一章 ハジマリの地下迷宮

第12話 少女の名はその4

しおりを挟む
ショウマはコンロでお湯を沸かしている。
これも魔道具で魔力を込める仕組みだ。

「は~、疲れた~。大変だったよ」
ショウマは一人でつぶやく。

疲れたという割にニコニコしている。
充足の笑みだ。

「あんなに難しいと思わなかった」

だってどうすればいいのか分からない。
いろいろ試行錯誤してやっと成功した。
少女がショウマの言いなりだったから何とかなったのだ。
普通の相手だったらとっくに中断していただろう。

「中世貴族は親戚の叔母さんが男性の初体験を務めるって聞いたなぁ。
 その時は
 「初めてがおばさん相手? それなんて罰ゲーム?」 
 と思ったけど、割と正しい仕組みだったんだね」


ベッドルームで『体力を使う事』をした後、ケロ子は「お腹が空きましたっ」と言い出したのだ。
ショウマも言われて空腹を感じ始めた。
『巨大カエルの肉』でスープを作ると言い出したはケロ子だ。
巨大猛毒蟇蛙ジャアントポイズントード”戦の後、ショウマは 『巨大カエルの肉』、『巨大カエルの喉』、『巨大カエルの胃袋』を手に入れていた。


「お肉だけのスープじゃあんまりですねっ
 アタシ 食材取ってきますっ」

ケロ子はそう言って出かけた。

「うーん、カエルって確か虫を食べるんだよね」

ショウマは不安になる。

「カエルの肉とハエのスープとか
 それなんてグルメ?
 いくらケロ子が作ったと言っても食べられないなぁ」

「カエルの肉は食用にもなるって言うけど。
 毒蛙でしょ、毒は大丈夫なの?
 バトルして勝ちました。
 戦利品の肉食べたら毒に当たりましたって、
 ダメの見本?」


「ショウマさまっ! ただいま戻りましたっ」

ケロ子が帰ってくる。
手にいっぱい植物を持っている。

「じゃあ作りますよっ」
「うん、ケロ子。でもお風呂沸いてるよ。
 先に入ったら」

「はい。じゃあ下ごしらえだけして、煮込みに入ったらお風呂に入りますっ」

ショウマは少し引き気味だ。
ニコニコしながら料理を始めるケロ子に怖いからやめようとは言えない。

ケロ子は台所で野菜を洗いだす。
ショウマは包丁で食材を刻み始めたケロ子を見てホッとする。
普通の料理光景だ。
台所には基本的な食器や包丁、鍋類が揃っていた。
残念ながら調味料と食材は無かった。

「味覚も変化してるみたいだ。
 良かった~」

ケロ子は見た目通り人間の女性とほとんど変わらなかった。
ベッドルームでショウマはじっくり観察したのである。
と言ってもショウマは人間の女性の身体をじっくり観察したことが無いので比べようが無い。
が、怪しげな動画で見ている、知っているのである。
怪しげな動画は本来16歳の翔馬が閲覧出来ない筈のモノだが、翔馬は観ていた。
多分学校の誰よりも観ていた。
学校に二ヶ月に一度しか通わない翔馬に時間はタップリ有ったのである。

数少ない特徴である水かきのような薄い膜は足の指にも存在していた。
足のひらが小さく指が長いのも手と同様だ。
太ももと二の腕の筋肉が発達している。
他の部分がぷにぷにと柔らかいのに、腿だけ明らかに筋肉質だった。
ショウマはぷにぷにした全身を堪能したので良く分かっている。
良く観察しない限り普通の人間と区別がつかない。

「エプロンも買わなきゃね」

ショウマは吸い寄せられるようにケロ子に近づく。
包丁を振るっているケロ子に背後から抱き着く。

「えっ、ショウマさまっ。
 今はお料理中ですっ……」
「いいよ。そのまま続けてて」

ショウマの手がムニムニとケロ子の身体を這いまわる。

「あっ、ダメですっ。
 刃物使ってるから……キケンです……」




冒険者組合の主任キキョウは迷宮の入り口を見回っている。
組合の閉業前チェックだ。
地下迷宮の見張りと最低限の人員だけ残して、夜組合は閉める。

今キキョウは見張りの人員と連絡事項を伝達している。

「じゃあその子が出てくるのは見なかったのね」

「と思うぜ」
「こっちも出てくる人間全員は見てられないよ」

「武装を一切してない子が一人で入って行ったんでしょう。
 それなら目立つでしょう」

「なんかおかしいなとは思ったんだが」
「冒険者証になんのマークも無かったしなぁ」

未成年、見習いの子には冒険者証にマークが入る。
貴族や王族にもマークが有る。
組合に取って重要人物、研究者なども同様だ。
ランクの高い冒険者は彼らをフォローしなければいけない義務を持つ。
見張りもマークは気にするし、チェックもする。

おそらく今日の昼前に来た新人だ。
キキョウは思う。

「もう亡くなっているかも。
 初心者が説明も聞かないまま地下迷宮に入るなんて」

アヤメには伝えられない。
伝えたら自分のミスだと落ち込むだろう。

「分かったわ。可哀そうだけど本人の責任よ。
 他には変わった事は無かった?」

「湖にバケモンが出てくるってヤツ」
「今日はいなかったみたいだぜ」

「どういうコト?」

「2階に降りなきゃ依頼を達成できないヤツらがおっかなびっくり湖に行ってみたんだと」
「バケモノの目を盗んでいければラッキーくらいの気持ちだな」
「そしたらバケモノがいなかったんだと」
「その後もバケモノを見たってヤツらが一人もいないな」

まだなんとも言えない。
たまたま魔獣が寝ていただけかもしれない。
そろそろ秋だ。
巨大カエルなら冬眠に入る事も有るかもしれない。

「分かったわ。ありがとう。
 受付はもう閉めるわ。
 夜勤と交代よろしくね」

もしも巨大魔獣が本当に居なくなったなら朗報だ。
キキョウは少し明るい気持ちになった。
誰かが魔獣を倒したという可能性は彼女が考える範囲には無い。




「どうですかっ? 味薄くないですか?」
「あ、美味しい」

一口食べてショウマは歓声を上げる。
確かに薄味だけど、スープに出汁が効いている。
塩味が薄いのは調味料が無いんだから当たり前だ。
肉と野菜のスープ。
野菜はシャキシャキした触感の茎と、柔らかく甘みのある葉が入っていて楽しめる。

「下の方の黒い茎はうまみ出しのためなので食べなくて良いですよ」

コンブみたいなのが確かに見える。

「ケロ子、料理が出来るんだ」
「いえ、簡単に煮込んだだけですっ。もっと材料と調味料が有れば……」

「ヨシ。
 じゃあ明日は買い物に行こう。
 そう。食料も要るし、服もね」
「はいっ。
 アタシ、街に行くの初めてですっ
 楽しみですっ」

ショウマも楽しみだ。

「エプロンは必須、裸エプロンは試したいでしょう。
 ミニスカートもいいよね。
 あっ、カエル少女と言ったらスク水!
 スクール水着売ってるお店有るかな?」

周りに常識有る冒険者がいたなら切れていたであろう。

「有るわけねーだろ! スク水の前に! 武器!防具!薬!
 何も持ってないから! オマエも彼女も!」

残念ながら周りにはツッコミ役が誰もいない。

地下迷宮の夜は更けていく。

ショウマにとって冒険者一日目の夜はこうして終わった。



【次回予告】
子供のころ夢見ていた。
それは正義の味方か? あるいはスポーツ選手。
はたまた職人気質の無骨なプロフェッショナルか。
あの頃夢見たものに自分は近づけたのか?
「キター! キタキタ! チートキター!」
次回 『街へ行くショウマ』
ショウマが夢見ていたものとは……

(ボイスイメージ:銀河万丈(神)でお読みください)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...