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第4章 桜
1 雨の日曜日
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「雨ですね」
「6月だからねぇ」
蒼空は春子と掃除をしながら土曜の朝から、降り続く雨に、少しウンザリする。
子供達は、コミュニティールームで、テレビアニメを見ている。
いつも、部屋の隅で、読書をしている省吾だけど、子供達とモンスター達が繰り広げる、ひと夏の冒険を描いた、このアニメだけは、夢中で見ている。
「おっ、懐かしいアニメをやってるね!」
「蒼空兄ちゃん、このアニメ知ってるの?」
「うん、子供の頃によく見てたよ」
「……」
テレビを囲むように、アニメを見ていた子供達が、一斉に振り返り、蒼空の顔を不思議そうな顔で見る(おっ、なんだ)。
「最近、始まったんだよ」
「えぇぇ……!?」
蒼空も、子供の頃、このアニメに、夢中になって見ていた。そんな気がした。
真っ直ぐな目を向けて、主張する子供達。記憶違いかなと思う(おかしいなぁ……)。
目覚めてから蒼空の感覚は、不思議だった。全てが懐かしく思える感覚。
特に、省吾が施設にやって来てからその感覚は強くなる。
街に流れる流行の音楽にテレビ番組が、子供の頃に誰かと、夢中になっていたような、懐かしい感覚になる。記憶ではなく思い出のようだった。
この事を大木に話したが「記憶が混在しているねぇ……」と言われて、納得するしかなかった(確かに、子供の頃見たような気がするのに……)。
美桜は、テーブルの上で、画用紙に、絵を描いて楽しんでいる。
美桜とはお下げ髪の少女の事。
蒼空は、少女の名前を、聞き出す機会がなかったのに、不思議だった。
省吾が、来た翌日に、ふと口から出た。
「美桜、何を書いてるんだい?」
「……」
相変わらず、美桜は言葉を発しない。蒼空を見るとニコリと微笑む(そうか……皆を描いていたのか)。
子供が7人と大人7人が、虹の下で手を繋いで並んでいる。
「美桜ぉ……何、描いてるの?」
「……」
今度は、桜が覗き込む。
「皆を、描いてるんだぁ……ふぅん……西野先生に、これが私で、大木先生とおばさんに、田崎さん……丸い人は由美ちゃんか……あれっ!?」
「桜さん、どうしたの?」
最近、蒼空が『桜』と下の名前で呼んでも、怒らなくなった。
「省吾と蒼空の顔が同じ……」
「あっ、本当だ!」
「ハハハハ、蒼空と省吾って似てるのかな……」
「……」
「あれっ!? こっちは、女の子と男の子が、手をつないでる絵だね……」
「あっ、本当だぁ、女の子が美桜で……男の子は、誰かしら……? まさか、好きな子がいるのぉ……?」
「桜さん、まだ、6歳ですよ! ずっと施設のなかだし……」
「わかってるわよ! こまかいんだから!!」
美桜は、蒼空と桜の会話を、無視するかのように、画用紙に張り付き、クレヨンを走らせる。
「それにしても、すごい雨だねぇ……」
「本当ねぇ……」
「そうだ、先生のお土産でも、いただくかね?」
「そうねぇ……」
春子は西野から、預かっていた箱を取り出すと、包装紙のテープを剥がしていく。
「また、学会にでも行ったんですか?」
「そっ、そうなんだよ……ねっ、桜」
「うん……」
蒼空は、2人の歯切れの悪い会話が、気になるが、子供達には、『お土産』このワードが、子供達には突き刺さる。
テレビアニメのストーリー展開も気になるけど、上品な包装紙に、包まれていたお土産も気になる。テレビとお土産、互いを視線が行ったり着たり落ち着きがない。
「さぁ……皆! 手を洗って!」
「ハァ……イ」
「美桜も、あらっ……いない……」
テレビアニメの勇敢な主人公も、12色のクレヨンも、お土産の饅頭に負けた。手洗い場に、皆が並ぶ。1番先頭は、美桜だった。
「いただきます」
席に着くと春子と桜から、マグカップにお茶を注いでもらう。
「いただきます」
そして、饅頭を口いっぱいに、頬張る。
「いつも、美味しそうに食べるねぇ……」
「そうだねぇ……」
テーブルに頬杖を付いて、子供達の姿を見ながら、幸せそうに微笑む桜を見ていると
蒼空は、何故か、嬉しくなってくる。
「6月だからねぇ」
蒼空は春子と掃除をしながら土曜の朝から、降り続く雨に、少しウンザリする。
子供達は、コミュニティールームで、テレビアニメを見ている。
いつも、部屋の隅で、読書をしている省吾だけど、子供達とモンスター達が繰り広げる、ひと夏の冒険を描いた、このアニメだけは、夢中で見ている。
「おっ、懐かしいアニメをやってるね!」
「蒼空兄ちゃん、このアニメ知ってるの?」
「うん、子供の頃によく見てたよ」
「……」
テレビを囲むように、アニメを見ていた子供達が、一斉に振り返り、蒼空の顔を不思議そうな顔で見る(おっ、なんだ)。
「最近、始まったんだよ」
「えぇぇ……!?」
蒼空も、子供の頃、このアニメに、夢中になって見ていた。そんな気がした。
真っ直ぐな目を向けて、主張する子供達。記憶違いかなと思う(おかしいなぁ……)。
目覚めてから蒼空の感覚は、不思議だった。全てが懐かしく思える感覚。
特に、省吾が施設にやって来てからその感覚は強くなる。
街に流れる流行の音楽にテレビ番組が、子供の頃に誰かと、夢中になっていたような、懐かしい感覚になる。記憶ではなく思い出のようだった。
この事を大木に話したが「記憶が混在しているねぇ……」と言われて、納得するしかなかった(確かに、子供の頃見たような気がするのに……)。
美桜は、テーブルの上で、画用紙に、絵を描いて楽しんでいる。
美桜とはお下げ髪の少女の事。
蒼空は、少女の名前を、聞き出す機会がなかったのに、不思議だった。
省吾が、来た翌日に、ふと口から出た。
「美桜、何を書いてるんだい?」
「……」
相変わらず、美桜は言葉を発しない。蒼空を見るとニコリと微笑む(そうか……皆を描いていたのか)。
子供が7人と大人7人が、虹の下で手を繋いで並んでいる。
「美桜ぉ……何、描いてるの?」
「……」
今度は、桜が覗き込む。
「皆を、描いてるんだぁ……ふぅん……西野先生に、これが私で、大木先生とおばさんに、田崎さん……丸い人は由美ちゃんか……あれっ!?」
「桜さん、どうしたの?」
最近、蒼空が『桜』と下の名前で呼んでも、怒らなくなった。
「省吾と蒼空の顔が同じ……」
「あっ、本当だ!」
「ハハハハ、蒼空と省吾って似てるのかな……」
「……」
「あれっ!? こっちは、女の子と男の子が、手をつないでる絵だね……」
「あっ、本当だぁ、女の子が美桜で……男の子は、誰かしら……? まさか、好きな子がいるのぉ……?」
「桜さん、まだ、6歳ですよ! ずっと施設のなかだし……」
「わかってるわよ! こまかいんだから!!」
美桜は、蒼空と桜の会話を、無視するかのように、画用紙に張り付き、クレヨンを走らせる。
「それにしても、すごい雨だねぇ……」
「本当ねぇ……」
「そうだ、先生のお土産でも、いただくかね?」
「そうねぇ……」
春子は西野から、預かっていた箱を取り出すと、包装紙のテープを剥がしていく。
「また、学会にでも行ったんですか?」
「そっ、そうなんだよ……ねっ、桜」
「うん……」
蒼空は、2人の歯切れの悪い会話が、気になるが、子供達には、『お土産』このワードが、子供達には突き刺さる。
テレビアニメのストーリー展開も気になるけど、上品な包装紙に、包まれていたお土産も気になる。テレビとお土産、互いを視線が行ったり着たり落ち着きがない。
「さぁ……皆! 手を洗って!」
「ハァ……イ」
「美桜も、あらっ……いない……」
テレビアニメの勇敢な主人公も、12色のクレヨンも、お土産の饅頭に負けた。手洗い場に、皆が並ぶ。1番先頭は、美桜だった。
「いただきます」
席に着くと春子と桜から、マグカップにお茶を注いでもらう。
「いただきます」
そして、饅頭を口いっぱいに、頬張る。
「いつも、美味しそうに食べるねぇ……」
「そうだねぇ……」
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蒼空は、何故か、嬉しくなってくる。
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