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第二章
夏の夜へのご招待
しおりを挟む季節は早いもので既に夏を迎えている。
家の中はアン様の用意してくれたエアコンで快適温度を保てているけど、一歩外に出れば、地球の炎天下のアスファルト地獄程ではないにしても身体中から汗が噴き出る勢いで暑い。
総菜と言う概念の薄いこの世界でも、この暑い季節に調理場に立つ事を嫌がる女達や、家の温度が少しでも上がるのを嫌がる男性達のお陰で飲食店は勿論、ココ、一期一会も大反響である。
「よう、サラちゃん。」
片手を上げてニカッと此方に笑顔を向けてくれるナイスミドルは工務店のオーナー、アイザックさんだ。
一期一会がオープンしてからと言うもの時々昼食だなんだと言っては買い物をして、ショーケースのメンテナンスをしてくれている。
本当に頭が上がらない。
「こんにちは、アイザックさん。」
とペコッと頭を下げれば、その頭をわしゃわしゃとかき混ぜられた。
髪はぐちゃぐちゃにはなったけど、なんだか少しだけ祖父に似ている気がして嫌では無かった。
少し離れた所からルヴァンが
「アイザックさん、今日はお昼…には遅いし、何かありましたか?」
と聞けば
「アーー、ちょっとお願い、っか、なんつか…な?」
と少しだけ歯切れの悪い返事が帰ってきた。
そして
「サラちゃん、一期一会を出張してくれないか?」
と、想像もしなかった言葉が返ってきてほんの数秒思考が停止した。
「出張って…。」
と私が答えを求めるよりも早く、ルヴァンは分け知った顔で
「あぁ、出張ってフェスタの出店ってことですか。」
と一人納得している。
少し置いてきぼりを食らったようになった私に、ルヴァンは大まかな内容を説明してくれた。
その内容は所謂夏祭りで、この土地の精霊を労い、これから来る冬に力を蓄える意味を持つものらしい。
「面白そう!」
「おう、楽しいばかりかこの日は年に一度、散財を許す日だからな!花火もあがったり、飾りも豪華で見てるだけでも楽しめるくらいだ。」
「…なら、初めてだし今回はお客さんとして見て回りたいな。」
と出店を断ろうとすると、アイザックさんがどこか慌てた様子で驚いていた。
「え?!」
「「え?」」
「あ、いや…」
普段のアイザックさんから考えられないような反応に、ルヴァンと二人で驚いてしまった。
私たち二人の驚いた様子にアイザックさんはさらに慌てた様子で付け足した。
「勿論、フェスタは楽しんで欲しいんだ、けど美味い料理も食べたいって話になって、その…サラちゃんに出店してもらえないかの交渉を任されたんだ…。」
頭をかきつつ申し訳なさそうに事のあらましを話し出した。
勿論国を挙げての祭りな訳で、国からも開催にあたり予算が割り当てられ、更には実行委員なるものが運営の多くを任され、出店店舗は国民からの評価の高い店舗が選出されるのだ言う。
「うーん…。」
正直有難い、お店を出して欲しいって言ってもらえたってことなんだから。
だけど…
チラッと灼熱地獄と化したハウフロートの街を見る。
夜になったらそれなりに涼しくはなるが、建物が密集しているハウフロートでは夜になっても過ごしやすいと言った気温まで下がることはない。
かと言って総菜屋として、かき氷だったりの氷菓子だけを提供するのも憚られる。
となると、となるとですよ。
必然的に屋台でお馴染みタコ焼きとか、お好み焼きって人気メニューが候補に上がるわけですよ…。
相当苦い顔で石畳の道を睨みつけていたであろう私に気付いたルヴァンが
「サラ、顔。怖いことになってるよ。」
と耳打ちするのも仕方がない。
いくらそれがアイザックさんの頼みでも、この快適温度の家の中で過ごしている私にとってある種の死刑宣告のようだ。
けど、それは祭りに参加しても人混みに潰されて同じ思いをするのかもしれない。
おしくらまんじゅうで地獄を見るか、料理を作って地獄を見るか…
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