異世界で総菜屋始めます

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第一章

ウサギの野菜売りと小さな嘘③

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「サラ嬢ー?」

ルヴァンが私を探してる。

ちょっとすみません、と席を外してルヴァンに一階にいる事を告げれば階段を転がる様に駆け下りてきた。

「ちょっとお客様が来ててね」

とこれまでの事を説明すれば

「それは…」

と言葉を詰まらせた。

きっとこの反応を見ても結構重い刑なのかもしれない。
なんの政策もし無い無能な国が裁く権利なんて無い、と思うんだけどそんなこと大々的に言えば反逆罪とかになりそうだから流石に言え無いが…
やっぱり自家栽培の大切さを感じる。

「だからもう少し待ってて、平和的解決をするから。」

とルヴァンに告げれば分かりました、と二階に上がって行った。
そもそも私がこの国の事をわかって無いのも問題なんだから何も問題ないもの。

お待たせしました、と席に戻り話し始める。

「実は私、もうすぐお店を始めるんです。飲食店なんですけど…」

ワザとらしく切り出せば少し戸惑った様子も見せつつも、そうなんですかと返事が帰ってきた。

「それでピーターくんとメイプルちゃんに試食して感想を聞かせてほしいってお願いして、野菜代とアルバイト代を渡したんですよ。」

そこまで言えば支離滅裂な事を言い出した私を口を開けたまま見ている。

「まさかご両親まで呼んでもらえるなんて…」

ニッコリ微笑んで言えば、私が払った額は通常の物だけで後はアルバイト代だからと言ったことが伝わり

ありがとうございます、ありがとうございますと頭を下げられた。

「なので今から夕飯にしましょう。」

パンっと手を打ってこの話は終わりと告げる。

4人を連れて二階に上がればルヴァンが心配そうに歩き回っていて、此方を見ると私の笑顔から察したのかホッとした様子が見られた。

「すぐに温めるんで座って待っててください、手を洗う洗面所はルヴァンに案内して貰ってください。」

とルヴァンに任せれば

「どうぞ、此方です」

と胸を張って案内している。
ふふ、可愛い。

2種類のロールキャベツを温めて、それぞれをお皿に盛りつけたところでロビンさんが運びます、と手伝いを買ってくれた。
ピーターくんもメイプルちゃんも悪い事をしたと反省しているからか手伝ってくれる。
ケインさんも手伝ってくれようとしていたがそんなに運ぶものもないので座っていて貰えば、少し居た堪れない雰囲気だったけどルヴァンが話しかければ少し気が紛れた様だ。

ご飯にロールキャベツに、人参の葉のゴマ油炒めとコールスローサラダを並べればゴクっと喉がなるのが聞こえた。

どうぞ、と進めれば頂きますと遠慮しつつも食べ始め、気に入ってくれたのか気持ちいい食べっぷりを見せてくれる。
私とルヴァンも一緒に食べれば何だか皆んな家族みたいだ。

料理の説明をしたり、味の感想を聞いたりしながらお腹が満たされれば先程の気まずそうな雰囲気は何処にもない、と私は思ってる。
食後の紅茶と焼きメレンゲを出せば子供達が

「「嘘ついてごめんなさい」」

と頭を下げてきた。
彼らがついた嘘は家族を思うが故の小さな嘘だと思う。ただそれがこの世界では罪になる。

「大丈夫、ただ、此れからは嘘はダメだよ?」

と言えばうん、と頷いてくれた。

謝ってスッキリしたのか焼きメレンゲを食べると、甘い食べ物に子供達がルヴァンと一緒に目をキラキラとさせている。

微笑ましく眺めながらケインさんとロビンさんに向き直る。

「失礼は承知の上でお伺いします。冬を越せないかもって何があったんですか?」

二人が顔を見合わせてポツポツと話し出した。

「私達は花を栽培して販売店に下ろしているんですが、今年はどの花畑も花が多く取れるため単価が下がってしまったんです。」

「珍しい花はそこそこの値で取引されるんですが私達が栽培されているのは、その…あまり難しい栽培方の物でなく害虫や天災に強い品種のみで…」

あまり珍しくないどころかどこの店でも扱うようなポピュラーな花だと教えてくれた。

「ただ花をそのままにすると来年の収穫にも影響が出るので半分以上の花畑はもう少ししたら耕して更地にしなきゃならないんです」

それはかなり手痛い。
花が売れなければ収入も得られず、かと言って長引かせれば来年の収入にも響く…

何かいい方法はないのだろうか?

「あ!ケインさん野菜を育ててみませんか?」

「え?野菜を?」

「はい。簡単な物を私が用意しますので畑の半分で育ててみませんか?」

「けど…」

「それに、今から作れるものなら秋頃に収穫出来るので冬の食料に困ることもないと思うんです。勿論取れた量によっては多いものは売ることもできるので生活の足しに出来るはずです!」

これはケインさん達の助けにもなるし、野菜の栽培が出来ると広まればいずれ食品の物価はもう少し落ちるはず。

一人で納得しているとロビンさんが重い口を開いた。

「そこまでして頂いてもサラさんにメリットはありませんよね?それに野菜がそんなに簡単に育つなら危険を冒してまで採取しに行く人はいないはずです。」

「メリットはありますよ!自家栽培を広められれば野菜の物価は下がりますし、生活が潤います。それに私が住んでいた遠い国では自家栽培が当たり前だったので野菜の物価はこの国の半分以下でした。危険を犯してまで取るという概念自体私にはないんです。」

そこまで言えば驚いたように目を見開いて此方を見ていた。

「それに品が豊富な為、色々な研究がされて私が作る料理のようにこの国ではあまり用いられない味付けなどが一般的なんですよ。」

返事を待つようにじっと二人を見ればケインさんが

「やってみるか」

と呟いた

「あなた…」

「何もしないで嘆くならやって嘆く方がいいだろ?」

ケインさんが困ったように笑えばロビンさんがそれもそうね、と釣られたように微笑んで

「「よろしくお願いします」」

と頭を下げられ、何だかワタワタしてしまった。

その後は今後のプランをいくつか話し、今日はもう遅いということで明日お宅にお邪魔する約束を取り付けてお開きにする事になった。

子供達が気に入ってくれた焼きメレンゲを紙袋に入れて持ち帰らせてあげればとても喜んでくれて私まで嬉しくなる。

それに野菜の自家栽培計画も進んだように思える。

五月病は何処へやら、今はやる気に満ちていた。


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