異世界のスキル屋さん~スキルなんでも貸し出します~

猫丸

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第4話 冒険者たちのそれから

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 アイラが驚いたのも無理はない。
 鑑定紙の製造はギルドがやっているため偽装はほぼ不可能。
 紙の隅にはギルドの紋章も入っている。
 これを偽装した場合は重罪に課せられる。
 グレンがそこまでする理由はないし、勿論そこまで仲間を疑うこともできない。
 つまり、スキル屋は本物だ。

「実際はもう少しややこしい手順を踏むんですけどね、今回はてっとり早く信じてもらうために省略しました」

 リクトはそう言って、苦笑した。
 呆気にとられるアイラの代わりにアレイが聞く。

「手順って言うと?」

「契約書ですよ、簡単に言うと悪用しない、期限までに返す、この二つを守れない場合は強制的に返してもらう、とかですね」

 思わずアイラは黙ってしまった。
 悪用を考えなかったと言ったら嘘になる。
 自分で詐欺が許せないと言っておきながらそのことに少しでも思考を巡らせてしまったことを恥じた。
 
「まあ、今回は金銭のやり取りもないお試しなのですぐに返してもらいますね、そちらも本当にそのスキルがほしかったわけじゃないでしょう?」

 うぐ……と、アイラは言葉を詰まらせた。
 リクトの言う通りスキルを借りたかったというよりは、嘘を暴くためにわざわざリクトの言葉に乗っただけなのだ。

「あの……実際見て分かりました。だけど……それでもまだ少し信じられません」
 
 アレイが本心からの言葉を言う。
 確かにスキルのレンタルというのは画期的だ。
 だが、それでも今までの常識を簡単に覆せるはずもない。

「で、でも……凄いです! スキルの貸し借りなんて……!」

 普段は弱気なニーナでさえも興奮気味に捲し立てる。
 しかし、それでも心のどこかでまだ何かの間違いじゃないかという思いがあった。

「ありがとうございます……あ、実際に使ってみます? 本日のお代は無料でいいですので」

 皆一様に黙って見つめ合った。
 しばらくして代表するようにアレイが手を上げた。

「えーと……それなら剣術スキルの神級とか……」

「はいはい、お待ちを……はい、譲渡しました」

 相変わらず何のアクションも見せずに簡単に言い放つリクト。
 それを見てやはり少し拍子抜けした感覚を感じながらもアレイは恐る恐る自前の鑑定紙に血を付ける。
 鑑定紙は自分の体液をつけることでスキルを鑑定することのできる紙だ。
 唾液でも血液でもなんでもいい。 
 とにかく紙に一定量以上の体液が付着したらその人物のスキルが表示される。
 そして、胸の高鳴りを抑えながら見た結果は―――

「……取得してる」

 ニーナとアイラも紙を覗き込む。
 そこには確かに剣術(神)の文字があった。

「本物、よね?」

 やはりまだ常識に引っ張られる。
 アイラは鑑定紙をどこか半信半疑で見ていた。
 するとアレイは仲間たちから少し離れて剣に手を置いた。
 そして―――

「ッ!」

 音もなく傍の木々がまとめて切り倒された。
 剣筋すら見えない神速の斬撃。
 人類が到達できる最高峰。
 一握りの天才のみが到達できる最高位。
 アレイはそのレベルを一瞬で取得してしまったのだ。
 まとめて切り倒された大木を眺めながら何も言えないアレイにグレンが近づく。

「どうだ? 本当だっただろ?」

 グレンがニマニマとしながらアレイの肩を叩く。
 しかし、そのグレンももう一度見るまでは半信半疑だった。
 それほどまでにスキルの貸し借りなんてものは非常識なのだ。
 だが仲間たちもそれを目にしたことでグレンは自信を持つ。
 自分の見たものは全部現実だったのだ。
 そして、それを見てバツが悪そうにしているアイラがリクトの前へと。

「あの……リクトさん、ごめんなさい……何も知らずに好き勝手言って」

 律儀に頭を下げるアイラにリクトはひらひらと手を振った。

「気にしなくてもいいですよ」

 リクトは何でもないことのように言った。
 そんなリクトにニーナは詰め寄る。

「あの! 一体どうやってるんですか!?」

 興奮冷めやらぬ様子のニーナ。
 ニーナが冒険者になったのは未知というものに大きく心を惹かれたことが大きい。
 普段は大人しい少女だが、未知に対する情熱だけで言えば人一倍だった。
 気になってしょうがないというようにリクトに詰め寄り矢継ぎ早に質問した。
 そんな彼女に少し驚きながらもリクトは答える。

「そこは企業秘密でお願いします」

 少し……いや、かなり残念に思いながらもニーナは身を引いた。
 内心そう言われることを予想していたからだ。
 それほどまでにこの事実はとんでもないことなのだ。
 人類の歴史が覆ってもおかしくないことだ。

「あ、ところで無料なのは本日限りですけどどうします? 他にも借りますか? 何かしら理由がない限りは御一人様一つまでですけどね」

 アレイたち4人は顔を見合わせる。
 もう疑う理由はどこにもない。
 実際に目にした以上信じないわけにもいかない。
 
「探知! 探知の神級をお願いするわ!」

「わ、私は聖女スキルの神級を!」

 一斉に詰め寄る。
 そんな仲間たちを見てグレンがアレイに一言。

「何か言いたいことはあるか?」

「ああ……疑って悪かった」

 そして、アレイは付け加える。

「今報酬が高額なクエストってなにがあったっけ?」

「グリーンワイバーンの討伐と、ロックリザードの逆鱗、綿毛コウモリの捕獲とかだったかな」

「どれもCランク……いつもだったら手も足も出ないけど、余裕……だよな? グリーンワイバーンはBだから受けれないけど」

「神級スキルがあるならワイバーンだったとしても余裕だろう」

「…………」

「…………」

 アレイはこれからのことを考えながら一言呟いた。

「忙しくなりそうだな」















 翌日、ある冒険者たちが突然高ランククエストを連続でクリアし出した。
 昇級試験は受けなかったものの、それはちょっとした事件として冒険者たちの間で話題になった。
 突然強くなった冒険者たちは口を揃えて謎の店の存在を言っていたという。
 その店の名前は―――スキル屋。 
 世界中にその名を轟かせることになる古びた一軒の店の名前だ。




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