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第4話 悪意の視線

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 僕は今までにない速度で脳内を回転させていた。
 美醜逆転世界。 
 友達になろう発言で美少女に泣かれた。
 つまり喜ばれた……で、いいのか?
 いや、確証がない。
 ラノベでは何とも思ってなかったけど実際に遭遇すると固まるよこれ。
 ううむ……とりあえず泣き止ませなくては。
 悲しんでるのか喜んでるのかはさておき原因はまず間違いなく僕なのだから。
 僕は長年使ってほつれている黒いハンカチをポケットから取り出した。
 そのままニーナさんにハンカチを差し出した。

「ご、ごめんなさ……ひっぐ、うっ」

 涙を拭うニーナさん。
 必死に弱さを隠そうとする彼女にそれを渡す。
 兎にも角にもこの状態で街に行くことができるわけもなく。
 ひとまずはニーナさんが泣き止むのを待つことにした。
 僕のボロ布もニーナさんみたいな美少女に使われて本望だろう。











 

 泣き止んだニーナさん。
 しかし彼女は申し訳なさそう。

「御見苦しいところを……その……べ、弁償してお返しします……」

 返す必要はないと伝える。
 勿論のこと弁償もだ。
 そんなことで気を遣われたら肩が凝るよ。
 で、そうこうしている内にムールの街の行列の最後尾にまでやってきた。
 如何にも冒険者と言った風貌の男達や、商人らしき恰幅の良い男性、戦士と魔法使いの男女だったり色んな人がこっちを見てくる。

「……結構多いですね行列」

 10人くらいだろうか。
 門番と話して、何かを調べているようだった。
 今更だけど僕入れるよね?
 大丈夫かな……
 並んでいるとヒソヒソと話し声が聞こえてきた。

「すげ……あんなに綺麗な黒髪は珍しいな」

「よく見たらかなりカッコいいかも……話しかけてみようかしら」

「お前じゃ無理だろ」

 黒髪というワードからどうも僕のことについて話してるみたいだった。
 かなり友好的なギラギラした視線を感じる。
 ちょっと怖い。

「ってか、なんであの化け物までいるんだ?」

「まだここにいたのね……街の景観考えてほしいわ」

「同じ空気吸ってると思うだけで気持ち悪い……」

「死ねばいいのに」

 逆にニーナさんを見る目はとても厳しいものだった。
 まるで親の仇でも見るような……
 僕とニーナさんは出会ったばかりだ。
 だけどそれでもニーナさんが悪い人じゃないってことだけは分かってるつもりだ。
 だからこそ無性に嫌な気分になる。
 隣を見るとニーナさんは俯いていた。
 僕としてもあまりこの悪意に晒されてほしくなかったので彼らの視線から守るように僕は自分の体でニーナさんを隠した。
 意外そうな顔をする後列の人たち。
 ニーナさんもだ。
 仮面で表情は窺い知れないけど、こちらを見て固まっている。

「よし、通っていいぞ、次!」

 で、そうこうしているうちに僕たちの番。

「身分を証明できるものはあるか?」

 あ、やっぱりいるんだ。
 どうしよう何もない……

「ない場合はどうなります?」

「通行料がかかるな、銀貨4枚だ」

「えっと、これ使えます?」

 僕は前の世界の銀貨を出した。
 しかし、やはりこの世界の通貨ではなかったので疑惑の目で見られた。

「どこの国の通貨だ?」

「ちょっと遠い異国のものを……駄目ですか?」

「駄目だ、ゴルド通貨で4000ゴルドでなければ認められない」

 いよいよ打つ手がなくなってきた。
 困っているとニーナさんが助け船を出してくれた。

「あっ、あの……この方の通行料なら、わっ、私がお支払いします……」

 ひどく緊張しているその声は、震えているのが分かる。
 門番の男性は途端に冷たくなる。
 最低限のやり取りで済ませようとしていることが分かった。
 ニーナさんから受け取る銀貨も汚らしい物を触るようにしている。
 露骨すぎるあまりにもあまりな態度に僕は言葉を失う。

「通れ」

 視線すら向けずにこれ以上関わりたくないという態度を示す。
 ニーナさんがシュン……として落ち込むのが分かった。
 僕は傷付くニーナさんを見ていられず咄嗟に彼女の手を握った。

「ゆ、ユウトさん……っ?」

 え―――? と。
 周りに驚愕が広がった。
 冒険者たちがひそひそと話しているのが聞こえた。
 門番の人なんて目をこれでもかと見開いて、口をぱくぱくとさせている。

「お、おいあんた、そいつの顔見たことあるのか?」

 周囲で驚いていた一人が思わずといったように声をかけてきた。
 声色からして興味半分、心配半分くらいか。
 半分は心配して言ってくれているのだろうが、僕からしたら余計なお世話だ。
 不快でしかない。

「人の友達馬鹿にしないでもらえますかね?」

 努めて冷静に返そうとする。
 だけどどうしても不機嫌そうな声になってしまうのだった。
 可哀想な者を見るような、あるいは馬鹿を見るような目を向けられる。
 男も舌打ちを返してきた。
 だけど僕は気にもならない。
 こんなものは魔王と戦う重圧に比べたら軽すぎる悪意だった。

「ニーナさん、行きましょう」

 僕はニーナさんの手を引いて街へと入った。
 初めて触れた彼女の手はとても熱かった。





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