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After5 オフ会
しおりを挟む黒崎加恋視点
オフ会当日――
時間は瞬く間に過ぎていった。
服もお洒落な物をお小遣いで購入。
色々と準備を整えて皆と計画を立てて……そんなこんなで祝日を含めた3連休の初日。
私は自分の通っている鈴ヶ咲高校の近くにある街中の大きな時計塔のモニュメントの前でソワソワしていた。
学校へ行ったりちょっとした買い物をする以外の理由での外出は久しぶりだ。
いっつも引き籠ってゲームしてたし……
「すー……はー……」
深呼吸をして緊張する自分を落ち着ける。
しかし、そんな抵抗も虚しく約束の時間が近づくにつれて心臓の鼓動は激しさを増していく。
「まだかなぁ……早く来ないかなぁ……」
そう言いつつ時計塔のほうに目を向ける。
7時56分。
カナデさんと会うまで2時間以上もある。
いくら会うのが楽しみだからといっても早く出て来すぎてしまった。あと2時間も心臓が持つ気がしない。
カナデさんどころか【ゲーマー美少年捜索隊】の皆もまだ来ていないようだった。
期待や不安が胸の内で渦巻く。
だけど、今更引き返すわけにはいかないし、そんなつもりは毛頭ない。
今日は私の想い人であるカナデさんと初のオフ会。
そこで私は想いを告げるつもりだ。
まだ時間もあるし時間つぶしに時計塔の周りを少し散策する。
いつも見慣れている景色のはずなのになんだか新鮮というか、見慣れた街じゃないというか、そんな感じがした。
「あと2時間……」
携帯型の手鏡を取り出して色々とチェックする。
引き籠りの代償でありちょっとした自慢の焼けてない白い肌。
ここで少しでもカナデさんの気を引けたらいいなぁ、なんて……
髪の毛も跳ねてないか全部チェックしてある。
よし、大丈夫……問題はない。
昨日はのぼせあがるまでお風呂に入って、その際にシャンプーと石鹸もいつもよりいい匂いのするものをわざわざ買って使った。
睡眠もたっぷり8時間とったし、朝になってからもう一度30分以上かけてお風呂に入った。
普段はやらないお化粧もやってみたし……
お化粧に関してはあまり詳しくないのでナチュラルメイクな感じで軽くお母さんにやってもらった。
あんまり変わってない気もするけど顔が変わるくらいやっても意味ないからね。きっとこれくらいでよかったんだろう。
ちょっとだけ勘ぐられたけどそれどころじゃなかった私はどう返したかよく覚えていない。
服装ももちろん気を遣った。
こんな時にジャージなんて着れるわけもないし……
今の私は白い清楚っぽく見えるロングのスカートを履いている。
さすがにミニスカートだとちょっと軽薄そうに見えるかな? なんて心配したりしたのでこちらの露出は少なめだ。
上は桜色のチュニックシャツを着ている。
(あと1時間45分……)
確かカナデさんは有名なロゴの入った黒い帽子を被ってるんだよね。
どんな人なのかな。
ぴろりん!
カナデさんだろうか? とも思ったけど、今のはLEINの通知だ。
なんだろうとスマホを見た。
『ちょっと欲しいアイテムがあるんだけど、手伝ってもらえないかな』
優良の発言だった。
いつでもどこでもマイペースな優良らしかった。
ちなみに今回のオフ会メンバーは6人。
カナデさん、私、篠原百合、椚木優良、西条薫、早乙女晶だ。
人数が多いと移動の時にも他の人の迷惑にもなるし、カナデさんにだって大人数の女が相手だと身の危険を感じさせてしまうのでは? ということでだ。
他の参加権を得ることが出来なかったメンバーは血涙を流す勢いで悔しがっていた。
気持ちは分かるけどさ。
『ごめん、今外なんだよね』
ということで私はゲームに関しては不参加だ。
『外?』
『うん、待ち合わせ中』
『……? あれ? ゴメン確認なんだけどオフ会の待ち合せって10時じゃなかったっけ?』
そのくらいは知ってる。
優良の言葉に補足を入れるようにLEINに送信。
早めに待っていることを伝えた。
すると皆から返信がやってくる。
『早すぎて草』
『2時間前は重いww』
……そう言われると張り切りすぎて恥ずかしい気がしてきた。
だけど実際それくらい楽しみにしてたし、万が一の時にカナデさんを待たせたくなんてないし……何より男の人より早く待ってるのは女としては当然だし。
『気の張りすぎも良くないと思うよ?』
『カナデさんが相手じゃなかったらガッツリ引かれてるところだよ……』
『でも加恋の気持ちも分からないでもないよね』
『確かに……早く会いたいって気持ちは分かるよ』
『カナデさんどんな顔なのかな?』
『もしかしたら妄想の2割増しくらいイケメンかも?』
皆がカナデさんの容姿について盛り上がり始めた。
よかった。やっぱり気になってるのは私だけじゃなかったんだね。
カナデさんはどんな人なんだろうか。
私はカナデさんがどんな顔でも間違いなく受け入れることができるだろう。
だけど……もしもイメージの中みたいなイケメンだったら――
『あれこれ予想するのもカナデに悪いし、会った時の楽しみにした方がいいんじゃないか?』
浮かれたことを考えているとそんなLEINがやってきた。
そうかも……晶の言う通りだ。
気にはなるけど、ここはグッと堪えよう。
でも……
『何か色々と想像したら緊張してきた』
さっきよりも緊張の度合いが高まった気がする。
どうしよう。カナデさんが相手ならと顔にそこまでの拘りはなかったけど、ビジュアルを意識した途端顔が熱くなってきた。
先ほどのメンバーの発言に感化されて、私のイメージの中のカナデさんが2割増しくらいで格好良く美化されていく。
心拍が上がって、手もちょっとだけ震え始めた。
『素数数えるといいらしいよ?』
『2、4、6、8、10、12』
『なんか違うw』
そ、素数ってなんだっけ。
皆から落ち着けとLEINがやってくるのでそれに返事をして少しでも気を持ち直す。
『とりあえず一度戻ったら? さすがにまだカナデさん居ないでしょ』
百合に言われて少し悩む。
うーん、重い女だなんて思われたくはないし……よく考えたら2時間も前から待ってるわけもないよね。
こんな状態でこれ以上耐えられる気がしないし。
周囲を見渡しても女の人ばっかり。
女、女、女、女、女、男、女。それらしい人なんて――
二度見した。
ベンチに座る男性が居た。
今日は晴れ模様なので逆光で見えてなかったんだと思う。
一瞬で目を奪われた。それと同時に理性ではなく本能的に理解した……カナデさんだ、と。
予め聞いていた通りの黒い帽子も確認できた。
ゴシゴシとしつこいくらい目を擦り再度見た――言葉を失った。
「う、ぉ……」
後光が見える気がする。
人のことは言えないけど、まだ1時間以上もありますよ……?
もしかしてカナデさんも私と同じくらい楽しみにしてたのかな……なんて、都合のいい考えも浮かんだ。
時間の感覚がなくなり目を奪われること数秒、あるいは十数秒。
『……居たかも』
LEINを打ち込んだ。
『え』
『ホントに? 早くない?』
『人違いじゃ?』
様々な言葉が浮かんでは消えていく。
けど、これだけは伝えよう。
『2割じゃなくて3倍だった』
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