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勇者召喚
第15話 授業
しおりを挟む「本日は、この世界で最も重要な力と言っても過言ではないスキルについてお話しします」
そう言ったのは勇者の教育係だというサーシャさんだ。
オレンジ色の明るい髪を後ろに結わえている。
とりあえず胸が大きい。
勉強に集中できないかもしれない、どうしよう。
「まずこの世界の人々の持つスキルの平均数についてお話しします」
「1個2個とかじゃないんですか?」
僕がそう質問すると姫木さんからは黙って聞いてろみたいな鋭い視線が飛んできた。
しかし、サーシャさんはくすっと笑ってやる気があるのはいいことですよと褒めてくれた。
優しい人で良かった……胸揉ませてくれないかな。
「確かにその認識で間違いありません、しかし絶対でもありません」
僕はよく意味が分からず頭を捻った。
他の皆もよく分からなかったらしい。
サーシャさんが言葉が足りませんでしたね、と補足を入れる。
「あくまで平均は、という意味です。例えば1~2つのスキルを持った人が100人いるならその平均は確かに1つ2つでしょう。
ですが99人がスキルを持っていなかったとしても1人が100個のスキルを持っていれば平均は1になります」
「才能に大きく左右されるってことですか?」
「その通りです。今の例は極端なものですが過去の勇者には召喚された時点でスキルを7つ取得していた方もいます」
あー……何か聞いたことある。
リリアがなんか言ってた。
名前覚えるのが苦手だから出てこないけど……あ、出る出る。今首の後ろの辺りまで出てきてるよ。
「剣聖……ジョージでしたっけ?」
「既にご存知でしたか。勤勉なのはさすが勇者様ですね。頼もしい限りです。正しくは剣聖リョーマですけどね」
「なるほど、紙一重ですね」
惜しかった。
だけどサーシャさんは妙に感心していた。
この世界に来たばかりの僕がそのことを知っているのは予想外だったらしい。
ただ姫木さんが妙に悔しそうにしてるけど……君はどれだけ僕に敵対心を持ってるの?
「悠斗様は3つ、その他の皆様は1つですが気を落とすことはありません。このリョーマは歴代最強の勇者と呼ばれていますから」
ふむふむ、まあ僕は現時点で9個なんですけどね。
なんて自慢したかったけど授業の邪魔になるので大人しく聞くことに。
「しかし、過去にはたった一つのスキルのみで魔王を追い詰めた勇者様もいます」
お? それは初耳だ。
どんなスキルを持っていたんだろうか?
「暴食の勇者と呼ばれている方で、七大罪スキルの一つ『暴食』を使い単騎で魔王を瀕死にまで追い込みました」
「七大罪スキル……!? そ、それはどういったものなんですか?」
オタクな秋山さんがテンション上げ気味で手を上げた。
うん、秋山さんなら絶対反応するって思ってたよ。
「詳細は分かっていません。ですが非常に強力な力だったと言われています……その勇者の通った後には文字通り草一本たりとも残らなかったという話です」
ほえー、と感心したような秋山さん。
彼女ほどではないけど栗田さんと姫木さんもそれなりに興味があるような表情だ。
「七大罪スキルは一つで世界を統べることができるほどの力を宿しているらしいのですが、七つあると言われている七大罪スキルのうち現在確認できているのは先ほどの『暴食』それと『怠惰』と『色欲』の3つのみです。
スキルの詳細はいずれも不明ですが残りの4つの所有者もいつか現れるのではと言われています」
……すいません、一つはここにあります。
そんな凄い力だったのか……確かに便利だとは思うけどさ。
だけど確かにスキルを奪える力ってのはこの世界ではチート以外の何物でもないよな。
石でのレベル上げも相当反則だと思ったけど、スキルを増やせるのは完全に世界の理に反する様な能力だ。
「ん? でもその剣聖さんが最強って言われてるってことは、剣聖さんは魔王を倒せたんですか?」
「その通りです。もっとも相打ちだったらしいのですがその偉業に人々は彼を称えました」
すると栗田さんが控えめに手を上げる。
「魔王って複数いるんですか?」
「いえ、厳密には常に一人です……ただ魔族たちの中でどういう基準で選ばれているのかが分かっていないのが現状です」
「じゃあ仮に俺が魔王だー! って名乗る魔族がいたら判断できないってことですか?」
「そうです。しかし、今のところそのようなことは一度も起きていません」
僕たちはノートにカリカリと文字を書き写していく。
その後はいくつか有名なスキルを教えてもらって授業は終わりになった。
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