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勇者召喚

第11話 隷属

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 強欲の発動条件は5つある。
 多いかとも思ったけどスキルの平均数が1つか2つのこの世界で相手のスキルをノーリスクで一つ奪えるんだ。
 むしろ少ない方だろう。
 
 その条件は―――

 1、一定時間内に対象に触れたことがある。

 2、対象がそのスキルを持っていることを知っていること。

 3、対象が自分に対する悪意を持っていること。
 
 4、対象の半径5m以内にいること。

 5、対象のスキルを『強欲』のスキル所有者自身が欲していること。

 と、こんなところだ。
 発動条件ではないけどほかにもいくつかルールはあるけど……まあ今は置いておこう。
 接触に関しては話しかけた時に手に触れているのでクリア。
 スキルを持っている事に関しては神眼があるから問題なし。
 3は言わずもがなで4もそこまで難しい条件ではない。
 5の方も魅了を奪わなければ死んでいるため欲していると言えるだろう。
 これで全部クリアだ。

「……私、は」

「ん?」
 
 リリアはひどく悲しそうな表情を浮かべていた。
 グッと唇を噛んでそれを堪えようとしている。
 だが、やがてそれは決壊する。
 ぽろぽろと大粒の涙が溢れてきた。

「わ、私゛は……このまま殺される゛んですか? お母さんにもっ、お父さんにも……! 会うことすらできずに、いるかも分からない兄妹のことを知ることもできずに……!
 勇者すら殺せずに……今ま゛で、どれだけ惨めでも……ひ、必死に生きてきたのに……!」

 リリアは搾り出すように叫んだ。
 なら、それならば―――と。

「私、は……何のために……う、生まれてきたんですか……?」

 僕はその言葉を静かに聞いていた。
 彼女の心の底からの叫び。
 今まで必死に生にしがみついてきたという彼女の。
 身分を偽り、勇者を殺すためだけに人族に紛れ込み、自分を偽ってきた魔族としてではなく。
 正真正銘のただのリリアとしての言葉。
 僕は彼女のその問いに対する答えを持ってはいなかった。
 何も言えなかった。
 だから―――

「知らないよ」

 だからなんだというのか。
 殺そうとした僕にそんなことを言うこと自体間違っている。

「そんな涙で優しくしてもらえると思った?」

 彼女の心はもうぐちゃぐちゃなのだろう。
 今までのことを思い返しているのかもしれない。
 そのままその場に崩れ落ちた。

「う、ひっぅ……う゛ぇえぇ……!」

 嗚咽混じりの泣き声。
 僕はその涙を拭うこともせずに彼女を見下ろしていた。
 ラノベとかならこういう時はそっと抱きしめたりするんだろうけどさ。
 そんな安っぽいことを僕はしない。
 主人公にはなれないな……と、どこか他人事のように思った。
 まあ、だけど。

「生まれてきた意味が知りたいなら……とりあえず生きてみればいいんじゃない?」

「……え?」

 急に顔を上げたリリアに僕はちょっとだけびっくりした。

「え?」

「……ん?」

 僕と彼女は目を見合わせる。
 リリアは涙でぐちゃぐちゃに濡れた顔を。
 僕はなんでそんな顔をされるのかという疑問の表情。
 お互いに間抜けな顔を見せ合う。

「え、殺さないんですか?」

「? 魔王なら僕が倒す予定だから気にしなくてもいいと思うけど……確かに怖いのは分かるけど今それ考えても仕方ないでしょ? それより早く戻ろうよ、僕もう完全に大きい方してると思われてるよ、トイレの住人になってるよ」



 ……………………


「ん?」

「んん?」

 なんだ、何か噛み合ってないぞ。

「殺さないんですか?」

 再度同じ質問。
 意図が分からず首を傾げながら今までの状況を脳内で整理する。
 えーと……?

「………………………………あ、僕がってこと?」

 リリアが頷く。
 僕は勢いよく首を横に振った。
 いやいやいや、それは誤解だ。
 と、思ったけど今までの展開的にはそう思われても仕方ないことを今更ながら自覚する。
 むしろそっちのほうが流れとしては自然だ。
 馬鹿か僕は。
 どうやら僕も初めての命のやり取りを経て想像以上にテンパっていたらしい。
 冷静ぶってるけど汗びっしょりだし。

「はい……?」

「いやいや、これでも僕って結構善良な一般市民で通ってたんだよ? いきなり人殺しってハードル高すぎでしょ、そりゃ将来的にはないとはいえないけどさ。
 最初はもっと低いハードルからやるもんじゃない? ほら、最初はミミズとかで試してさ、ネズミとか魚とか挟んでそこでやっとモンスターとかに手を出しめるのが丁度いいんじゃない?」

 リリアが何度目かも分からない驚きを浮かべる。

「あの、私はあなたを殺そうとしたんですよ……?」

「うん、でもやったらやり返すってどこのガキ大将だって話だよ。僕はさっきも言ったけど小心者な一般ピーポーなんだよ?」

「……私はこれからどうすれば?」

「そのことだよ知らないって言ったのは。僕は魔王を倒すからさ、そっちはそっちで勝手に生きていけばいいんじゃない?」

「えぇ……あの、それならそれで……そこはもっと……言い方があるのでは」
 
 それは甘えだと思うけど。
 殺そうとしてきた人にそこまで親切にするような心は持ってない。
 そもそも魔族をやっつけたなんてバレたらどうやって? って話になるし。
 僕のスキルはみんなに露見して怒られて……そのあとは面倒ごとがやってくるに決まってる。
 そりゃ理由があるなら何とかするけど今回の件でリリアは完全に無力化したんだ。
 知りたいことも知れたし、僕の中で彼女はもう完全に無害なのである。

「無力化……?」

「あれ? 気付いてない? 分かりやすいように手の甲に書いたんだけど」

 リリアが手の甲に視線を移す。
 そこにははっきりと隷属の証が刻まれていた。

「これ……」

「隷属の証。隷属紋……とでも名付けようかな?」

 少し可哀想だとは思うけど、これで僕たちに危害を加えないと強制的に命令させてもらおう。
 しかし女の子を隷属させて好き放題に命令できる権利か……やばいな。うん、なんかもう思春期真っ盛りの男子としては非常に……いや、そろそろやめておこう。規制されてしまう。
 スキル『隷属』。
 僕の持っている能力の一つだ。
 効果は単純……しかし、非常に強力な力だ。
 それは隷属させた相手への絶対命令権。
 相手を隷属させる条件はいくつかあるが……一番面倒なのは相手が万全の状態で精神的に抵抗したら難しいというところだろう。
 しかし、リリアは泣いていた。
 それはもう泣きじゃくって精神的に弱った状態だった。
 そのためこっそりと隷属させてもらったのだ。
 というかさすがに言うけどリリアって結構抜けてるところあるよね。
 僕の隷属の使用にも、魅了を奪われたことも気付かないしさ。

「私は……あなたの奴隷に……?」

「そんな物騒なものじゃない……こともないのかな? まあ変な命令はしないから気負わなくていいよ。こっちとしては危害加えてこないならなんでもいいし。やることないなら今まで通り過ごせばいいし」

 だけど魅了を奪えたのは運がよかった。
 見たところ魅了スキルと隷属スキルの相性はかなり高い。
 魅了で精神的な暗示をかけたところで隷属させれば成功率は高まるだろう。

「………」

 リリアが黙り込む。
 僕が何となくその姿に不安を感じて顔を覗き込む。
 真っ赤だった。
 そんなリリアが顔を上げた。
 やはり見間違いでもなく顔はトマトのように赤く染まっていた。
 瞬きすらしない潤んだ瞳で僕を見てくる。
 え、何その顔。











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