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第13話 まさか自暴自棄に……?

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 あと後、酒場を出た僕とノアはひとまず宿を取った。遅くなり過ぎても困るしね。
 せっかく街に入れたのに野宿は御免だ。
 ちなみに今回も二人部屋。勿論手を出すつもりはなく……じゃなくて!

「いやいやいや、意味が分からない。な、なんで? なんでアイは自分を大事にしないの?」

 今はそれよりもアイのことだ。
 意味が分からなすぎて僕の脳内は混乱状態だった。
 部屋の中をぐるぐるウロウロ。

「ご、ご主人様、お水をどうぞ……」

「あ、ああ……うん。ありがと」

 ノアから受け取り水を飲む。ふう、少しは落ち付いた。
 だけど多少落ち着いてもまだまだ僕の感情はごちゃごちゃだ。

「ま、まさか死ぬ前に自暴自棄に……?」

 アイが自分自身を賭けて戦いに明け暮れてた頃に言っておいたんだけどな。
 親に貰った体は大切にしなさい! ってさ。
 僕の熱意は何一つ伝わってなかったってことなんだろうか。
 うーん、さすがにこれはショックだ。あとでお説教かな。
 アイが現状どんな状況にあるのかは分からないけど……

「ひとまずアイに会わないと。ノアの鼻で居場所とか分からない?」

「も、申し訳御座いません。さすがにこれだけ人が多いとなるとアイさんだけの臭いを嗅ぎ分けるのは……」

「……いや、僕も無理言ってる自覚はあったから大丈夫。ごめんね」

 駄目だ。僕も冷静じゃないな。
 もう一度状況を整理しよう。

「そもそもアイは誰と戦うんだろう? 何で闘技場に?」

「……脅された可能性は?」

「いや、それだと普通に向こうが罪に問われるよ」

 決闘の無理強いは犯罪だ。
 つまりアイは自分の意思で同意したってことになる。
 なんなの? 実はアイって性欲強かったの? 旅の途中もムラムラしてたとか?

「あの、ご主人様」

 ノアが僕を見て口を開く。
 思わぬ真剣な声色に僕も立ち止まって彼女を見る。

「きっとアイさんには、何か理由があるはずです」

「何かって?」

「分かりません」

 えぇ……
 ノアの自信満々な態度に気圧される。
 分からないって言ってるだけなのに力強いね。
 僕としても信じたいけど……

「ですが! それはアイさんもきっと分かってると思うんです!」

 大きく室内に響いたノアの言葉。
 不思議とその声は僕の心を揺らした。
 なんか目が覚めた気がした。結局僕は仲間を信じてなかったんじゃないかって。

「……そうだね。ごめん、アイを信じないなんてどうかしてたよ」

 きっと彼女に何かあったんだろう。
 どうにもならない理由が……ここでアイを信じない僕が胸を張って仲間だと言えるだろうか?
 頬を叩いた。気合いを入れ直す。
 頬っぺたを腫らした僕を見てノアも嬉しそうに微笑んだ。

「はい、それに根拠もあります」

「根拠? なにそれ?」

「それは言えません」

 あの……ノアさっきからふわふわし過ぎてない?
 色々と伝わってこないんだけど。
 すると彼女は悪戯な笑みを浮かべる。

「いつかご主人様が気付いてあげてください」

 よく分からなかった。
 だけど根拠というほどでもないけど違和感はあった。
 あの子出会った当時にこそ自分のこと賭けてた癖に意外と初心なんだよね。性的な事に免疫がないというか。
 いや、ここはもうハッキリ言おうか。
 エリス曰く――アイの性知識は偏り過ぎている。
 僕が偶然その場にいなかった時の話なんだけど、ルーシャが悪ふざけで「子供の作り方も知らないんじゃないでしょうね?」って聞いたみたいなんだよね。
 そしたらアイは本当に”ほとんど何も”知らなかったらしい。
 さすがにルーシャも言葉を失っていたそうだ。
 一人で過ごすことが多かった幼少期故の結果なのか、孤独だった環境のせいなのか……
 その後、エリスの性教育で多少はまともになったみたいだけど。
 だからこそ自分を賭ける事の意味をアイも今は”正確”に理解しているはずなんだ。
 軽々しく体なんて賭けるだろうか?

「宿屋のお風呂で男女間違えた時に鼻血出したことありましたもんね」

「ああ、あったね……」

 宿屋でお風呂が付いてる所は珍しい。
 王宮とかなら大浴場とかあったんだけど、平民の泊まる宿にお風呂があることは稀だ。
 泊まった時に珍しい浴場に興奮してたんだけど、アイは慣れてなかったんだろう。
 男女間違えて入ってきちゃったんだよね。
 幸い、かどうかは分からないけど僕しかいなかった。
 でもアイの起伏のある体を見ちゃったからね。あの時は平謝りしてなんとか許してもらったな。その最中もずっと顔を林檎のように真っ赤にしていた。
 言っちゃえばアイは無垢なんだ。普段の言動で忘れそうになるけどちょっぴり無邪気で腕白な女の子。
 まさか本当に脅されたんじゃないだろうな……信憑性が増してきた気がする。
 そこでノアが何かに気付いたように小さく「あ」と声を出す。

「あの、まさかとは思うんですが……」

「ん?」

「ひょっとしてアイさん――――――――――とか?」

 ノアの推理を聞いて僕も考え込む。
 確かに破綻はしていない。そうなった経緯は未だに謎だけど論理的な気がする。
 というか――

「……ありそう」

 しっくりきた。言われてみればそれ以外にない気もする。
 僕はノアの名推理に嘆息するしかなかった。





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