上 下
28 / 39

第28話 死の未来

しおりを挟む





 頭部を砕かれた、魔族の死体。
 レベルが上がったようで少しだけ体が軽くなった。
 カルラの死体がゆっくりと黒い霧状に変化していく。それに背を向けた。
 いつかこの世界で教わったことを思い出す。
 人を殺したか否かが戦闘においては絶対的な優劣を決する、か。
 それでもこの男の死に僕の心が動くことはなかった。今はまだ……だけど。

「…………」

 目の周りを腫らしたリリアに笑いかける。
 激痛が走った。
 血を流し過ぎた。致命傷ではない……と思うけど、このままでは出血多量で死ぬんじゃないかってくらいの大怪我。
 だけど、いつものようにへらへらと笑った。
 僕は大丈夫だぞ、って。

「ユウト様……」

「ぶっ飛ばしてきた」

 青黒い血の付着した拳を突き出した。
 ぶっ飛ばしたというにはちょっと過激な感じだけど。
 それでも約束を守れたことに安堵する。
 僕がリリアに言葉をかけようとする。
 いつもみたいに気楽に……

「痛っ……」

 傷が多過ぎて治癒が追いついていない。
 初めて人殺しをした反動もやってきた。
 【魅了】によって抑えていた精神的な苦痛が込み上がってくる。
 逆流しそうになる胃液を無理矢理呑み込んだ。
 と、そこでセラさんが呻いた。
 どうやら意識が戻ったらしい。
 怖い人だけど、セラさんが無事だったことを今は素直に喜ぶ。
 何かに気付いたようにこちらを視界に映して大きく目を見開いた。

「セラさん……倒しましたよ」

 ふらふらな状態で手を振った。
 けど、セラさんの言葉は無事を喜ぶものでも、僕の有様を心配するものでもなかった。

「逃げろッ!!」

 険しい表情で叫んだセラさん。
 瞬間、カチャリ――と。
 先ほど倒したはずの魔族の方から音が聞こえた。

「え?」

 振り返る。
 男の肩に乗っていた西洋人形だった。
 咄嗟に【神眼】を使用した。


――――――――


 カムチャ(人形族)

 66歳

 Lv11

 生命 10
 
 攻撃 0

 防御 30

 魔力 400

 俊敏 0

 幸運 0

 スキル【念動】


―――――――



 短剣を操っていたのはあの魔族じゃなかった。
 人形はケタケタと耳障りな嗤い声を発する。
 あの人形は生きていた。その事実を理解した瞬間――主を失ったはずのグングニルがゆっくりと浮遊した。

「――――ッ!」

 魔槍が浮遊した瞬間、集中力が極限まで研ぎ澄まされる。
 世界がスローになると同時に、思考が今までにない速度で回転する。
 避けきれないと判断した僕は人形に【魅了】を使用した。
 精神の深層をコントロールするスキル。
 僕を狙うことをやめさせる。

 だけど――失敗した。

 あの人形……もしかして【魅了】が効かないのか!?
 いや、今更考察しても意味はない。
 何を考えたところで、遅い……遅すぎる。
 グングニルがこちらを向いたと同時にセラさんが駆け出していた。
 無理だ……今はダメージを負っている。
 それに、間に合ったところでこの音速のような魔槍をどう防ぐ?
 手元には武器さえもない。
 絶対に不可能だ。
 僕は理解した――無理だ。
 ここまで状況が揃ってしまえば、もう……

 魔槍グングニルは僕へと狙いを定め――その瞬間、僕は死の未来がやってきたことを悟った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆本編完結◆ ◆小説家になろう様でも、公開中◆

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...