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第13話 強欲

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 時は少し遡る。
 リリアが魔族だと分かる数時間前。
 召喚された勇者の少女たちと自己紹介をするよりも前。
 僕が石を砕いてレベルを上げた直後のことだ。

 一つだけ願いを叶えてくれる人がいるとする。
 その人にその一つの願いで願い事ができる数を増やしてくれと頼んだとしよう。
 果たしてその人は願い事の数を増やすことを許容してくれるだろうか?
 おそらくしない。
 それどころか怒りを買うこともあるかもしれない。

 【???】になっていた神様の善意。
 なんでも好きなスキルを創り出す力を僕は最初に考えた。
 だけど――
 あの楽しいことが大好きな神様が果たしてそんなつまらないことを許すだろうか?

「賭けの続き、みたいな感じかな?」

 さあ、お前ならどうする? と。
 そう言って笑う神様の姿が見えた気がした。

 そして、僕の予感は正しかった。
 【???】の設定を念じた瞬間神様からのメッセージが現れた。

『さぁて、2回戦だ。また面白い結果を見せてくれることを願ってるぜ?』

『お前はおそらくこう考えるだろう。スキルを好きなだけ創り出せるスキルを設定することは出来ないか? とな』

『その考えは正しい。というよりそれに思い至らなかった場合はこのメッセージは聞くことは出来ない。これを聞いてるってことはつまりそういうことだってわけだ』

 なるほど、と思いながらも僕は苦笑いをした。
 もしこれピンチの時とかに設定しようとしたらどうなったんだろう。
 わざわざ切羽詰まってるときにこんな長いメッセージを聞かせるつもりだったのか?

『とかお前は考えてそうだな。それに関してはお前がそこまで馬鹿じゃないと思ったからだ。ある意味信用したってことだな』

 ……確かに好きに設定できる力をわざわざピンチまで残しておくメリットは薄い。
 例えばRPGで好きな力を設定できるとしよう。
 それをラスボス戦まで残しておくのは果たして賢いか? 否だ。
 わざわざそんな局所的な場面で使うくらいなら初めから自分の経験値を増やせる力を選ぶ。
 そのほうが道中の戦闘は楽になるし、ラスボス戦でも高いレベルで挑むことができる。
 ゲームならそうなんだろう。
 だけどこの世界は現実だ。
 しかし――ファンタジーの世界でもある。
 それならその理屈も通用するだろう。
 というかおまけの【???】は、善意というよりかは、負けたままは癪だっただけって思えてきた。
 神様らしいといえばらしいけどさ。
 そう呆れていると続きが聞こえてくる。

『さて、ここで3択だ。スキルを増やすことのできるスキルを3つ表示する。その中には存在しないスキルが入ってる』

 なるほど。その中から選べってことか。

『この勝負、受けるか? ああ、受けなかった場合にもこの権利の消滅はしない。だがスキルを増やせるスキルは選べなくなるがな。ちなみに外した場合は権利消滅だ』

 少しだけ考え込む。
 この権利……別に受けなくても問題ないんだよね。
 それにスキルを増やせなくてもこの設定できる力は強力だし……

『ああ、でも負けるのが怖いなら弱い力を選んで悦に浸ってればいいと思うぜ?』

 いつか僕が賭けの時に言った言葉だった。
 神様らしいな。
 そんな挑発に乗るとでも?

「乗っちゃうんだなこれが」

 受けることを選ぶと再びメッセージが流れる。

『くはははっ、そうこなくっちゃな! じゃあいくぜ?』

 そして、表示されたのは、この3つだった。

――――――――


 1、【技能創造】
 スキルを好きなだけ創り出せる力。上限は存在しない。


 2、【全能者】
 どんなスキルでも後天的に取得できるようになる。取得の際の条件も緩和される。


 3、【改変】
 スキルを改変することができる。


――――――――

「ふむ……」

 僕は考える。
 時間制限はないんだ。遠慮なく思考に時間を使えた。
 そうして、考えて、考えて――

「え、無理じゃない?」

 という結論に至った。
 これってどれを選ぶかの根拠ないよね?
 ヒントがない。
 何かしらのメッセージが聞こえてくるかとも思ったがそんな様子もない。
 頭の中に出てくるこの3択だけが浮かんでいる状態。
 さすがにノーヒントは無理があった。

「まさか本当に運任せ……って、そんなわけないよね」

 楽な方へと流れかけた思考を振り払った。
 理屈以上にあの楽しいことが大好きな悪戯っ子の神様がそんな運だけのゲームを選ぶとは思えない。
 こういう時は難しく考えすぎないことが大切だ。原点に立ち返るためにもルール確認をする。

「すいません、もう一度ルール説明してくれませんか?」

 それは大丈夫だったらしい。
 もう一度神様の声が聞こえてくる。

『なんだあ? 忘れちまったのか? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』

「もう一度お願いします」

『ああ? こんな簡単なことも覚えられないのか? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』

「もう一度」

『おいおい、大丈夫か? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』

「……もう一度」

『はあ……ほんとに大丈夫か? よ~く聞けよ? この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』

 なるほどなるほど……
 最初は分からなかったけど、何度も聞くうちに確信に至る。
 ここまで来たら間違いないだろう。

「……性格悪っ!」

 僕は神様のあまりの性悪っぷりに戦慄した。
 このメッセージはおそらく録音だ。
 今までのやり取りからもそれは分かる。
 僕の考えに答えるでもなく、神様は予め設定しておいた言葉を聞かせている。
 だけど……
 僕のもう一度ルールを確認させてくれという言葉への返事には違和感があった。

『なんだあ? 忘れちまったのか? よ~く聞けよ?』

『ああ? こんな簡単なことも覚えられないのか? よ~く聞けよ?』

『おいおい、大丈夫か? よ~く聞けよ?』

『はあ……ほんとに大丈夫か? よ~く聞けよ?』

 前半部分は全て違う言葉だ。
 しかし、『よ~く聞けよ?』から続く言葉は全て同じ。一言一句変わらない。
 だったら何か理由があるはずだ。
 録音なのに、前半だけを変える理由。後半だけをまったく同じ言葉にする理由。
 そこに拘る意味。例えば――この3択に関してのルールの中でもその言葉だけは変えちゃいけないから、とか。

『この3択の中には存在しないスキルが入ってる。好きなスキルを選べ。それが存在するスキルだったならそのスキルを与える』

 何度も聞けばこの台詞にはいくつか気になる個所が出てくる。
 まずこの3択の中には存在しないスキルが入ってる。
 なのに存在しないスキルと存在するスキルの数を明確にしていない。
 そして、メッセージの再生が始まってから今に至るまでの間。


 神様は一度も3択の中のスキルについて触れていないのだ。


 僕がスキルを貰えるのは『それが存在するスキルだったなら』だ。
 つまり――

「この3択の中に存在するスキルはない……ですよね?」

 聞くだけはタダだ。
 リスクはない。
 だけど、僕の予感は当たっていたらしい。
 再びメッセ―ジが聞こえてきた。

『うはははは! やっぱ面白い奴だな佐山悠斗! その通りだ! 大正解!』

「いやいや、選んだらその時点で負けって性格悪すぎでしょ……」

『ああ、悪い悪い。俺も負けっぱなしは癪だったからな。ちょっと意地悪してやりたくなったのさ』

 また負けちまったけどな! と言ってまた愉快そうに神様が笑った。

「ん? これ録音ですよね?」

『いや? お前が回答した後に関しては違うぜ? 生音声だ。ともかく正解おめでとう、と言わせてもらおうか』

「あれ? もうゲームはいいんですか?」

『さすがに難しいと思ってたからな。これに辿り着けたら無条件で俺が選んだスキルを与えると決めてたんだ』

 ああ、そうなの?
 確かにここからもう一度選べと言われても疑心暗鬼で選べないと思うけどさ。

『俺が与えるスキルは、これだ。欲張りなお前にはぴったりのスキルだぜ?』

 これが僕が【強欲】を取得した経緯であり、その理由でもある。
 神様ほんとに性格悪過ぎますって……
 僕の呆れたような苦笑いにも神様は機嫌良さそうに笑っていた。





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