15 / 16
昼河柚黄のお話。
6
しおりを挟む僕とソレを隔てるように、女子高生は立っていた。
彼女の言葉が、僕に向けられた言葉ではないと知る。
視線は、顔は、『ソレ』に向いていた。
(……なんだ、あれ……)
人の手が、足が、頭が、胴体が。
バラバラにされて、ぐちゃぐちゃに混ぜられて、一つの生き物にされたような。
そんな化け物が、そこにはいた。
姿形としては、巨大な蜘蛛のようだ。
「私のメインディッシュ、奪いましたね? 返してくださいよう」
女子高生は、手を差し出す。
彼女のいう『メインディッシュ』が何のことかは、検討もつかないし、考えたくもない。
化け物はそこから動かなかった。
逃げもしないが、襲い掛かっても来ない。
その巨体で暴れられたら、僕はおろか、女子高生だってひとたまりもないように思えるが、そうはしなかった。
それどころか、怯えるように。
化け物は、女子高生の動向をうかがっている。
「ああ、お兄さんをどうしても食べたい、と」
「ぼ、僕?」
「いやだとしてもですね、私のメインディッシュは『私の』です。そこは譲れません」
僕は食べられるなんてごめんだ、という暇もなく。
彼女は言葉をつづける。
「横取りした分、貴方には代償を払っていただきたい。そうじゃないなら、そうですね。弁償が必要でしょう?」
にこり。
女子高生が、こちらに微笑んだ。
……うん?
もしかして、僕を?
「ねえ、お兄さん」
頷けなかった。
彼女の口の周りについた臓物とか。
えげつない量の血液とか。
手にした、フォークとナイフとか。
そういうものが、あらゆる想像を掻き立ててしまって。
ぐ、と体を起こして、立ち上がろうとしたが、僕は情けなく地面に崩れ落ちた。
腰が抜けてしまったようだ。
「たす、けて……たすけて……助けてぇ……!」
自分の口から、言葉が漏れる。
「……死にたく、ない……!」
手と、足で。
なんとか、這うように。
地面を進む。
──ざくっ。
「うぐッ!」
「お話はまだ終わってません。ごはんは、動かないように」
ごはんっていった! 今!
「どうします、貴方。その娘の魂を返すか、あるいは別の者を寄越すか。それすら拒絶するか。三つ、選択肢をあげますけど」
女子高生は容赦なく僕の手を地面にとめるように、ナイフを突き刺した。
ずき。ずき。ずき。
痛い。じわじわと赤いものがあふれてくる。
たったこれだけの痛みで、もはや僕の体などは動かない。
化け物から声は聞こえてこないが、どうやら女子高生と別の次元で会話をしているようだ。
女子高生は先ほどから「ふむふむ」と頷いている。
「ええ~、そんなことになります? あー、まあ、なくはないですけどお」
僕のことは放置である。
「うん、うん……むう。それじゃあ、まあ、仕方ないですかねえ」
何か一つの結論を導き出したのだろうか。
双方、合意するようにうなずいた。……ように見えた。
そうして。
「それじゃ、こっちはいただきますね」
──ぶすっ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる