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023:皮なめし

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 翌日。私はシエラを何処かに預けようかと迷った。さすがに道具作りを見ているだけは暇だろうと思ったからだ。冒険者ギルドでベビーシッターみたいなのを雇おうかとさえ思った。

 だが、その話を女将にすると「食堂で預かろうか?」と言ってくれた。

「良いんですか?」
「あぁ。配膳や野菜を洗うぐらいは出来るんだろ?」

 というので、これも自立への一歩だと了承した。

「オバちゃんの言うことを良く聞いて頑張るんだよ?」
「うん!」

 少し不安そうだったが、それでも素直に頷いてくれるシエラの頭を撫でて、少し英気を養ってから、私はそのまま師匠の工房へ向かった。少し遅れてしまったな。

 工房の外では師匠が兄弟子とともに待っていた。

「すみません。お待たせしました」
「あぁ。それじゃあ、さっそく皮のなめしをしようか」

 私は元気よく「はい!」と頷く。

「リーオル。復習を兼ねて君がリサに教えてみなさい」
「はい。師匠!」

 まずは昨日の予習の成果を試された。

「皮なめしには大別すると二つの種類がありますが何と言うでしょうか?」
「はい。なめし液を自分で作ってなめす『湿式』と薬品を刷り込んでなめす『乾式』です」

 リーオル頷く。

「正解です。どちらも良いところと悪い所があります。今回は乾式でやりたいと思います。薬品は用意してあるので、そちらを使います」

 そこで師匠が補足してくれた。

「自分で作る湿式の方も後日教えますね」
「はい!」

 皮なめしが始まった。リーオルが手本を見せながら、私はその隣で真似をしていく。

「まずは毛皮を洗います。水を張った桶に毛皮を沈めてセンザルの実で洗うのですが、その前に数回濯いで汚れを落としておくと良いです」

 パシャパシャと水を使う。

「次にセンザルの実を入れて、足で踏んでもみ洗いをします。ムニュムニュとして滑るので転ばないように注意して下さい」

 ホントだ。足にムニュムニュとした感触が伝わってくる。

「洗浄後は数回……そうですね三、四回ほどよく濯ぎ、絞って脱水します。ただ他にも作業があるので絞りは軽くでいいです」

 おっ。この絞りの工程は筋力が鍛えられるな。ぎゅっぎゅっとやっているとリーオルに「軽くでいいですからね」と注意された。

「それでは次の工程です。毛皮の裏の肉や脂肪をナイフで削ぎ落としていきます」

 ナイフが脂分で切れ味が悪くなっていく。けっこう大変だ。でもこれも修行だ。がんばろう。早朝から始めた作業だが、この時点でだいぶ日が高くなっていた。あと数時間ほどで昼だ。

「綺麗に余分な物を除去した後は、しっかりと絞り水分を取ります」

 ぎゅっぎゅっとな。

「この後は天日で干します。この時ですが毛の方を上にします。水が滴るようなら、こまめに絞って下さい。干すときの注意点ですが完全には乾かさないように気をつける必要があります。慣れるまでは、こまめに確認してください」

 幸いにと言うか、水が滴ることがなかったので、そのまま干すことに。そこで師匠が「さて。乾くまで時間がありますので少し早いですが昼食にしましょう」と言ったので私たちは頷く。昼食は近くの屋台で摂るのだという。師匠が「今日は奢りです」というので、ありがたくご相伴にあずかることに。

 早めに昼食を摂って休憩をしつつ、毛皮の確認もする。

 毛皮がいい感じに乾いたのは、お昼を少し過ぎた頃だった。そこから薬品を毛皮に刷り込む作業工程だ。薬品は今回は師匠が専門の業者から買った物を使う。

「後で業者は紹介します」
「はい」

 薬品を皮の内側に手のひらでよく擦り込む。皮に水分が少ないと感じたときは水を手につけて、ぱっぱっとやれば良いそうだ。

「さて、この後はおよそ十五日ほど建物内で管理します。薬剤をなじませる時間です。途中で流れ出てきた薬剤を拭いて絞る工程がありますが、それはおいおい。とりあえず残り三枚の毛皮を同様の工程まで持っていきましょう」

 師匠の指示の元、もう三回を私一人で熟していく。ってかな。これってすっごい大変だ。モノ作りの大変さを私は舐めていた事を実感したのだった。
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