生産職がやりたい令嬢は家出する

新川キナ

文字の大きさ
上 下
22 / 53

022:鍛錬と勉強

しおりを挟む
 いったん宿に帰って、それから冒険者ギルドへ向かうのだが、途中の屋台で軽食を摂った。この後に訓練があって夕方までやる予定だからね。

 冒険者ギルドには訓練場があって一日中開放されている。そこにはすでにジンが来ていた。

「ジン」
「やぁ。さっきぶり。師匠には会えた?」
「忙しそうだったから兄弟子に言伝を頼んだよ。夕方には顔を出すでしょ」
「わかった。じゃあ模擬試合からしない?」
「えぇ。ぜひ」

 私達が打ち合わせをしているとシエラが私の服の裾を掴んで言った。

「シエラはぁ?」
「うん。シエラは少しのあいだ見ててね。観るのも稽古だからね」
「わかったぁ」

 私が訓練場にある木の棒を構え、ジンが木剣を構えて模擬試合を開始した。最初はお互い様子見。それから少しずつスピードを上げていった。技と技の応酬。久しぶりの感覚に私は楽しくて、ついつい力が入る。そこにジンが隙を見つけて打ち込んできたところで私の負けで模擬試合は終了した。

「残念。負けちゃった」
「あはは。力が入っちゃったみたいだね」
「楽しくてつい……」
「そうだね。俺も久しぶりの対人戦で楽しかったよ」
「くぅ。悔しい!」
「また、やろう」
「うん!」

 さて、いつまでも私達ばかり鍛錬はしてられない。シエラも退屈だろう。

「シエラぁ。訓練しよっかぁ」
「うん!」

 こうしてシエラも交えて筋肉を鍛え始めた。ちなみに精霊のケダマは丸まって寝ていただけだ。当然と言えば当然だが……見た目が猫なので実にらしいなと思った。





 訓練を終えた私達は酒場へと移動。ちなみに食事がメインの健全な酒場だ。そこで夕食を摂りながら今後の事を話した。

「ジンはこれからどうするの? ちなみに私はしばらく師匠の下で魔道具作りの勉強をしよと思ってるけど?」
「俺は護衛の仕事をしようと思ってるよ」
「おぉ! 護衛。ミスったときの罰則がきついのに大丈夫?」
「あぁ。命をかけて依頼人を守る仕事だ。やりがいがあるな。でもリサだってやってるだろ?」
「私?」
「シエラを護衛してながら冒険してる。同じことだよ」
「あぁ、なるほど。確かに、そうかも。でも気をつけてね?」
「ありがとう」

 隣ではシエラがモキュモキュと煮物を食べている。

「美味しい?」

 シエラがコクリと頷いた。

「でもニンジンも食べなきゃ駄目だよ?」

 するとシエラの眉間にシワが寄った。嫌いなのだろう。わかりやすいな。

「今すぐに食べれるようになれとは言わないけど、少しずつでいいから食べてね?」

 コクリと頷くシエラだったが、私の皿にニンジンを移動してきた。

「一切れは食べなさい」

 そう言って小さな一切れだけ返す。するとシエラが口を尖らせた。その様子を見ていたジンが笑う。

 何かこういう時間って良いなと私は思った。





 食事を終えてジンと別れた後、私はシエラを連れて宿へと帰ってきた。一階の酒場ではいつものように男どもが飲んだくれている。その中にボル師匠が居た。

「師匠」
「うん? あぁリサ。帰ってきたのか」
「すみません。待たせましたか?」
「いや。今さっき来たところだ。それで作業を次の段階に進めたいということだったね」
「はい!」
「噛みつき角ウサギの毛皮は何枚ある?」
「五枚です」
「うん。布団を一式作るにはちょっと足りないかな。まぁいいや。とりあえず枕を作ろう。皮の鞣し方からだね」

 そう言って三冊の本を渡された。

「これを読み込んでおいてくれ。手順書だ。鞣し方と虫除けの加工の仕方に縫い方の本だ。とりあえず鞣し方だけでも読んでおいてね。明日の朝一でそれを教えるよ」
「はい!」

 よし。なら今日はこの後は本を読む時間だな。ちなみにシエラは眠そうだ。私は彼女を抱き上げる。

「リィサぁ……」
「はいはい。もう今日は寝ようね?」
「うん」

 私は師匠に「それじゃあ読んできます」と告げて二階へと上がった。ベッドにシエラを寝かせて私は暗くなり始めた部屋のランプに明かりを灯し本を読み始める。





 本を読んでいると、鞣し自体にも虫除けの効果があることが分かった。でもそれをさらに強力にしたのが二冊目の本に書いてある虫除けの方法だ。これは人体には無害な除虫剤の作り方の方法でもある。色々と応用が効きそうだ。これらもいずれは書き写さなきゃな。

 私は明日に備えて、とりあえず毛皮の鞣し方の手順や鞣しに使う薬品の作り方から熟読するのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...