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016:野営の準備

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 噛みつき角ウサギの狩りは問題なく進んだ。おかげで合計四匹を狩ることができた。大収穫だ。狩りそのものより解体のほうが時間がかかったぐらいだ。

 ちなみに解体した後の要らない部位。肉や骨や内臓は穴をほって埋めるのだが、そこでシエラの魔法が役に立った。シエラ自身が使う魔法は生活ぐらいにしか使えないが、それでも便利だ。本人も役に立てたことが嬉しいようで積極的に関わってくれる。

 ちなみに精霊魔法と魔法は似ているようで違う。精霊魔法はシエラがケダマにお願いしてケダマが使う。魔法はシエラ自身が使っている。精霊魔法の方は威力がデカい分、魔力の燃費が悪いのだそうだ。なので普段は魔法を使わせているとのことだ。ケダマ談ね。シエラに聞いても不思議そうな顔をされただけだった。

 狩りが終わり、野営の準備をする。今日は狩りもそうだが、野営の訓練も兼ねているのだ。そこでもシエラの魔法が役に立った。

 私が火起こしに苦労していたら「火よ。灯火よ。我に温もりを与えたまえ」と呪文を唱えのだ。普段は若干舌っ足らずで喋るのに、こういう時は正確に喋る。きっと彼女の祖父の指導のたまものだろう。

 その後。お湯のための水もシエラが出した。もう彼女なしでは野営が出来ないまである。

 夕食の携帯食は、お湯に入れてふやかして食べた。うん。美味しくないね。知ってた。とりあえず栄養とお腹が満たされるだけの食事をして寝ることに。ここは平原の中にわずかに生えている林と茂みがある場所だ。近くに森もある。

 夜の見張り番は私が一人でやることになるだろう。一日ぐらい寝なくても大丈夫だろうと、そう思っていた。

 深夜。薪がパチパチと燃え、時折り風が吹き抜けて、葉がサラサラと鳴る音を聞いていると……眠くなって……

「敵だ!」

 ビクッと目が覚める。やべ。寝てた。ケダマの声に私は足元に置いてあった木の棒を持って立ち上がり、周囲を見回すと私の背後にいた魔物と目があった。

「……オーク」

 イノシシ頭で体には筋肉と脂肪がどっしりとのった二足歩行の魔物だ。身長は私と同じぐらいの一メートルと六〇センチといったところか。魔物図鑑に載っていたオークの平均的な身長そのものだ。それでも肉厚な分。威圧感がある。

 木の棒に魔力を纏《まと》わせて、戦闘準備は完了。でも……勝てるだろうか?

 オークは武器は持っていないが、掴まれたら押し倒されて凌辱の限りを尽くされるだろう。それは凄く嫌だ。

 私は木の棒を振りかぶりフルスイング。って噛みつき角ウサギの時もやったな。一応これでもちゃんと棒術は使えるのよ?

 でも魔物が相手の場合は小手先の攻撃よりこっちの方がダメージが大きいと教わっているからそうしているだけで……

 フルスイングした木の棒はオークの出っ張った腹に「ずどおおおおおん」とクリーンヒット。オークが「ぶもぉおおお!」と後退り、悲鳴を上げて痛がるが、たいしてダメージを負っていないようにみえる。分厚い肉の壁にダメージが吸収されてしまったようだ。

 こうなると少々まずい。私の最大威力の攻撃は効かないらしい。

「ならば!」

 オークがノシノシと迫ってきた。私はそれを余裕を持って避けてから、オークの左の膝を横からフルスイングで打ち抜いた。するとミシミシと膝が鳴った。

 オークが悲鳴を上げてうずくまる。が、私にはこれ以上の攻撃手段がない。

「オークが倒せないんだけど?」

 ちょっとこれは困った。いちおう木の棒をオークの頭に振り下ろしまくるが、何だか折檻している気分になってくる。そして倒せる気がしない。

 そこに男性の声で「あのぉ……手を貸そうか?」と聞かれた。

 顔を上げると、すぐそこに私より少し背の高い男性がいた。

 いや青年というべきか? 年齢を言えば十五、六歳ぐらい。

 肌がこの辺の人には珍しい黄色味を帯びている。黒髪で黒の瞳。その懐かしさにちょっと見惚れてしまった。

 するとオークがこれ幸いにと飛び起きて逃げ出そうとした。ただ逃げ出した先が青年の居る場所だ。私が「危ない!」と警告するのとほぼ同時。青年が剣を横に滑らせて薙ぐのがほぼ同時だった。
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