17 / 36
アイウス編
六本目『影から移る者』②
しおりを挟む
影の中は死体処理場の中に居る様な臭いが充満し、粘性のある泥の中の様に身動きが取れない。そんな中、クラヴィスだけは縦横無尽に動き、セオドシアをダーツの様に飛び交い、痛め付けていく。
このままでは、飽きるまで遊ばれて殺される。だと言うのに、彼女の表情からは焦りは感じられない。
「馬鹿だなぁ……私が君を影の中に行くよう誘導したのさ……この子を使う為にね……」
そう言ってセオドシアはアタッシュケースを開き、血液を注ぐ。
「来いッ!! 『潜みし牙を持つ者』!!」
そう叫ぶと、ケースから青白い炎を灯された骸骨のファリスが飛び出し、クラヴィスの胸を引き裂く。
「グォアァァァァァッ!?」
堪らず退いて体勢を立て直そうとするが、この泥沼の様な影の中を、ファリスは問題なく泳ぎ、その腿に喰らい付き、血が影の中で毛糸を浮かべた様になって走る。
「朔日から今日に至るまで、君達の事をどうやったら痛みを与えられるか調べ尽くしてきた……影の中がどんなものかも知っている……まぁ、道すがらファリスを手に入れたのは、よかったよかったと言うところかな」
ファリスの牙を伝って、怨念の炎はクラヴィスの中へと侵入していく。
その痛みは、体液を全て濃硫酸に変えられた様なものであり、クラヴィスは泡を吹き出し、宙に向かって踠き始める。
「グガガガガッ!!」
「イヒッ!! 自分のテリトリーで溺れる気分はどうだ~い? ……っと、いけね……このままでは影に取り残されてしまうな……」
セオドシアは溺れるクラヴィスに先程刺した時にも使った骨を突き刺し、再び螺旋状になって影の中から抜け出した。
「グギ……ギ……」
影の外へ出ると、クラヴィスは痛みに耐えかね、肉体を手放し、中から青白い光が浮かび上がる。
「……私の勝ちだ、夜明けの世界でまた会おう」
そう言って光を吸収し、改めて周りを見渡す。
建物を茨で修復した形跡はあるが、二人の姿が見えない……どうやら、潜ってる間に何処かへ移動したらしい。
「やれやれ、面倒だな……」
文句を垂れつつ、セオドシアは二人の元へと向かおうと歩を進める。
が、二、三歩進んだ所で、彼女はピタリとその場に止まる。
「あの野郎……そういう事か……」
セオドシアは、面白くないという様な顔をし、クラヴィスの魂の抜けた肉体へと戻っていった……。
◆◆◆
一方、セオドシアが影から抜け出したのと同時刻。クラヴィスは破壊活動をピタリと止める。
「何だ……?」
「油断するなデクスター、何か様子が変だ……」
すると次の瞬間、クラヴィスは羽を羽ばたかせ、衝撃波を生み出すと、砂埃を伴ってデクスターを吹き飛ばす。
「うわぁっ!?」
「デクスター!!」
パジェットが何とか受け止め事なきを得るが、その間にクラヴィスは巻き上がった砂埃で出来た影の中に潜り、逃走を許してしまう。
「しまった!? 僕のせいで……!?」
「よせ、深追いする必要は無い……それにしても、あの様子……セオドシアの方で何かあったか?兎に角、一旦戻って……」
彼女がそう呟くと、路地裏から何者かが近付いてくるのを察知する。
敵襲かと思い身構えるが、白いローブがチラリと見えて、セオドシアである事がわかった。
「セオドシア!!よかった、無事───」
路地裏から完全にその姿を露にすると、デクスターの表情は安堵から驚愕のものへと変わる。よく見ると、セオドシアは葡萄酒を頭から被った様に出血しており、白いローブを上から下へ滾々と流れる血で染めていた。
「ッ!? セオドシア、それッ……!!」
「ごめん、ドジ踏んじゃっ……た……」
彼女はそう言って左右に二足三足蹌踉めくと、
滴る血の重みに倒れるかのようにばったりと地に倒れ、意識を手放してしまうのだった……。
このままでは、飽きるまで遊ばれて殺される。だと言うのに、彼女の表情からは焦りは感じられない。
「馬鹿だなぁ……私が君を影の中に行くよう誘導したのさ……この子を使う為にね……」
そう言ってセオドシアはアタッシュケースを開き、血液を注ぐ。
「来いッ!! 『潜みし牙を持つ者』!!」
そう叫ぶと、ケースから青白い炎を灯された骸骨のファリスが飛び出し、クラヴィスの胸を引き裂く。
「グォアァァァァァッ!?」
堪らず退いて体勢を立て直そうとするが、この泥沼の様な影の中を、ファリスは問題なく泳ぎ、その腿に喰らい付き、血が影の中で毛糸を浮かべた様になって走る。
「朔日から今日に至るまで、君達の事をどうやったら痛みを与えられるか調べ尽くしてきた……影の中がどんなものかも知っている……まぁ、道すがらファリスを手に入れたのは、よかったよかったと言うところかな」
ファリスの牙を伝って、怨念の炎はクラヴィスの中へと侵入していく。
その痛みは、体液を全て濃硫酸に変えられた様なものであり、クラヴィスは泡を吹き出し、宙に向かって踠き始める。
「グガガガガッ!!」
「イヒッ!! 自分のテリトリーで溺れる気分はどうだ~い? ……っと、いけね……このままでは影に取り残されてしまうな……」
セオドシアは溺れるクラヴィスに先程刺した時にも使った骨を突き刺し、再び螺旋状になって影の中から抜け出した。
「グギ……ギ……」
影の外へ出ると、クラヴィスは痛みに耐えかね、肉体を手放し、中から青白い光が浮かび上がる。
「……私の勝ちだ、夜明けの世界でまた会おう」
そう言って光を吸収し、改めて周りを見渡す。
建物を茨で修復した形跡はあるが、二人の姿が見えない……どうやら、潜ってる間に何処かへ移動したらしい。
「やれやれ、面倒だな……」
文句を垂れつつ、セオドシアは二人の元へと向かおうと歩を進める。
が、二、三歩進んだ所で、彼女はピタリとその場に止まる。
「あの野郎……そういう事か……」
セオドシアは、面白くないという様な顔をし、クラヴィスの魂の抜けた肉体へと戻っていった……。
◆◆◆
一方、セオドシアが影から抜け出したのと同時刻。クラヴィスは破壊活動をピタリと止める。
「何だ……?」
「油断するなデクスター、何か様子が変だ……」
すると次の瞬間、クラヴィスは羽を羽ばたかせ、衝撃波を生み出すと、砂埃を伴ってデクスターを吹き飛ばす。
「うわぁっ!?」
「デクスター!!」
パジェットが何とか受け止め事なきを得るが、その間にクラヴィスは巻き上がった砂埃で出来た影の中に潜り、逃走を許してしまう。
「しまった!? 僕のせいで……!?」
「よせ、深追いする必要は無い……それにしても、あの様子……セオドシアの方で何かあったか?兎に角、一旦戻って……」
彼女がそう呟くと、路地裏から何者かが近付いてくるのを察知する。
敵襲かと思い身構えるが、白いローブがチラリと見えて、セオドシアである事がわかった。
「セオドシア!!よかった、無事───」
路地裏から完全にその姿を露にすると、デクスターの表情は安堵から驚愕のものへと変わる。よく見ると、セオドシアは葡萄酒を頭から被った様に出血しており、白いローブを上から下へ滾々と流れる血で染めていた。
「ッ!? セオドシア、それッ……!!」
「ごめん、ドジ踏んじゃっ……た……」
彼女はそう言って左右に二足三足蹌踉めくと、
滴る血の重みに倒れるかのようにばったりと地に倒れ、意識を手放してしまうのだった……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる