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39.勘違いなんかじゃない
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夕里の片手が頭の後ろを押さえていて、唇と舌の猛攻から逃げられない。またもや初心者にはハイレベルなキスをお見舞いされ、混乱したまま柊の腰がガクッと抜けた。
難なく体重を支えた夕里が、柊を横抱きにする。展開について行けないし、こっちは軟体動物のようにふにゃふにゃになっているから成すすべもない。
「この人は、俺の……くそ!俺が一番最初に見つけたんです!」
「あはは、締まらねぇな~ユリ」
夕里が誰かに向かって宣言し、友人だろうか?からかうような野次が飛んでくる。彼はそのまま移動し、バーカウンターで柊を座らせ支払いを済ませた。
バーテンやさっき話していた人たちが口々に「お幸せに」と声を掛けてくるのがいたたまれない。顔に熱がのぼって、アルコールもまた回ってきた気がする。
なんで最後にお酒頼んじゃったんだろう……僕のばか。
「立てますか?」
「う、うん……」
さすがにお姫様抱っこで外に出るつもりはないみたいだ。柊はふらふらする脚をなんとか動かし、夕里に支えられながら店を出る。途端にざわめきが遠のき、夜の静けさに包まれる。
夕里はキューンと効果音をつけたくなるほど眉を下げ、なんともしょんぼりした顔でこちらを上目遣いに見つめてくる。
「ごめんなさい。俺また暴走しちゃって、みんなの前で……嫌でしたよね」
「えっいや?びっくりしたけど……その……嬉しかったっていうか……き、気持ちよくて訳わかんなくて」
耳に残響が残ってぼやぼやする中で、しかししっかりと夕里の声は聞こえた。
また馬鹿正直に、言わなくてもいい言葉まで口からこぼれていく。彼の行動に「もしかして」と舞い上がって。気持ちいいとか事実だけど、ほんとうに恥ずかしい。
夕里が視線を落としていた柊のあごを指先で持ち上げる。そのまま視線も上がって、ジトっとこちらを見つめる目と目が合った。
「柊さん……俺、勘違いしますよ?さっきの男も言ってたように、その他大勢の男と一緒ですか?そんないい匂い撒き散らして……勘違いさせられてます?」
「勘違いじゃない!ぼく、ぼくは……ゆりくんのことが」
「あー!ストップ!待って、俺から言わせて」
自分の夕里に対する気持ち。ずっと名前をつけずにいたこの感情に、当てはまるものをずっと考えていた。本当は分かっていて見ないふりをしていたんだと思う。
たった一人のことで頭の中を埋めつくされて、無謀な行動をして。勘違いなんかじゃない。
なんとかそれを伝えるため必死で言葉を紡いでいると、なぜか大きな手が目の前に広げられて止められた。きっと柊の言おうとしていることが分かっているだろうに、嫌だった?と不安になる。
しかし広がった指越しに見えた夕里の顔は、もう片方の手で口元を覆っているにしても赤く、締まりなく崩れていた。「え、どーしよ嬉しすぎる……夢?これは夢か?」などとぶつぶつ聞こえる状況は夢だろうか?
互いに現実を夢現に感じる数秒が過ぎ去って、夕里はなにかを決心したみたいに表情を引き締めた。柊の肩に両手が置かれ、強い視線に射抜かれる。
「俺、柊さんのことが好きです。だから、その……俺と付き合ってくれませんか」
「え……あ……う。うぅっ……」
「え!?どうして泣くんですか!」
わからない。いざ言葉にされると逆に信じられない。
頭は混乱しているのに、身体は先走って喜びの涙を流すのだからやっぱり嬉しいのだろう。親指でそっと目の下を拭われて、もう一度視線を交わらせた。
涙の膜越しに見える、意志の強そうな目。顔立ちは整っているのに圧を感じさせない、優しい顔立ち。背丈があって顔が小さくて。少し硬そうな黒髪。
この人が、自分を……と思うだけで胸がきゅうと痛くなって、思わず夕里に抱きついた。
広い胸が柊を当たり前のように受け止めてくれる。その事実に静かに感動しながらも、止まらない涙を彼の服に押し付けた。
「ぐ。かわいい……あの、柊さん?とりあえず……二人になれる場所へ行きませんか?」
「……うん。行こう。……ふぁぁ」
いままで生きてきた中でも、最高に幸せな瞬間だ。でも驚いて安心して、直後に訪れたのは圧倒的な眠気だった。
どうしてここに居たのかと訊かれ、今朝からの行動を説明しつつ、もう逃さないという強い意思を込めて夕里の手を引いて歩く。
眠気をこらえながらポツポツと説明し、なんだかいろいろと驚かれ、感激している様子の彼に構うことなくホテルまでの道を戻った。とにかく眠い。
「え……ここ…………」
「ん?――あぁ!!ち、違う。違うんだ!」
ホテルに入る手前で夕里が立ち止まり、先に進んでいた柊もガクッと前に進めなくなった。ポカンと驚く彼の顔を見上げて、ようやくその理由に気づく。
壁面に光る料金表。――休憩、宿泊、フリータイム。
違う!違うんだって~~~!
難なく体重を支えた夕里が、柊を横抱きにする。展開について行けないし、こっちは軟体動物のようにふにゃふにゃになっているから成すすべもない。
「この人は、俺の……くそ!俺が一番最初に見つけたんです!」
「あはは、締まらねぇな~ユリ」
夕里が誰かに向かって宣言し、友人だろうか?からかうような野次が飛んでくる。彼はそのまま移動し、バーカウンターで柊を座らせ支払いを済ませた。
バーテンやさっき話していた人たちが口々に「お幸せに」と声を掛けてくるのがいたたまれない。顔に熱がのぼって、アルコールもまた回ってきた気がする。
なんで最後にお酒頼んじゃったんだろう……僕のばか。
「立てますか?」
「う、うん……」
さすがにお姫様抱っこで外に出るつもりはないみたいだ。柊はふらふらする脚をなんとか動かし、夕里に支えられながら店を出る。途端にざわめきが遠のき、夜の静けさに包まれる。
夕里はキューンと効果音をつけたくなるほど眉を下げ、なんともしょんぼりした顔でこちらを上目遣いに見つめてくる。
「ごめんなさい。俺また暴走しちゃって、みんなの前で……嫌でしたよね」
「えっいや?びっくりしたけど……その……嬉しかったっていうか……き、気持ちよくて訳わかんなくて」
耳に残響が残ってぼやぼやする中で、しかししっかりと夕里の声は聞こえた。
また馬鹿正直に、言わなくてもいい言葉まで口からこぼれていく。彼の行動に「もしかして」と舞い上がって。気持ちいいとか事実だけど、ほんとうに恥ずかしい。
夕里が視線を落としていた柊のあごを指先で持ち上げる。そのまま視線も上がって、ジトっとこちらを見つめる目と目が合った。
「柊さん……俺、勘違いしますよ?さっきの男も言ってたように、その他大勢の男と一緒ですか?そんないい匂い撒き散らして……勘違いさせられてます?」
「勘違いじゃない!ぼく、ぼくは……ゆりくんのことが」
「あー!ストップ!待って、俺から言わせて」
自分の夕里に対する気持ち。ずっと名前をつけずにいたこの感情に、当てはまるものをずっと考えていた。本当は分かっていて見ないふりをしていたんだと思う。
たった一人のことで頭の中を埋めつくされて、無謀な行動をして。勘違いなんかじゃない。
なんとかそれを伝えるため必死で言葉を紡いでいると、なぜか大きな手が目の前に広げられて止められた。きっと柊の言おうとしていることが分かっているだろうに、嫌だった?と不安になる。
しかし広がった指越しに見えた夕里の顔は、もう片方の手で口元を覆っているにしても赤く、締まりなく崩れていた。「え、どーしよ嬉しすぎる……夢?これは夢か?」などとぶつぶつ聞こえる状況は夢だろうか?
互いに現実を夢現に感じる数秒が過ぎ去って、夕里はなにかを決心したみたいに表情を引き締めた。柊の肩に両手が置かれ、強い視線に射抜かれる。
「俺、柊さんのことが好きです。だから、その……俺と付き合ってくれませんか」
「え……あ……う。うぅっ……」
「え!?どうして泣くんですか!」
わからない。いざ言葉にされると逆に信じられない。
頭は混乱しているのに、身体は先走って喜びの涙を流すのだからやっぱり嬉しいのだろう。親指でそっと目の下を拭われて、もう一度視線を交わらせた。
涙の膜越しに見える、意志の強そうな目。顔立ちは整っているのに圧を感じさせない、優しい顔立ち。背丈があって顔が小さくて。少し硬そうな黒髪。
この人が、自分を……と思うだけで胸がきゅうと痛くなって、思わず夕里に抱きついた。
広い胸が柊を当たり前のように受け止めてくれる。その事実に静かに感動しながらも、止まらない涙を彼の服に押し付けた。
「ぐ。かわいい……あの、柊さん?とりあえず……二人になれる場所へ行きませんか?」
「……うん。行こう。……ふぁぁ」
いままで生きてきた中でも、最高に幸せな瞬間だ。でも驚いて安心して、直後に訪れたのは圧倒的な眠気だった。
どうしてここに居たのかと訊かれ、今朝からの行動を説明しつつ、もう逃さないという強い意思を込めて夕里の手を引いて歩く。
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「え……ここ…………」
「ん?――あぁ!!ち、違う。違うんだ!」
ホテルに入る手前で夕里が立ち止まり、先に進んでいた柊もガクッと前に進めなくなった。ポカンと驚く彼の顔を見上げて、ようやくその理由に気づく。
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違う!違うんだって~~~!
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