上 下
13 / 56

13.*

しおりを挟む
 夕里の股の間で主張するものに気付いたとき、やっと柊は自分の身に起きていることを把握した。――彼は自分に欲情しているのだ、と。
 耳元で謝られて、その低い声と耳にかかる息にも腰が震えた。言葉とは裏腹に、夕里の手は止まらない。
 柊は戸惑いながら自分の身体を見下ろす。なんとなく自覚していたが、グレーの下着にはもう先走りが滲んでそこだけ色が変わっていた。

 今されていることが気持ち悪かったら、決してこんな風にはならない。下着越しに触れてくる手は、どう見ても男の手だ。大きくて、血管が浮いていて、熱い。
 言われるがまま目を閉じても、脳裏に浮かぶのはいま後ろにいる男だ。さっきまで向かい合って酒を飲んでいた男が、欲情して柊に好き勝手触れている。

 現実を理解してもやっぱり夕里を気持ち悪いとは思えなかったし、正直なところ性的に触られるのだって気持ちよくて仕方がない。

「んぁ!ゆりくぅん……どうしよっ。ね、きもちいい……」
「あ~~~くそっ」

 柊は後ろを振り返って夕里の顔を見上げ、助けを求めるように窮状を訴えた。
 間近で見た男前な顔は酒を飲んでいたときよりも真っ赤になり、黒い瞳は興奮に潤んでいる。

「んんぅ!?︎」

 ガブリと口元に噛みつかれ、驚く唇に舌が這わされた。歯と舌で唇を痛いくらい激しく愛撫される。
 粘膜接触から伝わってくる情熱に、柊は再び混乱の中に突き落とされた。

(え……これってキス?初めてなんですけどぉ~!?)

 自分の想像していたキスとは違いすぎるが、唇同士が合わさっている時点でキスなのだろう。
 学生時代に夢見ていたファーストキスのシチュエーションが、ガラガラと崩れ去っていく幻影が見えた。誰もいない教室、夜の公園。付き合って一ヶ月の女の子。あの……初心者には優しくお願いします。

「は……ッ。ゆり、く、んぅ……」
 
 ハイレベルなキスに内心大混乱だったものの、身体の興奮は収まっていなかった。数秒遅れて、鼻から抜けた甘い声が自分のものだと気づく。
 柊の手は無意識に、夕里の肩を掴んでいた。
 
 そのとき――下着から取り出されたペニスが直接握られ、その強い刺激に頭の中が真っ白になった。全てが初めてのこととはいえ、そこはまた違う。
 自分とは異なる手に、いつもと違う強さ、知らない触り方。予測できない動きで扱かれれば、感じたことのない快感に否応もなく高まっていく。

 絶頂を迎えるまではあっという間だった。涙を流す先端を抉るように親指で刺激された瞬間、柊は腰を浮かせて達する。

「あっ。だめ!もう……っあ~~~~~!!!」
「ひいらぎさん……、きです」

 自慰とは段違いの快感が全身を駆け抜け、目の前がチカチカと白む。あまりもの開放感に、出ては駄目なものまで出てしまったんじゃないかと、思わず自分の下肢を目視で確認する。
 前だけ寛げられたデニムから覗くのは、くたっと力尽きた自分のペニス。そして白濁まみれになった夕里の手だった。とりあえず漏らしてはないみたいだけども……。うわぁっ……。

 腹を抱いていたもう片方の腕が服の中から出てきて、近くにあったティッシュを取る。茫然とそれを見つめていると、手をあらかた拭いた夕里は新しいティッシュを取り、柊のペニスを優しく持ち上げて拭いた。

「ひゃうっ。ゆゆゆゆりくん!そんなところ……あっ」
「気持ちよかったですか?」
「ひぁ……」

 ぢゅう、と吸われるようなキスを項に受けながら、ペニスは先端までティッシュで柔らかく拭き取られる。その刺激にピュッと残滓が飛び出して、また夕里の手を汚した。

「あはは。最後までちゃんと出せて、偉いですね」
「う、うぅ~~」
「可愛い。ね、俺のも、手伝ってくださ……うわぁっ!」
「か、帰る!」

 完全にキャパオーバーだった。
 性的に触れられた時点で、いや、ソファで抱きしめられた時点で柊の許容範囲はとっくに超えていた。こちとらピカピカの童貞だし、しょ……処女なのだ。
 前触れもなくバッと立ち上がり、夕里が驚いているのにも構わず玄関へと走る。玄関の下駄箱の上に自分の財布とスマホがきちんと置かれていて、喉の奥がキュッと痛くなった。こういうところが……なぁ。

「柊さんっ……」
 
 数秒置いて夕里が追いかけて来たけど、もう顔を見る勇気もない。今日は恥ずかしいことばかりだ。
 マッサージで変な声をだしちゃうし、家ではあられもない姿を見られちゃうし……自分の、あんな場所に触られるなんて。しかもそれを喜んでしまうなんて……

 直前の出来事を思い返すだけで、情けなくて涙が浮かんでくる。ポタッと涙が床に落ちる。慌てて手で目元を擦った。

「ゆりくん、…………ごめん」
「ちがっ……待ってください!」

 靴を履いて、振り返らないまま家を出る。背後で夕里がまだ何か言っていたけど、聞く余裕もないまま階段を駆け下りた。
 
 余裕がなくなるといつもそうだ。相手の言葉を聞けなくて、自分の思うままに行動してしまう。
 仕事ならまだ正しい方向を向けていることがわかるのに、恋愛となると何が正しいのかもわからないから手に負えない。

 涙で住宅街の景色が歪んで、自分だけ知らない世界に飛び込んでしまったみたいだ。右も左もわからなくて怖い。
 夕里には申し訳ないけど、一旦家で冷静になってこの失態をどう処理すべきか考えたい。
 
 恋愛なんて、隣の席の女の子に仄かな恋心を抱いたことしかないのだ。
 ん?というか、恋愛って誰が言った……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

学級委員長だったのにクラスのおまんこ係にされて人権がなくなりました

ごみでこくん
BL
クラスに一人おまんこ係を置くことが法律で義務化された世界線。真面目でプライドの高い学級委員長の高瀬くんが転校生の丹羽くんによっておまんこ係堕ちさせられてエッチな目に遭う主人公総受けラブコメディです。(愛はめちゃくちゃある) ※主人公総受け ※常識改変 ※♡喘ぎ、隠語、下品 ※なんでも許せる方向け pixivにて連載中。順次こちらに転載します。 pixivでは全11話(40万文字over)公開中。 表紙ロゴ:おいもさんよりいただきました。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...