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 「そういえば、ゆりくんには人見知りしないどころか最初から素を見せてしまってる気がする……」
「初めて声掛けたときは、すごい嫌そうでしたけどね。柊さんの疲れ顔を見て、なんとかしなきゃーって使命感に駆られました」
「はは、おかげで助かったよ。ゆりくんは……いや、なんでもない」
「?じゃあ今日はロングコースということで。よろしくお願いします」
「お願いします!」

 初めて休日に店を訪れた柊は、妙な緊張を抱えていた。予約も取りにくかったし、見えないものの店内には多くの客がいることを感じる。
 さらに今日の柊はひと味違う。思い切ってロングコースで予約してみたこともそうだし、休日なのにエナジードリンクを飲んだので全く眠くならないのだ。
 今日こそ、夕里のゴッドハンドを体感するぞ!

 しかしさっそく温かいアイマスクを目元に当てられ、柊は狼狽えた。目元の血流を良くするためらしいが……なんだこれは。気持ちいい……。
 柊が今日はいつもより緊張して起きていることに、夕里も気づいているに違いない。いつもの落ち着く声だが、説明しながら柊に触れてきた。
 二度目に訪れたときから、柊が案内されるのはいつも一番奥の部屋だ。ここなら多少会話していても、他の客には聞こえまい。

「デコルテのマッサージからしていきますね」
「ひゃ」
「あ。やっぱり……」
「ひゃああっ」

 でこるて?とすばやく脳内変換ができずにいた柊の鎖骨下に大きな手が触れる。ぐっと指先で押されるのを感じた瞬間、そこからビリビリ!と電流が流れたように感じた。胸元から全身に伝わって、声に出さなければ抑えられない。
 ――く、くすぐったすぎるーーー!
 
 鎖骨周辺をタオル越しに指圧され、流すように擦られ、身体が暴れそうになるのを必死で押し留める。くすぐったさを抑えるようにか強めに触れてくれているのを感じる。
 適度な痛みを感じるおかげで、やっと柊はくすぐったさを頭から半分ほど追い出すことができた。

「大丈夫ですか?」
「……ゆりくん……」

 手が止まったことに気づいたので目元のアイマスクを外し、若干涙目になって見上げる。心配そうに柊を見下ろしていた夕里とバチッと目が合って、彼はらしくなく狼狽えた。
 顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。薄暗い部屋ではよく見えない。

「ッ……ごめんなさい!俺、自分の技術を過信してました。やっぱり今日も通常コースにしましょう」
「いい!続けてくれ。たぶん、いや絶対に。すぐ慣れるから……」
 
 やっぱりやめましょうと告げた夕里は、耳をへにょんと垂れさせて落ち込む大型犬に見えてくる。そのしょんぼりする様子にキューンと胸を掴まれ、自分の方が罪悪感でいっぱいになった。
 彼に自信喪失させてしまったのは、柊がくすぐったがりなせいだ。あと無理矢理起きていようとしたせい。

 柊はもう一度しっかりと覚悟を決めた。
 たった数分だが、後半は痛気持ちいい感覚に上手く集中できていた。起きているのなら、くすぐったさ以外の部分に意識を持っていけばいいのだ。脚でもつねっていようかな?
 今のは前哨戦みたいなもので、ここからドライシャンプーをしてヘッドマッサージが始まるらしい。ウッ。負けない……!
 
 未知の感覚に尻込みしながらも柊は夕里を安心させるよう視線を合わせ、マッサージを続けてもらえるよう頼んだ。目元はまだ潤んでいるが致し方ない。

「実はエナドリを飲んできたせいで、今日は眠くないんだ。確かにくすぐったいが気持ちよさもあった。このまま続けてほしい」
「もうっ、駄目じゃないですか。休日にまでそんなもの飲んだら……」

 こいつオカンみたいだな……なんて失礼なことを考えつつ、もう一度アイマスクを装着する。視界が真っ暗になると他の感覚が鋭敏になってしまうことを初めて知ったが、目元を温められるのは思いのほか気持ちよくホッとする。これ売り物かな?帰りに買おう。
 
 なんとかアイマスクに意識を集中しているなか、ドライシャンプー用のスプレーが頭に吹きかけられる。清涼感のある冷たさ、ミントの爽やかな香り。これは大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。
 通常コースでもセットになっているドライシャンプーは、仕事後のベタついている……かもしれない頭皮をスッキリさせて、臭いも吹き飛ばしてくれるありがたい代物だ。

 スプレーを塗り拡げるように、髪に夕里の手が差し込まれる。生まれつき猫っ毛のショートカットは、彼の手を妨げないだろうか……あっ、

「ひゃああんっ」
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