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「んぅ……んー?」
「アクア、飲んで」
「ん」

 ベッドに連れてゆき、自分に背中を凭れさせて飲み物を与える。子どものように半分目を閉じたまま、アクアは与えられたものを飲んだ。

 オメガの発情期は、準備しておかなければ食事さえ十分に取れない。これまでひとりでどうしていたのか……考えるだけで過去に戻って世話してやりたくなるほど、彼も例に漏れず性欲に支配され、ふにゃふにゃしていた。
 ブラッドのいないときはほとんど自分でコントロールできていたと聞く。しかし今のアクアは本能のままの姿を晒し、すべてをブラッドに預けきっているのだ。
 
 こんなにも愛おしいものを手に入れてしまって、変わらないでいられる人間がいるだろうか?
 ブラッドはずっと支配しかしずかれる側だったのに、今はどうだ。伴侶のためなら召使いにも奴隷にもなれる。それがこんなにも幸せなことなのだと、人は体験するまで気づけない。

 アクアはやはり喉が乾いていたのか、栄養剤入りのジュースをすぐに飲みきった。乱れているときは妖艶で、精を受けつかの間落ち着くと素直な赤子のようになる。
 ブラッドがグラスをサイドテーブルに置こうと身体を動かしただけで、離れた身体を追いかけるようにぴたりとくっついてくる。

「なんだこの可愛い生き物は……」
「ぶらっどさまぁ。お腹、さびしぃ……」
「あぁ。今度こそ、な」
「あ、来た……ひゃあん!」

 氷の瞳に情欲を浮かべたアクアの要望に応え、後ろから陰茎を挿入する。蕩けきって柔らかい胎内は、再会を歓ぶようにキュウキュウ絡みついてきた。
 身体を四つ這いにさせ、細い腰を掴む。快感にゆがむ顔を見たくて正面から繋がることが多いとはいえ、後背位は本能的にグッと来るものがある。
 挿入部が丸見えだ。小さな尻なのに、めいっぱいに広がって受け入れてくれることが嬉しい。

 腰を引くと、愛液に濡れてらてらと光る自身が見える。アクアが背筋をくねらせ、快感を表す。

「あ!ぶらっど、さま……あ~っ!奥、もっと突いて……んッ!」
「アクア……」

 何度も名を呼びトントンと奥を先端でノックすれば、もっともっとと強請ねだられる。アクアの花芯からは押し出されるようにぴゅっぴゅっ!と薄い精液が飛び出した。
 汗ばむ手で逃げないように腰を押さえ、狭い奥にペニスを潜り込ませていく。再び膨らみはじめたノットが後孔を広げる。

「あ、そこ……!だめ、なんか来ちゃう……っ」
「アクア、番になろう……俺を、受け入れてくれ」

 身体を倒し、金色の髪を振り乱して悶えるアクアの唇を掴まえる。噛み付くようなキスの合間にアクアへと許可を求めた。
 潤む目と目が合って、その光に捉われる。映り込んだグリーンがその瞳に閉じこめられた。

「きて……してっ……ください。愛、してますブラッドさま…………ぁ」
「アクア……俺もだ」

 自ら顔を伏せたアクアの髪を掻き上げ、白い項を露出させる。味見するように舌を這わせれば、彼の全身が震えた。
 すぅっと胸いっぱいにフェロモンを吸い込むと、犬歯が疼く。アクアの最奥が解け、先端を誘う。

「愛してる。ずっと」
 
 ぐぷんっと屹立の根元まで押し込み、今まで入ったことのなかった場所へ侵入すると同時、ブラッドは項の中心に本能のままガブリと噛み付いた。

「ん……っ。ぅぁ、あ、あ゛~~~~~っ!!!」

 ブチ、と歯が皮膚を喰い破り、なぜか甘い匂いが鼻腔に広がる。その刹那に感じたのは――全身が沸き立つような、歓喜。
 アクアが自分にとっての唯一となり、ブラッドが彼にとっての唯一となったのだ。一斉に肌が粟立ち、情熱を彼の中に注ぎ込む。
 ガクガクと痙攣するアクアの身体を強く抱きしめる。

「あ……あ…………」
「……ありがとう。アクア」

 傷口を舐めるとあっという間に血が止まり、赤い歯形が残った。この細く繊細な首には……大きすぎたかもしれない。
 
 発情期が明けたら渡そうと思っているシルクのチョーカーは、極細の絹糸を織った最高級の品だ。色は濃いグリーンだが透けるほど薄い生地。その真ん中に、アクアマリンを飾る。
 初めてのアクセサリーはアクアの美貌を華やかに彩るに違いない。それにブラッドの色を纏っていれば、これから外の世界も楽しんでいくであろう彼がであるか、見た人に示すことができるだろう。
 
 ブラッドの用意した贈り物でも隠しきれない、番の証。見ているだけで胸に熱い想いが満ちる。

 (幸せだ……)

 月並みな感想を抱いている自分が可笑しい。シーツに頭をつけて余韻に浸るアクアを仰向けに転がし、濡れる泣きぼくろにキスを落とす。
 アクアも幸せそうにふわりと笑った。

「ぅらっとしゃま……つがい、うれしー」
「かわいいかわいいかわいい!……可愛すぎる番がもう私の奥さんって、最高なんだが!?」
「んぅ?……ひゃ、あぁっ」

 背中が浮くほどぎゅうぎゅうと抱擁すると、いまだに繋がったままの場所からグチュ、と音が鳴る。番の子種は発情期を早く終わらせると聞くが、自分はまだまだ満足できそうにない。
 アクアの発情期が自然と終わるのが先か、ブラッドが満足するのが先か。――答えは明けてみてのお楽しみだ。

 まだ夜は長い。屋敷の外では数多の星が海に浮かんでいる。ふたりだけの島は月夜に輝き、静かな波音に包まれていた。



END



――――――――――



お読みいただきありがとうございました!
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みんなの感想(2件)

ゆるだらくん

やばいです
尊すぎませんか??

おもちDX
2024.07.17 おもちDX

嬉しいです!
最強CPのぴゅあぴゅあ初恋ですから…尊いですよね〜✨

解除
まーた
2024.07.09 まーた

アクア君きゃわわっ💕🥰
癒されました…
投稿ありがとうございます🙇💕

おもちDX
2024.07.09 おもちDX

アクアはとてつもないギャップの持ち主です💕
引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。
感想ありがとうございました!✨

解除

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